大磨上げされた太刀に、金で刻まれた名

この刀の茎には、地肌に金を嵌め込んだ二文字がある。指裏に「元重」、表には花押を添えた「本阿弥」の銘。いずれも、この刀を鍛えた刀工の手によるものではない。

刃長は87.6センチ、反りは1.8センチと浅い。もとはこの寸法ではなかった。南北朝時代、二つの朝廷が並び立った十四世紀の備前国で打たれた大太刀が、この刀の前身である。後年、茎の側から大きく切り詰める磨上げ、それも大磨上げと呼ばれる大幅な仕立て直しを受けた。茎を詰めれば、そこに切られていた製作者の銘も失われる。金象嵌の二文字は、鍛えられてから三百年ほどのちに、作者を書き留めるために加えられたものである。

昭和29年(1954年)3月20日、重要文化財に指定された。

備前の刀工・元重

備前国、いまの岡山県南東部は、前近代の日本で最も多くの刀を生んだ地である。山地から川が運ぶ砂鉄に恵まれ、なかでも長船の地は国内随一の作刀の中心地として栄えた。元重は南北朝期にこの長船で鍛刀した刀工である。

古来の鑑定書は元重を同時代の上手として位置づけ、その作を切れ味の最上位「最上大業物」に数える。系譜の上では、相州貞宗に学んだとされる門人三人「貞宗三哲」の一人にも挙げられるが、実際の作風に相州伝の色合いは薄く、この結びつきは慎重に扱われている。

その作を見分ける手がかりは、刃文の傾きにある。多くの刀工が丁子の頭を切先のほうへ傾けて焼くのに対し、元重はこれを茎のほう、すなわち後方へ倒した。これを逆丁子と呼ぶ。本作の刃文も、広い直刃を基調としながら、そこに逆丁子と短い逆足が交じる構成になっている。

指定の理由は銘だけにあるのではない。地鉄の鍛えと刃中の働きはともに優れ、寸を縮められたのちもなお健全な状態を保っている点が評価されている。

金象嵌銘が意味するもの

本阿弥家は、室町期から幕末に至るまでおよそ五世紀にわたり、将軍家や大名家のために刀剣の鑑定・研磨・手入れを担った家である。その目利きの結論を、本阿弥家は刀身そのものに記す方法を持っていた。磨上げによって銘を失った刀には、当主が極めた刀工名を地に金で象嵌する。これが金象嵌銘である。磨上げを経ていない無銘の刀には、代わりに朱漆で記した。名の脇に添えられた花押は、鑑定した当主の個人的な記号であり、いわば署名にあたる。

本作の花押は、本阿弥宗家11代当主・光温(1603〜1667年)のものである。光温は「光温押形」を著した目利きで、その前後の代の極めは、後世の蒐集家が最も信頼を置いたものとして知られる。二つの銘を合わせて読むと、鍛刀から長い時を経て下された一つの判断が浮かび上がる。無銘で磨上げられたこの刀は元重の作であると、光温は自らの名を金で添えて極めたのである。

見どころ

まず姿が時代を語っている。身幅は広く、反りは浅く、切先は大きい。この大鋒は、長大で堂々とした刀が好まれた十四世紀半ばの好みを示すもので、見慣れた目には輪郭だけで時代が読める。

近づいて地肌を見ると、板目の鍛えに細い黒い筋の地景が入り、地沸が散る。切先の刃である帽子は乱れ込み、先で小さく丸く返る。刀身の表裏には棒樋が彫られ、樋は茎のほうへ搔き流される。大きく詰められたその茎には、いまは目釘孔が一つと、失われた銘の代わりとなる金の文字が残るのみである。

元重の作に会える場所

本作そのものは個人の所蔵で、常時の公開はされていない。旅程に組み込んで実物の前に立つことは難しい。ただし、近い性格の作には触れることができる。

東京国立博物館は、越前松平家に伝来した無銘の元重極めの一口を収蔵している。刀剣の展示は入れ替えがあるため、訪れる前に出品の有無を確かめておきたい。この刀を生んだ伝統そのものを知るなら、岡山県瀬戸内市の備前長船刀剣博物館がよい。かつての作刀の地に建ち、備前刀を入れ替えで展示するほか、日を決めて鍛刀や研磨の実演を行っている。ここで職人の手を見れば、上に挙げた専門用語も実感として読み解けるようになる。

Q&A

Qこの刀は元重自身が銘を切ったのですか。
Aいいえ。後年に茎の側から大きく磨上げられた際、刀工本来の銘は失われました。「元重」の金象嵌は、のちに鑑定家がこの刀を誰の作と極めたかを書き留めたもので、刀工が切った銘ではありません。
Q「本阿弥」と花押は何を示しているのですか。
A本阿弥家は将軍家に仕えた刀剣鑑定・研磨の家系です。名に添えられた花押は、宗家11代当主・本阿弥光温(1603〜1667年)の個人的な署名にあたり、この極めを保証する印として機能します。
Qこの刀は博物館で見られますか。
A現状では見られません。個人蔵で、常時公開はされていません。近い作を見るなら、無銘の元重極めを収蔵する東京国立博物館や、備前刀全般を扱う岡山県の備前長船刀剣博物館を訪ねるとよいでしょう。
Qなぜこれほどの古刀をわざわざ短くしたのですか。
A十四世紀の大太刀は、後の世には帯びるには長すぎました。寸を詰めて使いやすい長さにすることで、由緒ある古い刀を時代の変化のなかで現役として残せたのです。銘の喪失はその代償であり、だからこそ本阿弥家の金象嵌による極めが重んじられました。
Q元重の作はどこで見分けるのですか。
A最もよく知られる特徴は逆丁子の刃文で、丁子の頭が切先側ではなく茎側へ後方に倒れます。これに南北朝期の身幅広く大鋒の姿と板目の鍛えが加わると、見る者に明快な手がかりを与えます。

基本情報

名称刀〈金象嵌銘元重/本阿弥(花押)〉
指定区分重要文化財(工芸品)
指定年月日昭和29年(1954年)3月20日(指定番号01714)
時代南北朝時代(十四世紀)
作者元重(備前長船)
極め本阿弥光温(宗家11代)による金象嵌銘
寸法刃長87.6センチ/反り1.8センチ
員数1口
所有個人
公開常時公開なし。国の指定では所在を兵庫県として記録。

References

国指定文化財等データベース(文化庁)記録201/6515
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6515
名刀幻想辞典「元重」
https://meitou.info/index.php/元重
名刀幻想辞典「本阿弥」
https://meitou.info/index.php/本阿弥
刀剣ワールド(ホームメイト)本阿弥家と折紙
https://www.touken-world.jp/tips/25735/
刀剣ワールド(ホームメイト)長船鍛冶
https://www.touken-world.jp/tips/7835/

最終更新日: 2026.06.14