秩父往還に東面する江戸後期の店構え
武甲酒造柳田総本店店舗は、埼玉県秩父市宮側町にある江戸後期の商家建築で、平成16年(2004年)2月17日に国の登録有形文化財に登録された。
建物は旧秩父往還、現在の柳田通りに東面して建つ。木造2階建、切妻造、鉄板葺、平入。正面には桟瓦葺の下屋庇が通り、その下が店の入口になる。文化庁のデータベースは構造を「金属板葺」、解説文では「鉄板葺」と記しており、建築面積は329平方メートル。年代は江戸後期、西暦では1751年から1829年の幅で示されている。年号を一つに絞れていないのは、建立を直接示す棟札などが確認されていないためだろう。
正面に立って気づくのは、とにかく背が低いことである。軒が近く、屋根勾配も緩い。2階は横に長い開口部として扱われ、細い桟の格子戸が建て込まれている。積み上げた「2階」というより、水平に伸びた帯のように見える。同じ通りに並ぶ明治以降の建物と比べると、その差は一目でわかる。
1階正面は柱間を大きく開けた開放的な構えで、通りと売場が地続きになる江戸の商家の作法をそのまま残す。
蔵元の創業は宝暦3年(1753年)。銘柄「武甲正宗」は、秩父盆地の南に石灰岩の断面をさらす武甲山にちなむ。会社の由緒によれば、酒造蔵・穀蔵・枯らし蔵は八代目亀吉が数年をかけて建て、店舗はさらにその先代の遺構と伝わる。建物の年代幅と、この口伝はおおむね符合する。
登録という制度―指定との違いを押さえる
この建物は「登録有形文化財」であって、「重要文化財」や「国宝」ではない。両者はしばしば混同されるが、制度としては別物である。
登録制度が発足したのは平成8年(1996年)。指定という強い規制が及ばない、築50年程度を経た膨大な建造物群が、手当てされないまま失われていく状況への対応として設けられた。登録物件の所有者は、現状変更にあたって許可ではなく届出を行えばよい。使い続けることも、必要に応じて手を入れることも認められる。武甲酒造の店舗が今日も酒を売る現役の売場であり続けているのは、この制度設計と無関係ではない。
台帳上の登録番号は11-0060、第40回登録。登録年月日は平成16年2月17日、告示は同年3月4日である。適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。
この基準の選ばれ方には注意を払っておきたい。造形として傑出していると評価されたわけではない。秩父の町並みが、この一棟を欠いたときにどれだけ違って見えるか、という判断である。評価の単位が建物単体ではなく場所に置かれている。
登録の翌々月にあたる平成16年4月30日には、秩父市長が来社して登録有形文化財のレリーフ授与式が行われた。プレートは店内、売場の一角に掛かっている。買い物に気を取られていると通り過ぎてしまう位置にある。
名水の水場と、店内に残る道具たち
中庭には水場が2箇所あり、常時水が流れている。武甲山の石灰岩層を通ってきた「武甲山伏流水」で、平成20年(2008年)6月4日に環境省が「平成の名水百選」に選定した。この地に蔵を構えて以来の仕込水であり、営業時間内であれば容器持参で自由に汲んで帰れる。無料。20リットルのポリタンクを提げて訪れる人も珍しくない。
店に入る前に、正面をひととおり眺めておきたい。藍染の大暖簾、昔ながらの木看板、軒下に吊るされた酒林(杉玉)。先代が使った和釜が外に据えられ、巡礼路を示す石碑も近くに立つ。
店内では天井まわりを見上げるとよい。栗の木を用いた板屋根の構えが見え、柱には鎌掛け柱が残る。鎌や道具を掛けるための柱で、酒造とともに農も営んでいた時代の名残である。売場には秩父夜祭の屋台のミニチュアが置かれ、一升瓶の10倍にあたる一斗瓶や、瓶の形をした巨大な提灯も並ぶ。商品を見にきたはずが、道具と設えを見て時間が過ぎる。
きき酒は、窒素ガスで酸化を防ぎながら定温保冷する専用の機械で行う。無料の試飲と有料の試飲があり、運転者は利用できない。
酒蔵見学は年間を通じて実施され、入場は無料。所要は約40分で、電話(0494-22-0046)による事前予約が必要となる。案内は原則10名以上の団体を対象としているため、少人数の場合はまず問い合わせたい。見学時間は8時から16時30分。店舗から井戸、釜場、貯蔵、仕込蔵、精米所、瓶詰へと進み、きき酒で終わる。実際に仕込みの作業が動いているのを見られるのは冬期に限られる。駐車場は店舗裏にあり、乗用車20台、大型バス10台。
