今城塚古墳:日本唯一の「歩ける大王墓」
大阪府高槻市の住宅街に静かに佇む今城塚古墳は、日本の古代史において極めて特別な存在です。第26代継体天皇(531年没)の真の陵墓と考えられるこの巨大な前方後円墳は、天皇陵(大王墓)でありながら自由に中に入って歩き回ることができる、日本で唯一の古墳です。宮内庁が管轄するほぼすべての天皇陵が立入禁止とされる中、今城塚古墳では墳丘を散策し、200点以上の復元埴輪が並ぶ祭祀場を間近に見ることができます。1,500年の時を超えた古代のモニュメントに直接触れることができる、かけがえのない場所です。
6世紀に築かれた巨大前方後円墳
今城塚古墳は、古墳時代後期の6世紀前半に築造された前方後円墳です。墳丘の長さは190メートルに達し、二重に巡らされた濠を含めた総長は約350メートル、総幅は約340メートルにも及びます。これは淀川流域で最大規模の墳墓であり、築造当時の6世紀前半においても最大級の古墳でした。
古墳は摂津北部、三島平野のほぼ中央に位置しています。「三島」と呼ばれたこの地域には、古墳時代の早い段階から飛鳥時代に至るまで約700基にもおよぶ古墳が築かれ、大小さまざまな墳墓や埴輪を生産した窯跡、工人たちの集落も見つかっています。まさに古墳時代の縮図ともいえる歴史の宝庫です。
継体天皇の真の陵墓
古墳の形状や出土した埴輪の年代的特徴、さらには『古事記』『日本書紀』『延喜式』などの文献資料の検討から、今城塚古墳は6世紀のヤマト政権の大王墓であり、被葬者は第26代継体天皇(聖徳太子の曾祖父)であるとするのが学界の定説となっています。
興味深いことに、宮内庁は今城塚古墳から1.3キロメートル西にある大阪府茨木市の太田茶臼山古墳を継体天皇陵に治定しています。しかし、太田茶臼山古墳の築造は5世紀半ばと考えられており、継体天皇が没した年代よりもかなり古い時代の古墳であることが判明しています。この歴史的な「誤認」こそが、今城塚古墳が一般に公開されている理由です。天皇陵と認定されなかったために宮内庁の管轄とならず、発掘調査が可能となり、そして市民に開かれた史跡公園として整備されることになったのです。
国史跡に指定された理由
今城塚古墳は昭和33年(1958年)に「日本の歴史を跡づけるかけがえのない貴重な文化財」として国の史跡に指定されました。平成3年(1991年)には新池埴輪製作遺跡が追加指定され、平成18年(2006年)には古墳北側部分も追加されています。
その学術的価値は多岐にわたります。
- 淀川流域最大の前方後円墳であり、古墳時代後期の大王墓の築造技術を示す第一級の遺構です。
- 高さ約1.7メートルの日本最大の家形埴輪をはじめ、武人、力士、巫女、馬、鶏など200点以上の形象埴輪が出土しています。
- 北側内堤から発見された「埴輪祭祀区」は、大王陵における埴輪祭祀の実態を初めて明らかにしたもので、考古学的に極めて重要な発見です。
- 附指定の新池埴輪製作遺跡は、粘土の調達から窯での焼成まで、埴輪生産の全工程を示す遺跡であり、王権を支えた産業基盤の実像を伝えています。
見どころ・魅力
大王の埴輪まつり — 埴輪祭祀場
今城塚古墳最大の見どころは、内堤に復元された埴輪祭祀場です。発掘調査の成果に基づき、家、人物、動物、武器、儀礼用具など190点以上の実物大レプリカ埴輪が整然と並べられ、大王の葬送儀礼の光景が再現されています。中国の秦始皇帝の兵馬俑に例えられることもあるこの壮大な光景を、間近で眺め、一部の埴輪には実際に触れることもできます。1,500年前の儀式の世界を体感できる、他に類を見ない貴重な空間です。
墳丘散策 — 古代の森を歩く
今城塚古墳では、墳丘の上を自由に歩くことができます。クヌギやシイなどのドングリ林が自然に回復した墳丘には木漏れ日が差し込み、まるで森の中を散歩しているような穏やかな時間を過ごせます。要所には16基の解説板が設置されており、石組みで支えられた石室の基礎構造、慶長伏見地震(1596年)による崩壊跡、築造当初の姿を残す南西隅部など、古墳の歴史を学びながら散策できます。
今城塚古代歴史館
古墳公園に隣接する今城塚古代歴史館は、2011年4月にオープンした体感型ミュージアムです。入館料は無料でありながら、ガラスケースなしで間近に見られる出土埴輪、3基の復元石棺、古墳築造の実物大ジオラマ、映像展示など、充実した内容を誇ります。定期的に開催される埴輪づくり教室や勾玉づくり教室は、子どもから大人まで楽しめる人気の体験プログラムです。
新池ハニワ工場公園
今城塚古墳から約1.7キロメートルの場所にある新池ハニワ工場公園は、日本最古・最大級の埴輪工場跡を整備した史跡公園です。5世紀中頃から6世紀中頃まで約100年にわたり操業した大規模な生産施設で、大小合わせて18基の埴輪窯、3棟の大形工房、そして工人たちの住居群が発見されています。園内には復元された窯や工房のほか、発掘された実物の窯をそのまま展示する「ハニワ工場館」、漫画陶板による楽しい解説パネル、復元埴輪の展示などがあり、すべて無料で見学できます。
周辺情報
高槻市には今城塚古墳と合わせて訪れたい歴史・文化スポットが豊富にあります。
- 闘鶏野神社(つげのじんじゃ):名神高速道路の上を通る陸橋が参道になっている珍しい神社です。背後の丘陵には全長86.4メートルの闘鶏山古墳があります。ハニワ工場公園から徒歩約10分。
- 安満遺跡公園:約2,500年前の弥生時代の環濠集落跡を整備した大型公園。国の史跡に指定されており、JR高槻駅から徒歩約15分です。
- 高槻城跡公園・しろあと歴史館:戦国時代から江戸時代にかけての高槻の歴史を紹介する博物館です。
- 摂津峡:高槻市北部にある景勝地で、ハイキングや四季の自然を楽しめます。
四季の楽しみ
今城塚古墳公園は一年を通じて美しい景観が楽しめます。春には桜が公園の緑地を彩り、初夏には瑞々しい新緑が墳丘の森を覆います。秋には紅葉が黄金と紅に染まり、冬の澄んだ空気の中では古墳の壮大なスケールがいっそう際立ちます。毎年8月20日は地元で「はにわの日」に制定されており、埴輪にちなんだ特別なイベントや体験活動が開催されます。また、毎年秋に開かれる古墳フェス「はにコット」では、マルシェやワークショップなど多彩な催しが行われ、多くの来場者で賑わいます。
Q&A
- 入場料・入館料は本当に無料ですか?
