菅笠の村に残る旧家の屋敷構え
石川家住宅は、大阪市東成区深江南にある旧深江村の旧家の屋敷で、江戸時代末期の主屋と、明治22年(1889年)頃から昭和前期にかけて整えられた蔵・門・塀の計6件が、令和5年(2023年)2月27日に登録有形文化財となった。
登録されたのは主屋、段蔵、道具蔵、長屋門、南西塀、北東塀の6件である。所有者はいずれも株式会社イシカワで、登録番号は27-0864から27-0869まで連番で並ぶ。
建物の年代には幅がある。主屋は文化庁のデータベースで1830年から1868年の間とされ、段蔵・長屋門・2つの塀は明治22年頃、道具蔵はそれより新しい昭和前期の建築である。1つの屋敷が半世紀以上をかけて形を整えてきた経過が、そのまま6件の年代の差になっている。
深江という土地
文化庁の解説は、6件すべてを「旧深江村の旧家」の建物として書き起こしている。
東成区役所の紹介によると、深江は古くから良質の菅が自生した土地で、大和の笠縫邑から笠づくりの一族が移り住んだと伝わる。江戸時代には伊勢参りの旅人が道中の笠をここで買い求め、深江の菅笠は名産として知られた。菅で編んだ皿敷きは、明治・大正のころに海外へも送られたという。
区の紹介は、深江の地域に白壁や土蔵の町並みが残ることにも触れている。石川家住宅の長屋門と塀は、その町並みのうち通りに面した一角をつくっている。
洪水に備えた屋敷
石川家住宅の6件を並べて読むと、水害への備えが屋敷の随所に表れていることが分かる。
令和4年(2022年)11月の文化審議会答申の資料によれば、段蔵は明治18年(1885年)の洪水被害のあとに建てられた土蔵で、高い石垣の上に建つ「段蔵」と呼ばれる形式をとる。同じ資料は、主屋の吊り仏壇についても、洪水に備えた知恵を伝えるものとして挙げている。
一方、段蔵の南隣に建つ道具蔵は平地に建つ。文化庁の解説は、同じ屋敷の2棟の土蔵が立つ高さを違えていることに、用途の違いを読み取っている。それぞれの蔵に何を納めていたかまでは、解説には書かれていない。
屋敷の配置
敷地の南辺に長屋門が開く。その西から南西塀が延び、南西の角を隅切りにして北へ折れ、主屋の西にあった別棟座敷の跡まで延長41メートルにわたって続く。
敷地の北西隅には段蔵が建つ。北西を指す「乾」の方角から、解説では乾蔵とも呼ばれている。その南、西辺の北寄りに道具蔵が並び、南北に土塀を連ねて屋敷の外郭をつくる。
北東塀は北辺の土蔵から北東の隅で直角に折れ、東辺を主屋の北東隅まで延長29メートルにわたって巡る。主屋は敷地の東寄りに建ち、長屋門の東側には登録の対象になっていない付属屋が続く。
主屋と段蔵は「造形の規範となっているもの」、道具蔵・長屋門・南西塀・北東塀は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。建物そのものの出来と、門や塀が通りにつくる景観の両面から評価された屋敷である。
見学について
石川家住宅は株式会社イシカワが所有する私有の屋敷で、定期的な一般公開の案内は確認できなかった。内部や敷地内は見学できないものと考えておきたい。
長屋門と2つの塀、それに段蔵と道具蔵は敷地の外周に沿って建つため、周囲の道路から外観を見ることができる。撮影は公道からにとどめ、門の内側へ立ち入らないこと。周辺は住宅地なので、長く立ち止まる場合は通行の妨げにならないよう気を配りたい。
最寄り駅はOsaka Metro千日前線の新深江駅で、屋敷までは東へ歩いて10分ほどである。
答申の資料は、段蔵を地域住民の取り組み「深江まるごとミュージアム」の展示建物としても紹介している。この取り組みを通じて公開の機会が設けられることがあるかどうかは、確認できなかった。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014493
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅段蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014494
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅道具蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014495
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅長屋門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014496
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅南西塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014497
- 国指定文化財等データベース(文化庁)石川家住宅北東塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014498
- 文化庁 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)令和4年11月18日 別紙資料
- https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/93791601_02.pdf
- 文化遺産オンライン 石川家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/525997
- 大阪市東成区 深江の菅笠(ふかえのすげがさ)
- https://www.city.osaka.lg.jp/higashinari/page/0000000307.html
- 大阪市東成区 深江地域の紹介
- https://www.city.osaka.lg.jp/higashinari/page/0000220727.html
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 石川家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大阪市東成区深江南三丁目120-1 |
| 所有者 | 株式会社イシカワ |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 34.67017, 135.56118 |