交通は秩父鉄道秩父駅から徒歩3分から5分、西武秩父駅からは徒歩20分ほど。秩父神社と秩父まつり会館はいずれも徒歩5分、じばさんセンターは徒歩3分の距離にある。徒歩圏には登録有形文化財の秩父鉄道御花畑駅舎、宮前家住宅主屋・表門もあり、あわせて歩けば町並みの厚みが実感できる。
住所表記について一点補足しておく。文化庁データベースの所在地は宮側町4389だが、会社案内では宮側町21-27を用いている。前者は地番、後者は住居表示にもとづくもので、指すのは同じ場所である。なお店舗は現役の売場のため、店内の撮影は事前に店の方へ声をかけたい。
Q&A
- 武甲酒造柳田総本店店舗は見学できますか。入場料はかかりますか。
- 見学できます。建物は酒造会社の売場として営業しており、店内に入って建物を見るだけであれば料金はかかりません。営業はおおむね8時から16時30分で、元旦および棚卸し等による臨時休業日を除いて開いています。酒蔵見学はこれとは別枠で、電話予約が必要です。
- 武甲酒造柳田総本店店舗は国宝や重要文化財ですか。
- いずれでもありません。国の登録有形文化財(建造物)で、登録年月日は平成16年2月17日、登録番号は11-0060です。登録は指定(重要文化財・国宝)とは別の制度で、現状変更が届出制である点など、規制の枠組みが異なります。
- 武甲酒造柳田総本店店舗へのアクセスと駐車場を教えてください。
- 秩父鉄道秩父駅から徒歩3分から5分、西武秩父駅からは徒歩20分ほどです。車の場合は店舗裏に無料駐車場があり、乗用車20台、大型バス10台を収容します。店舗横の路地を入ってすぐ右手の門が入口です。
- 武甲酒造柳田総本店店舗の井戸水は持ち帰れますか。
- 持ち帰れます。中庭2箇所の水場に「武甲山伏流水」が常時流れており、営業時間内であれば無料で汲めます。ただし容器は持参してください。平成20年に環境省の「平成の名水百選」に選定された水です。
- 武甲酒造柳田総本店店舗の酒蔵見学はどう申し込みますか。
- 電話(0494-22-0046)で事前に予約します。年間を通じて実施され、見学時間は8時から16時30分、所要約40分、入場無料です。案内は原則10名以上の団体が対象となるため、少人数の場合は可否を電話で確認してください。仕込み作業そのものを見られるのは冬期に限られます。
基本情報
| 名称 | 武甲酒造柳田総本店店舗(ぶこうしゅぞうやなぎだそうほんてんてんぽ) |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県秩父市宮側町4389(会社案内の表記は宮側町21-27) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 11-0060 |
| 指定年 | 登録年月日 平成16年(2004年)2月17日/告示 同年3月4日(第40回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、金属板葺、建築面積329平方メートル |
| 所有者 | 武甲酒造株式会社 |
| 公開状況 | 売場として公開(おおむね8時〜16時30分、元旦・臨時休業日を除く)、入場無料。酒蔵見学は要電話予約・無料、所要約40分、原則10名以上 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「武甲酒造柳田総本店店舗」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003823
- 武甲酒造株式会社「登録文化財」
- https://www.bukou.co.jp/history/history/bunkazai/bunkazai.htm
- 武甲酒造株式会社「武甲酒蔵見学」
- https://www.bukou.co.jp/kengaku/kengaku.htm
- 武甲酒造株式会社「武甲酒造の見所・必見スポット」
- https://www.bukou.co.jp/access1/supot.htm
- 環境省「平成の名水百選」武甲山伏流水(秩父市)
- https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/newmeisui/data/index.asp?info=19
- 秩父観光協会「武甲酒造株式会社」
- https://www.chichibuji.gr.jp/spot/spot-syousai53/
最終更新日: 2026.08.10