石舞台に舞う王朝の舞楽 ― 四天王寺聖霊会の舞楽

毎年4月22日、大阪・四天王寺の六時堂前にある石舞台で、装束をまとった舞人がゆっくりと足を運ぶ。舞台の四隅には、赤い紙でつくられた巨大な曼珠沙華が立てられる。声明が流れるなか、その合間を縫うように舞楽が奉じられていく。聖徳太子の命日に営まれる法会「聖霊会」のなかで舞われるこの舞楽は、「四天王寺聖霊会の舞楽」の名で重要無形民俗文化財に指定されている。

舞楽とは、雅楽の演奏に合わせて舞う芸能をいう。演目は大きく二系統に分かれ、中国・インド系の様式をもとにした左舞と、朝鮮半島を経て伝わった右舞がある。四天王寺ではこの左右両方の舞が、独立した公演としてではなく、法要の進行に組み込まれた形で受け継がれてきた。

天王寺楽所がつないだもの

四天王寺は推古天皇元年(593年)、聖徳太子の創建と伝わる日本最初の官寺の一つである。ここに属した楽人たちは秦河勝を祖と仰ぎ、やがて朝廷の雅楽を担う有力な楽所の一つに数えられるようになった。京都の宮中、奈良の南都、そして天王寺。これら三方楽所が、長く日本の雅楽の伝承を支えてきた。

その流れが断たれかけたのが明治である。東京遷都に伴い、多くの楽師が天皇に従って東に移り、のちの宮内省楽部へと吸収された。残された天王寺方は人を欠き、存続が危ぶまれた。明治17年(1884年)、願泉寺の住職であった小野樟蔭が大阪に残る楽師と篤志家を集めて「雅亮会」を組織し、初代会長となる。この会が現在の天王寺楽所雅亮会であり、今も春ごとに舞楽を奉じている。

指定の理由

聖霊会の舞楽が重要無形民俗文化財に指定されたのは、昭和51年(1976年)5月4日のこと。この区分で最初に指定された30件のうちの一つだった。指定上の保持団体は天王寺舞楽協会である。その前年、昭和50年12月には、記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として国の選択をすでに受けていた。

守られているのは、一つの舞そのものというより、舞楽の「あり方」である。聖霊会では、平安の頃に行われていたように、舞楽が宗教儀礼のなかに置かれたまま演じられる。なかでも「菩薩」と「獅子」の二曲は、いまではほとんど失われた伎楽の名残をとどめる演目で、これらが四天王寺に残っていることが、ここの舞楽を日本最古級の様式とされる所以の一つになっている。

見どころ

舞は一度に出そろうわけではない。唄・散華・梵音・錫杖からなる四箇法要の進行に合わせ、その節目ごとに舞われていく。聖徳太子の像と仏舎利が行道によって六時堂へ渡御し、安置されてから、石舞台が動き出す。

初めに舞われるのは、鉾を手に場を清める「振鉾」、続いて朝鮮半島系の「蘇利古」。独特の面をつけて舞うこの曲のあと、伎楽由来の「菩薩」「獅子」、子どもが鳥の羽や蝶の羽を負って舞う「迦陵頻」「胡蝶」、甲冑をまとった重厚な「太平楽」などが続く。注目したいのは左方と右方の対比だ。赤い装束の左舞は一方から、緑の装束の右舞はもう一方から登場し、この左右の別が法要全体を貫いている。

舞が始まる前に、石舞台そのものにも目を向けたい。元和9年(1623年)に再建されたこの舞台は重要文化財に指定されており、六時堂と亀の池の間に据えられ、左右二つの階段をもつ常設の舞台として知られる。

四天王寺を訪ねる

四天王寺は大阪市天王寺区にある。最寄りは大阪メトロ谷町線の四天王寺前夕陽ヶ丘駅で、徒歩数分。JRや地下鉄が集まる天王寺駅からも歩いて15分ほどで着く。聖霊会は曜日にかかわらず4月22日に営まれ、舞楽の拝観は無料。近年は当日の様子がライブ配信されており、現地に足を運べない人も見ることができる。

聖霊会の日でなくとも、境内は訪ねる価値がある。中心伽藍は、南から北へ門・塔・金堂を一直線に並べる古い配置を保ち、「四天王寺式伽藍配置」の名のもとになった。北東の極楽浄土の庭は、参拝客でにぎわう一画とは別の静けさをもつ。周辺には四天王寺前の骨董市、慶沢園、展望台のあるあべのハルカスなどがあり、いずれも徒歩圏内にまとまっている。

Q&A

Qいつ、どこで見られますか。
A毎年4月22日、四天王寺の六時堂前の石舞台で奉じられます。平日に当たっても日付は動きません。
Q拝観に料金はかかりますか。
A聖霊会での舞楽の拝観は無料で、どなたでもご覧になれます。石舞台の周囲は舞が始まる前から混み合うため、早めの到着がおすすめです。
Q左舞と右舞は何が違うのですか。
A左舞は中国・インド系の様式をもとにし、赤い装束で舞います。右舞は朝鮮半島を経て伝わり、緑の装束を用います。両者が交互に登場します。
Q舞台の四隅にある赤い花は何ですか。
A紙でつくられた巨大な曼珠沙華です。石舞台を法会の聖なる場として示すもので、聖霊会を象徴する光景として知られます。
Qこの伝統はどれほど古いのですか。
A四天王寺は楽の起こりを7世紀に結びつけ、舞は平安期の宮廷の形を残すとされます。現在演じている雅亮会は、天王寺方の伝統を継ぐため明治17年(1884年)に組織されました。

基本データ

名称四天王寺聖霊会の舞楽
所在地大阪府大阪市天王寺区 四天王寺
指定区分重要無形民俗文化財
指定年月日昭和51年(1976年)5月4日(昭和50年12月8日に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択)
保持団体天王寺舞楽協会(伝承は天王寺楽所雅亮会)
奉納日毎年4月22日、聖霊会の法会のなかで
会場六時堂前の石舞台(石舞台は重要文化財、元和9年=1623年再建)
拝観無料
アクセス大阪メトロ谷町線・四天王寺前夕陽ヶ丘駅から徒歩数分

参考文献

文化遺産オンライン(国立文化財機構)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/136637
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/302/426
和宗総本山 四天王寺(公式サイト)
https://www.shitennoji.or.jp/
The Kansai Guide「天王寺舞楽(聖霊会の舞楽)」
https://www.the-kansai-guide.com/ja/article/item/20012/

最終更新日: 2026.06.04