白鬚神社の田楽:佐賀県唯一の中世芸能が息づく秋祭り

佐賀市久保泉町の川久保地区にひっそりと佇む白鬚神社。毎年10月18日・19日の秋季例祭になると、この静かな境内は華やかな装束をまとった子どもたちの優雅な舞で彩られます。「白鬚神社の田楽」は、2000年(平成12年)に国の重要無形民俗文化財に指定された、佐賀県内に現存する唯一の田楽です。華麗な花笠をかぶり美しく女装した少年たちがササラを鳴らしながら舞う「稚児田楽」は、中世の芸能の姿を今に伝える貴重な伝統であり、地域の人々の手によって大切に受け継がれてきた生きた文化遺産です。

歴史的背景

白鬚神社は、6世紀半ば頃に近江国(現在の滋賀県)から移り住んだ人々が、白鬚大明神の分霊を勧請して創建したと伝えられる古社です。勧請に奉仕した19の家はいずれも姓に「丸」の字がつくことから「丸持」の家と呼ばれ、「丸祭」と称する古式の祭りを代々伝承してきました。祭神は猿田彦命で、旧社格は村社です。

田楽は平安時代に起源をもつ芸能で、もともと田植えの際に笛や鼓を奏しながら歌い舞ったものが、やがて形を整えて専業化し、神社仏閣に奉奏されるようになったと考えられています。かつては日本各地で盛んに行われていましたが、時代の変遷とともに多くが失われ、現在まで伝わるものは大変稀少です。

白鬚神社における田楽の史料上の初見は、寛文5年(1665年)に編纂された『肥前古跡縁起』です。次いで享保19年(1734年)に建立された石鳥居に「時奏村田楽」と刻まれていますが、それ以外の古い記録は乏しく、いつこの地に伝えられたのかは明らかではありません。

文化財指定の理由

白鬚神社の田楽は、2000年(平成12年)12月27日に国の重要無形民俗文化財に指定されました。その指定理由には、いくつかの重要な文化的価値が認められています。

まず、佐賀県内に現存する唯一の田楽であり、かつて全国的に流行した中世芸能の貴重な遺存例であることです。次に、子どもが主体となって演じる「稚児田楽」という特に希少な形態を保持していることが挙げられます。さらに、精巧な衣装や化粧、年齢ごとに定められた役柄、ゆったりとした独特の所作など、古い演技慣行が良好に保たれている点も高く評価されました。

加えて、この田楽が川久保地区の人々の手によって地域の生活文化と一体となって守り継がれてきたことも、民俗文化財としての価値を高めています。

見どころ・魅力

演者と役柄

田楽は約15名の演者によって演じられ、それぞれが伝統的な役割を担います。最も華やかなのが4名の「ササラツキ」です。少年たちが美しく女装し、顔に化粧と点彩(てんさい)を施します。波と兎の紋様がある青地の着物を身にまとい、黒の繻子帯を前で結んでその両端を長く垂らします。後頭部には女性のかもじを下げ、大きな花笠をかぶります。花笠は割竹を編んで紙を貼ったもので、造花をつけた竹ひご数十本が突き刺してあり、その上に古鏡二面を取り付けた女帯を垂らすという壮麗なものです。手にはササラ(編木)を持ち、これを鳴らしながら舞います。

幼児2名も登場します。「ハナカタメ」は鉢巻を締め、造花をつけた棒と扇を持ちます。「スッテンテン」は金色の立烏帽子をかぶり、小鼓と扇を持ちます。青年2名が務める「カケウチ」は、腰の前に太鼓を吊るし、背中に金銀で飾った木刀を負います。そして大人7名が笛を担当し、舞楽全体の音楽を支えます。

演技の流れと舞台

田楽は、神社の拝殿前に設けられた「玉垣」と呼ばれる青竹の囲いの中で行われます。当日の早朝、田楽衆はみそぎをして身を清め、午前11時頃に社務所に集まって衣装の着付けや化粧を行います。正午頃から始まる奉納では、三三九度・つきさし・さざれすくいなど6曲の舞が、笛の音に合わせてゆったりとした動きで約1時間半にわたって演じられます。

手作りの「花」とお守り

演者の花笠を飾る「花」は、地元の女性たち約20名の手によって祭りの前に一つ一つ丁寧に作られます。奉納が終わると、この花は参詣者にお土産として配られ、自宅に飾ってお守りにするという美しい風習があります。神社の祝福が地域の家々に届けられる、心温まる伝統です。

