朝日屋原薬局 ― 旧引又宿の通りに残る薬種商の屋敷

朝日屋原薬局は、埼玉県志木市本町2丁目にある明治20年(1887年)頃創業の薬局で、明治45年(1912年)に現在地へ移って建てた店舗兼用住宅の主屋をはじめ、敷地に残る7棟が平成15年(2003年)7月1日に登録有形文化財(建造物)として登録された。

読みは「あさひやはらやっきょく」。「朝日屋」が屋号で、「原」は店を開いた原家の姓にあたる。続けて読むと区切りを取り違えやすい名前である。

登録は1棟ごとに行われており、主屋・土蔵・物置・洋館・離れ・門及び塀・東雲不動尊祠の7件が、それぞれ11-0049から11-0055までの登録番号を持つ。志木市は朝日屋原薬局を、明治・大正期に栄えた薬局の典型を示す建物群であり、当時の暮らしを知ることのできる文化財と位置づけている。

朝日屋原薬局の創業と現在地への移転

市の広報誌によると、朝日屋は明治20年頃、初代の原林吉が現在の朝霞市浜崎から移り住んで商いを始めた。市のウェブサイトは創業を「明治20年代」としており、年には幅をもたせて読むのがよい。

扱ったのは薬だけではなかった。創業のころから新しい化学製品に力を入れ、絵具と染料を主力に、化成品やビール、ガラスなどの雑貨まで手広く売っている。仕入れ先は主に東京の日本橋で、品物は浅草花川戸から新河岸川の舟運で志木河岸へ運ばれた。店頭での小売りに加え、所沢・飯能・石神井の方面へも卸したという。

明治45年に店は現在地へ移り、主屋を新築した。同じころに土蔵・物置・東雲不動尊の祠が建ち、大正時代の中頃には主屋の一部が増築された。昭和7年(1932年)に洋館、昭和9年(1934年)に離れが加わり、20年余りのあいだに今の屋敷の構えがそろっている。

家業は代を重ねるごとに薬の比重を高めていった。二代目の原林三は薬剤師の資格を取り、家庭薬の製造や医師向けの医薬品の販売を手がけた。三代目の原昭二も薬剤師として家業を継ぎ、東京大学薬学部で薬化学を研究したのち東京薬科大学の教授を務め、平成5年(1993年)に紫綬褒章を受けている。

引又宿の名主屋敷の跡

朝日屋原薬局が建つ本町の一帯は、江戸時代に引又宿と呼ばれた町場である。市の広報誌によれば、この敷地には幕末のころ、引又宿の名主を務めた星野家の屋敷があった。弘化4年(1847年)8月から3年ほど名主の任にあった星野半右衛門は日記を残しており、幕末の引又や江戸の様子を細かく書きとめた「星野半右衛門日記」は志木市の指定文化財になっている。

店の前にはかつて野火止用水が流れ、その用水端に明治44年(1911年)建立の道路標識が立っていた。用水が暗渠になったときに標識は敷島神社の境内へ移され、朝日屋原薬局の店先には原家が個人で作った複製が置かれている。

朝日屋原薬局の屋敷配置 ― 通りから東の奥へ

屋敷地は東西に細長い。西側の通りに面して主屋が建ち、その南側に門と塀が続いて屋敷の表構えをつくる。洋館は主屋の南側に建てられた。

主屋の後方、敷地のほぼ中央に土蔵があり、その東に物置、さらに東に東雲不動尊の祠が並ぶ。いちばん奥の東端に建つのが離れである。

表通りに店を開き、奥へ向かって蔵や物置、屋敷神、家族の住まいを順に置くこの並びは、間口に対して奥行きの深い町場の商家の敷地にかなったものといえる。各棟の構造と見どころは、それぞれのページで詳しく扱っている。

朝日屋原薬局の見学について

朝日屋原薬局は個人の所有で、内部は公開されていない。志木市も志木市観光協会も非公開の物件として案内しており、見学は公道から外観を眺める形に限られる。敷地には立ち入れない。

通りから見えるのは、主屋の店構えと、その南に続く門及び塀が中心になる。土蔵から離れまでの建物は屋敷地の中ほどから東端にかけて建つため、表通りからはほとんど見えない。撮影についての公式な案内は見当たらないので、写すなら公道から、人が暮らす屋敷であることに配慮してほしい。

最寄り駅は東武東上線の志木駅で、東口から北へ約1.5キロメートル、歩いて15〜20分ほどかかる。バスを使う場合は、志木駅東口から志木市役所方面へ向かう国際興業バスか東武バスウエストに乗り、「市場坂上」で降りれば屋敷の前まで1〜2分で着く。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003380
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003381
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局物置
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003382
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局洋館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003383
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局離れ
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003384
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局門及び塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003385
国指定文化財等データベース(文化庁)朝日屋原薬局東雲不動尊祠
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003386
志木市 国登録有形文化財 朝日屋原薬局
https://www.city.shiki.lg.jp/site/hisyo/2644.html
志木市 広報しき 2025年2月号「国登録有形文化財 朝日屋原薬局」
https://www.city.shiki.lg.jp/uploaded/attachment/16880.pdf
志木市観光協会 歴史/指定文化財
https://kanko-shiki.com/%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%83%BB%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B/%E6%AD%B4%E5%8F%B2-%E6%8C%87%E5%AE%9A%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称朝日屋原薬局
所在地埼玉県志木市本町二丁目1618
所有者個人
指定登録有形文化財 7件
座標35.83377, 139.57969