- はい、今城塚古墳公園と今城塚古代歴史館は常設展示を含めてすべて無料です。特別展のみ有料の場合がありますが、通常の見学は一切費用がかかりません。新池ハニワ工場公園とハニワ工場館も無料で見学できます。
- アクセス方法を教えてください。
- JR京都線「摂津富田駅」(大阪駅から約20分、京都駅から約25分)から、高槻市営バス「奈佐原行き」に乗車し、「今城塚古墳前」で下車すぐです(バス約10分)。阪急京都線「富田駅」からはJR摂津富田駅まで徒歩約5分です。駅からの徒歩は約30分かかるため、バスまたはタクシー(約10分、920〜1,000円程度)のご利用をおすすめします。歴史館に無料駐車場(約35台)があります。
- 埴輪に触ることはできますか?
- 埴輪祭祀場に並ぶ復元埴輪の多くは、触ったり写真撮影をしたりすることができます。ただし、乗ったり座ったりすることはお控えください。一部立入禁止のエリアもありますので、案内表示に従ってお楽しみください。なお、歴史館内に展示されている発掘品は実物です。
- 見学にどれくらいの時間が必要ですか?
- 古墳公園と歴史館をゆっくり見学する場合、1時間半〜2時間程度が目安です。新池ハニワ工場公園も合わせて訪れる場合は、さらに1時間ほどお見込みください。高槻市観光協会のモデルコースでは、JR摂津富田駅を起点にバス利用で約1時間35分、徒歩の場合は約1時間55分とされています。
- 外国語の案内はありますか?
- 今城塚古代歴史館では英語のパンフレットを用意しています。また、高槻市観光協会の公式サイトには英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語の情報ページがあります。園内の案内板は主に日本語ですが、ジオラマや実物の埴輪展示、復元埴輪祭祀場は視覚的に楽しめる内容ですので、言語の壁を越えて古代のロマンを体感していただけます。
基本情報
| 正式名称 | 史跡 今城塚古墳 附 新池埴輪製作遺跡 |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定史跡(昭和33年2月18日指定、平成3年・平成18年追加指定) |
| 種別 | 前方後円墳(古墳)・埴輪生産遺跡 |
| 築造時期 | 6世紀前半(古墳時代後期)/埴輪工場:5世紀中頃〜6世紀中頃 |
| 被葬者(推定) | 第26代 継体天皇(531年没) |
| 規模 | 墳丘長190m、総長約350m×総幅約340m(二重濠を含む)、指定面積約85,210㎡ |
| 所在地 | 大阪府高槻市郡家新町48-8(今城塚古墳)/高槻市上土室1丁目(ハニワ工場公園) |
| 歴史館開館時間 | 10:00〜17:00(入館は16:30まで)/休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始 |
| 入場料 | 無料(公園・歴史館とも) |
| 駐車場 | 歴史館に無料駐車場あり(約35台)、10:00〜17:30 |
| アクセス | JR京都線「摂津富田駅」→高槻市営バス「奈佐原行き」→「今城塚古墳前」下車すぐ(約10分) |
| お問い合わせ | 今城塚古代歴史館 Tel: 072-682-0820 |
参考文献
- 史跡今城塚古墳 — 高槻市ホームページ
- https://www.city.takatsuki.osaka.jp/site/history/4569.html
- 今城塚古墳公園 — 高槻市ホームページ
- https://www.city.takatsuki.osaka.jp/site/history/4648.html
- いましろ大王の杜 — 高槻市観光協会公式サイト
- https://www.takatsuki-kankou.org/imashiro-daio/
- 今城塚古墳 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E5%9F%8E%E5%A1%9A%E5%8F%A4%E5%A2%B3
- ハニワ工場公園 — 高槻市ホームページ
- https://www.city.takatsuki.osaka.jp/site/history/4650.html
- 今城塚コース — 高槻市観光協会 散策モデルコース
- https://www.takatsuki-kankou.org/model-course/imashirozuka.html
- 今城塚古墳 | 歴史街道
- https://www.rekishikaido.gr.jp/timetrip/journey/kodaishi/rekishi-imashirozukakofun/
- 史跡新池ハニワ工場公園 — tabi-mag.jp
- https://tabi-mag.jp/os0235/
最終更新日: 2026.03.08