石を置いた板葺の屋根

旧新井家住宅は、埼玉県秩父郡長瀞町大字長瀞1164番地にある江戸中期の民家で、昭和46年(1971年)6月22日に国の重要文化財(建造物)に指定された。長瀞町郷土資料館の敷地内にあり、内部まで公開されている。

まず屋根を見てほしい。古民家というと茅葺を思い浮かべる人が多いが、この家の主屋根は割った栗板を葺き重ね、その上に石を並べて押さえている。釘も土も表には出ない。水は板の木理に沿って落ち、板を留めるのは石の重さだけである。

秩父盆地では、この葺き方はかつて珍しいものではなかった。栗材が容易に得られ、茅を大量に確保するのが必ずしも楽ではない土地柄だからである。長瀞町の説明はこの点をはっきり書いている。秩父地方では板葺屋根は藁葺屋根と並んでよく見られたが、現存するのは旧新井家住宅だけになった。

規模は桁行17.0メートル、梁間10.0メートル。切妻造の二階建で、上階は秩父の農家が長く続けた養蚕のための空間である。東面の下屋は茅葺、西面と北面の庇は杉皮葺で、一棟の上に三種の葺材が同居する。指定には附(つけたり)として便所一棟が含まれる。附は、主たる建造物に従属する施設をあわせて保護対象とする際の区分である。

屋根裏の祈祷札

民家の年代決定は本来やっかいな作業になる。在地の大工は図面を残さず、建物は代々の手で継ぎ足され、様式論だけでは数十年の幅に収めるのが精一杯である。旧新井家住宅がその困難を免れたのは、屋根裏に一枚の札が残っていたからだった。

札は三峰山高雲寺、神仏分離を経て現在は三峰神社となった社寺が出したもので、延享2年(1745年)の年記を持つ。この種の祈祷札は建築にあたって受け、屋根組に納めて守りとする。したがって発見は、建立年をおおむね延享2年頃と定める根拠になった。文化庁の記録も年代を「延享2頃」とする。

解説文は、大きな居間を備えること、居間と土間まわりの柱や梁が太く農家らしい姿を示すことを挙げ、秩父地方にかつて広く分布した板葺農家の典型と位置づけている。外観の意匠についても評価が加えられた。指定番号は01795。

ただし、この家は当初からここに建っていたわけではない。もとは長瀞町大字中野上、現在の町役場に近い場所にあった。重要文化財としての正式名称に「旧所在 埼玉県秩父郡野上町」と付されるのはそのためで、野上町は指定当時の自治体名、のちの長瀞町にあたる。新井家から町へ寄贈されたのち、解体して現在地に移築復元された。移築の時期について、長瀞町の公式ページは昭和49年(1974年)とし、昭和50年(1975年)3月とする資料もある。年次を引用する場合は両説がある点に注意したい。

いま見られるもの

見学は、手前に建つ長瀞町郷土資料館から入る。資料館は昭和55年(1980年)に「長瀞町緑の村」の施設として開館したもので、観覧料は住宅と共通である。

内部の構成は土間と床上四間。奥の座敷は天井を張らず、畳の上から小屋組がそのまま見上げられる。囲炉裏の煙はここを抜けていった。柱には欅と栗が使われ、いずれも鉋ではなく手斧で削られている。表面には浅い削り跡が連続して残り、光の角度によってはっきり読み取れる。近寄って見る価値がある。

土間の梁は太く、仕上げも荒い。その構造的な無骨さと、家の奥にしつらえられた床の間の繊細さとの落差に、江戸中期の秩父で名主を務めた家がどこに資材と手間を割いたかが表れている。建物として働かねばならない部分には強さを、客を迎える部分には格を、という配分である。

資料館の常設展示は、長瀞の太古から近代までを四つの時代に区切って扱う。荒川の侵食が生んだ岩畳の成り立ちなど、「地球の窓」と呼ばれる地質に関する資料も並ぶ。国指定名勝及び天然記念物の長瀞岩畳は徒歩圏、北には宝登山神社がある。

実務的な情報を挙げる。開館は10時から17時、10月から3月は16時まで。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)と12月29日から1月3日。観覧料は一般200円、小・中学生100円で、20名以上の団体割引と障がい者割引がある。駐車場あり。旅行情報サイトの一部は開館を9時と記しており、町の公表値と食い違う。訪問前に町の情報で確認するのが確実である。秩父鉄道長瀞駅から徒歩約8分。

内部に立ち入って見学できる重要文化財の民家は、全国的にみればそれほど多くない。撮影について建物単独の制限は公表されていないが、手前の展示室は扱いが異なる可能性があるため、受付で一言確認しておくとよい。

Q&A

Q旧新井家住宅は内部を見学できますか。
Aできます。手前に建つ長瀞町郷土資料館から入る形になっており、観覧料は資料館と住宅の共通です。土間や座敷に立ち入って見学できます。
Q旧新井家住宅の開館時間と観覧料を教えてください。
A長瀞町の公表では10時から17時、10月から3月は16時までです。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)と12月29日から1月3日。観覧料は一般200円、小・中学生100円で、団体割引と障がい者割引があります。9時開館と記す旅行サイトもあるため、事前に町の情報で確認してください。
Q旧新井家住宅の屋根はなぜ茅葺ではなく板葺なのですか。
A板葺は秩父地方で広く行われた葺き方で、割った栗板を重ね、石を置いて押さえます。栗材が得やすい土地の条件に合っていました。かつては藁葺と並ぶ一般的な工法でしたが、現存するのは旧新井家住宅のみで、この希少性が指定理由の大きな部分を占めます。
Q旧新井家住宅の建立年はどのように推定されたのですか。
A屋根裏から延享2年(1745年)の祈祷札が見つかったことによります。札を出したのは三峰山高雲寺、現在の三峰神社にあたる社寺です。この種の札は建築時に受けて屋根組へ納めるため、様式判断より確度の高い年代根拠になります。
Q旧新井家住宅の名称になぜ「野上町」と入っているのですか。
Aもと長瀞町大字中野上にあり、指定を受けた昭和46年当時の自治体名が野上町だったためです。日本の指定制度では旧所在地を正式名称に残すため、「旧所在 埼玉県秩父郡野上町」と付されます。野上町はのちに長瀞町となりました。
Q旧新井家住宅へのアクセスと周辺の見どころを教えてください。
A秩父鉄道長瀞駅から徒歩約8分です。駐車場もあります。国指定名勝及び天然記念物の長瀞岩畳が徒歩圏にあり、北には宝登山神社があるため、半日の行程に組み込みやすい立地です。

基本情報

名称旧新井家住宅(旧所在 埼玉県秩父郡野上町)
所在地埼玉県秩父郡長瀞町大字長瀞1164番地
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 01795/種別 近世以前・民家
指定年昭和46年(1971年)6月22日
員数1棟(附として便所1棟)
寸法桁行17.0メートル、梁間10.0メートル、切妻造、二階建、板葺、東面下屋附属(茅葺)、西面及び北面庇附属(杉皮葺)/延享2年頃(1745年頃)
所有者長瀞町
公開状況公開、内部見学可。10時〜17時(10〜3月は16時まで)。月曜(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日休館。一般200円、小・中学生100円。駐車場あり

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧新井家住宅(旧所在 埼玉県秩父郡野上町)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/460
長瀞町「旧新井家住宅」
https://www.town.nagatoro.saitama.jp/nagatoro-2/araike/
長瀞町「郷土資料館・旧新井家住宅」
https://www.town.nagatoro.saitama.jp/nagatoro-2/siryokan/

最終更新日: 2026.08.09