呼子の大綱引き:玄界灘の港町に受け継がれる400年の伝統行事

毎年6月の第一週末、佐賀県唐津市呼子町は熱気に包まれます。町を二分して繰り広げられる「呼子の大綱引き」は、直径15センチメートル、長さ200メートルにもおよぶ大綱を老若男女が力を合わせて引き合う壮大な祭りです。2013年に国の重要無形民俗文化財に指定されたこの行事は、約430年もの歴史を持ち、その勝敗によって漁業と農業の豊凶を占うという、漁港の町ならではの深い意味が込められています。

歴史的背景

呼子の大綱引きの起源は、文禄・慶長の役(1592〜1598年)の時代に遡ります。朝鮮出兵の拠点として東松浦半島に名護屋城を築いた豊臣秀吉が、出陣を待つ将兵たちの士気を高めるため、加藤清正と福島正則の陣営を東西に分け、軍船の綱を使って綱引きを行わせたことが始まりと伝えられています。

この軍事的な行事は、やがて呼子の町民の間に根付き、地域の豊穣を祈願する祭りへと発展しました。もともとは旧暦の端午の節句に行われていましたが、現在では毎年6月の第一土曜日と日曜日の2日間にわたって開催されています。祭りの運営と伝承は「呼子大綱引振興会」が担い、地域一丸となって伝統を守り続けています。

文化財指定の理由

文化庁は2013年3月12日、呼子の大綱引きを国の重要無形民俗文化財に指定しました。指定の主な理由として、400年以上にわたり途切れることなく伝承されてきた地域共同体の綱引き行事として、その形態が非常によく保存されている点が挙げられます。

町を「サキカタ(浜組)」と「ウラカタ(岡組)」に分けて引き合い、浜組が勝てば豊漁、岡組が勝てば豊作になるとされる信仰は、漁業と農業の両方に依存する沿岸集落の生活文化を色濃く反映しています。また、綱の中心部「ミト」の製作、若衆(ワッカシ)による銅鑼を打ちながらの地区巡行、初節句を迎えた家への訪問など、綱引き本番に至るまでの一連の儀礼も豊かな民俗学的価値を有しています。

見どころ・魅力

初日:子供綱とミト作り

祭りは2日間にわたって行われます。初日の土曜日には、唐津市役所呼子市民センター前で「子供綱」が開催され、子どもたちが伝統を体験します。同時に、熟練した職人たちによって大綱の中心部である「ミト」が作られます。ミトは二本の綱を結合する要であり、勝敗を決する神聖な象徴でもあります。

2日目:大人綱

日曜日がクライマックスです。午前中、ワッカシ(若衆)たちが銅鑼を叩きながら各地区を巡回し、寄付をした家や初節句を迎えた家を訪問して酒肴のもてなしを受けながら、徐々に三神社前へと集まっていきます。正午過ぎの神事に続き、午後1時頃から大人綱が始まります。三神社前の道路上にミトが中心に来るように大綱が置かれ、銅鑼と火矢の合図とともに、町民も観光客も一体となって綱を引き合います。

祭りの雰囲気

会場は興奮と歓声に包まれます。年齢も性別も関係なく、誰もが綱を握りしめ、声を張り上げて引き合います。綱引きが行われる道路には、岡組側(豊作)と浜組側(大漁)を示すタイルの図柄が描かれ、中央線(ミト)と勝敗線を示す3本のラインが引かれています。観光客も飛び入り参加が可能で、地元の方々と一緒に汗を流す貴重な体験ができます。

来訪者向け情報

呼子の大綱引きは毎年6月の第一土曜日・日曜日に開催されます。土曜日の午後に子供綱、日曜日の午後1時頃から大人綱が行われます。会場は唐津市呼子町の三神社前周辺です。公共交通機関ではJR唐津線西唐津駅から昭和バス呼子行きに乗車し、「呼子」バス停下車(約35〜47分)。車の場合は九州自動車道多久インターチェンジから約60分です。周辺に有料駐車場があります。お問い合わせは呼子市民センター産業・教育課(電話:0955-53-7165)まで。

周辺情報

呼子は大綱引きだけでなく、多彩な魅力にあふれた港町です。何といっても有名なのが「イカの活造り」。玄界灘で獲れたばかりの透明なイカを、町内の多くの飲食店で味わうことができます。また、石川県の輪島、岐阜県の高山と並ぶ「日本三大朝市」のひとつ「呼子朝市」は、元旦を除き毎朝7時30分から正午まで開催され、約200メートルの朝市通りに新鮮な魚介類や干物、野菜、名物の「いかしゅうまい」などが並びます。

歴史に興味がある方には、豊臣秀吉が20万の兵を集結させた名護屋城跡がおすすめです。隣接する佐賀県立名護屋城博物館では、ARタブレットを借りて往時の五層天守を再現した映像を楽しめます。国の天然記念物に指定されている七ツ釜では、遊覧船「イカ丸」に乗って玄武岩の海蝕洞窟を間近に見学できます。さらに、波戸岬の海中展望塔や、呼子大橋を渡った先の加部島にある風の見える丘公園、古社・田島神社なども見どころです。

Q&A

Q観光客も綱引きに参加できますか?
Aはい、日曜日の大人綱には観光客の方も飛び入り参加が可能です。どちらかの組の綱を握って、地元の方々と一緒に引き合う体験ができます。
Q雨天の場合はどうなりますか?
A基本的には雨天でも開催されますが、荒天の場合は変更となる場合があります。事前に呼子市民センター(電話:0955-53-7165)にご確認ください。
Q綱引きの勝敗にはどんな意味がありますか?
A岡組(ウラカタ)が勝てば豊作、浜組(サキカタ)が勝てば大漁になるとされています。漁業と農業の両方に支えられてきた呼子の集落ならではの吉凶占いです。
Q福岡からのアクセスは?
A福岡市内から車で西九州自動車道・国道経由で約90分です。公共交通機関の場合は、JR筑肥線・唐津線で唐津駅または西唐津駅まで行き、昭和バスで呼子まで約35〜47分です。
Q祭り以外の呼子の見どころは?
A新鮮なイカの活造りが楽しめる飲食店、日本三大朝市のひとつ「呼子朝市」、七ツ釜の遊覧船クルーズ、名護屋城跡と名護屋城博物館、波戸岬、呼子大橋と加部島など、見どころが豊富です。呼子台場みなとプラザでは日帰り温泉も楽しめます。

基本情報

名称 呼子の大綱引き(よぶこのおおつなひき)
指定区分 国指定重要無形民俗文化財(2013年3月12日指定)
所在地 佐賀県唐津市呼子町(三神社前)
開催日 毎年6月第一土曜日(子供綱)・日曜日(大人綱)
保護団体 呼子大綱引振興会
綱の寸法 長さ約200メートル、直径約15センチメートル
問い合わせ 呼子市民センター産業・教育課(電話:0955-53-7165)
アクセス JR西唐津駅から昭和バス呼子行き約35〜47分「呼子」下車/九州自動車道多久ICから車で約60分

参考文献

呼子の大綱引き - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/187534
国指定重要無形民俗文化財 呼子の大綱引き/唐津市
https://www.city.karatsu.lg.jp/manabee/kyoiku/kyoiku/inkai/bunkazai/bunkazaihogo/yobukonoootunahiki.html
呼子の大綱引き - 佐賀デジタルミュージアム
http://www.saga-els.com/sdm/gallery/items/show/1552
国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/302/00000889

最終更新日: 2026.04.10