訪問案内

白鬚神社の田楽は、毎年10月18日・19日に奉納されます。演技は正午頃から始まり、約1時間半続きます。観覧は無料です。

公共交通機関でのアクセスは、佐賀駅バスセンターから佐賀市営バス「伊賀屋・清友病院線」に乗車し、「上分公民館前」バス停で下車、徒歩約2分です。お車の場合は、長崎自動車道の佐賀大和インターチェンジから約20分です。なお、専用駐車場はございませんので、祭り当日は係員の指示に従ってください。

田楽は雨天でも中止にはなりません。古くからの決まりにより、天候にかかわらず必ず奉納されます。雨天の場合は、屋外の玉垣内ではなく拝殿の中で行われることがあります。天候に備えた準備をしてお越しください。

周辺の見どころ

久保泉町とその周辺には、田楽の見学と合わせて訪れたい文化・自然スポットがあります。

龍田寺(りゅうでんじ) — 同じ久保泉町にある真言律宗の寺院で、国指定重要文化財の「木造普賢延命菩薩騎象像」を本尊とします。鎌倉時代末期の正中3年(1326年)に、南都興福寺の大仏師・康俊によって造られた傑作で、4頭の白象に乗る二十臂の菩薩像は大変見応えがあります。

金立公園 — 白鬚神社から車で約10分。金立山のふもとに広がる総合公園で、徐福長寿館や薬用植物園があります。10月にはコスモス園が満開を迎え、田楽の時期とちょうど重なります。長崎自動車道の金立サービスエリアから徒歩でもアクセスできます。

吉野ヶ里歴史公園 — 車で東へ約15分。弥生時代(紀元前3世紀~紀元後3世紀)の大規模集落遺跡を保存・復元した国営歴史公園で、復元された竪穴住居や物見やぐらを見学でき、古代日本の暮らしに触れることができます。

佐賀城本丸歴史館 — 佐賀市中心部まで車で約20分。佐賀城の本丸御殿を忠実に復元した歴史博物館で、佐賀藩の歴史や日本の近代化に果たした役割を学ぶことができます。

Q&A

Q白鬚神社の田楽はいつ見られますか?
A毎年10月18日・19日の秋季例祭で奉納されます。正午頃から始まり、約1時間半にわたって演じられます。
Q観覧料はかかりますか?
A無料です。どなたでもご自由にご覧いただけます。
Qこの田楽の特徴は何ですか?
A子どもたちが主役となって演じる「稚児田楽」であることが最大の特徴です。特にササラツキ役の少年たちが身にまとう華やかな女装姿と、造花で飾られた壮大な花笠は、大変見応えがあります。また、佐賀県内で唯一現存する田楽でもあります。
Q雨天の場合は中止になりますか?
Aいいえ、雨天でも中止にはなりません。古くからの決まりで天候にかかわらず必ず奉納されます。雨天の場合は拝殿内で行われることがあります。
Q佐賀駅からのアクセス方法を教えてください。
A佐賀駅バスセンターから佐賀市営バス「伊賀屋・清友病院線」に乗車し、「上分公民館前」バス停で下車してください。バス停から白鬚神社まで徒歩約2分です。お車の場合は、長崎自動車道の佐賀大和インターチェンジから約20分です。

基本情報

名称 白鬚神社の田楽(しらひげじんじゃのでんがく)
文化財指定 国指定 重要無形民俗文化財
指定年月日 平成12年(2000年)12月27日
所在地 佐賀県佐賀市久保泉町大字川久保3466 白鬚神社
開催日 毎年10月18日・19日 正午頃より
観覧料 無料
保存団体 白鬚神社の田楽保存会
お問い合わせ 白鬚神社 TEL:0952-98-0164
アクセス バス:佐賀駅バスセンターから市営バス伊賀屋・清友病院線「上分公民館前」下車、徒歩約2分/車:長崎自動車道 佐賀大和ICから約20分

参考文献

白鬚神社の田楽 - さがの歴史・文化お宝帳
https://saga-otakara.jp/search/detail.html?cultureId=5345
白鬚神社の田楽 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%AC%9A%E7%A5%9E%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%94%B0%E6%A5%BD
白鬚神社の田楽(国指定重要無形民俗文化財) - 久保泉町
https://www.tsunasaga.jp/kuboizumi/2015/09/post-1.html
白鬚神社の田楽(国指定・重要無形民俗文化財) - あそぼーさが(佐賀県観光サイト)
https://www.asobo-saga.jp/events/detail/336d455f-d7de-44b2-8282-8163986528df
白鬚神社の田楽(国指定・無形民俗文化財) - 佐賀市観光協会 サガバイドットコム
https://www.sagabai.com/main/?cont=event&eid=61344
白鬚神社 (佐賀市) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%AC%9A%E7%A5%9E%E7%A4%BE_(%E4%BD%90%E8%B3%80%E5%B8%82)
白鬚神社の田楽 - 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/302/732

最終更新日: 2026.04.13