大正11年竣工、通称「二層楼」

埼玉県立深谷商業高等学校記念館は、埼玉県深谷市原郷にある大正11年(1922年)竣工の木造校舎で、平成12年(2000年)10月18日に国の登録有形文化財に登録された。

国道17号側から近づくと、まず塔屋が目に入る。屋根の中央から立ち上がる小さな塔で、その真下に車寄が構える。左右の翼はこの垂直線を軸として対称に伸び、瓦葺の屋根面には4つの屋根窓が開く。両翼の端部には櫛形ペディメントが載る。

通称の「二層楼」は、公式の台帳ではなく校歌のなかに登場する。「巍峨壮麗の二層楼」と歌われて、以来百年、生徒はこの建物の名を口にし続けてきた。

学校の開校は大正10年(1921年)4月、町立深谷商業学校としてであった。設立には深谷出身の実業家・渋沢栄一のほか、埼玉県会議員や深谷町長を務めた大谷藤豊らが尽力している。校舎の竣工は翌大正11年4月15日。当時の深谷町の人口規模を考えれば、商業学校のためにこれだけの建物を用意したという事実そのものが、地域にとっての事業の重みを示している。

以後40年以上にわたり本館教室として使われ、昭和40年前後に鉄筋4階建の新校舎へその役を譲った。昭和56年(1981年)、創立60周年を機に「記念館」として整備され、資料展示室や作法室などに用いられてきた。

木造で組まれた仏ルネサンス様式―「造形の規範」という基準

この建物に適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。登録有形文化財の三つの基準のうち、景観への寄与でも技術の稀少性でもなく、造形そのものの水準を評価する項目が選ばれている点は押さえておきたい。

評価の実質は、意匠の密度にある。構造は木造2階建、瓦葺、外装は横板張、建築面積608平方メートル。日本の木造軸組の技術の上に、仏ルネサンス様式を基調とする語彙が載せられている。塔屋と車寄を中心とする左右対称の構成、屋根窓、両翼端の櫛形ペディメント。内部に入れば白漆喰の壁と上下窓が続き、その下で仕事をしているのは日本の大工の手である。こうした和洋折衷の建築は明治から大正にかけて各地に建てられたが、大正期の木造校舎が完全な姿で残る例は多くない。埼玉県内では唯一とされる。

ここで制度の区別に触れておく。登録有形文化財は重要文化財でも国宝でもない。平成8年(1996年)に創設された登録制度は、築50年程度を経た建造物を対象とし、現状変更を許可ではなく届出で扱う。使いながら残すという判断が制度の前提にある。台帳上の登録番号は11-0024、第26回登録で、告示は平成12年11月6日。

なお、設計者の名は長く不明のままだった。判明したのは後年の修理工事においてである。棟札に建設関係者とともに埼玉県技師・濱名源吉の名が記されていた。施工は群馬県高崎市の井上組。高崎の観音像を手がけた会社である。

誰も覚えていなかった外壁の色

平成20年代に入るころ、建物の老朽化は深刻な段階に達していた。保存修理工事の着手は平成23年(2011年)9月、工期は約2年に及んだ。

その過程で行われた復原調査が、思いがけない事実を掘り起こす。創建当初の外壁は、卒業生たちが記憶していた白色系ではなかった。緑系の色だったのである。修理では創建時の色に塗り直され、再び姿を見せた校舎は、かつて通った人々の目にはほとんど別の建物として映った。色名については三緑色とも萌黄色とも伝えられており、どちらか一方に断定できる状態ではない。

内部はゆっくり歩きたい。精工舎、すなわち現在のセイコーの前身が製造した掛時計が今も掛かる。2階の廊下は白漆喰の壁と上下窓に挟まれて延び、校長室や校史保存室には商業教育百年分の資料が並ぶ。

敷地には松が一本残っている。大正11年10月、完成間もない二層楼で講演した渋沢栄一が自ら植えたもので、その折に揮毫した「至誠」「士魂商才」の二語は、そのまま校訓となって今日まで受け継がれている。

一般公開は毎週日曜日、午前10時から12時まで、および午後1時から3時まで。入館は無料である。年末年始は休館し、そのほかにも臨時休館があるため、遠方から向かう場合は学校のウェブサイトで事前に確認したい。現役の高等学校の敷地内にあるため、平日の見学はできない。JR高崎線深谷駅から徒歩約15分。

近年は映像作品を通じて名を知られるようになった。令和5年(2023年)にはNHK連続テレビ小説の撮影で、明治期の東京大学の外観として二層楼が用いられている。

深谷にはあわせて回りたい場所が多い。深谷駅の駅舎は東京駅を思わせる煉瓦意匠で、その東京駅に用いられた煉瓦を焼いた日本煉瓦製造の旧施設は国の重要文化財に指定されている。渋沢栄一ゆかりの誠之堂も重要文化財、渋沢栄一記念館や生家「中の家」も市内にある。

Q&A

Q埼玉県立深谷商業高等学校記念館はいつ見学できますか。
A毎週日曜日の午前10時から12時まで、および午後1時から3時までです。年末年始は休館し、そのほかにも臨時休館があります。現役の高等学校の敷地内にあるため平日の見学はできません。訪問前に学校ウェブサイトで開館状況をご確認ください。
Q埼玉県立深谷商業高等学校記念館の入館料はかかりますか。
A無料です。個人での見学に予約は不要ですが、団体での訪問を予定している場合は学校(048-571-3321)へ事前に連絡するとよいでしょう。
Q埼玉県立深谷商業高等学校記念館は重要文化財ですか。
A重要文化財ではなく、国の登録有形文化財(建造物)です。登録年月日は平成12年10月18日、登録番号は11-0024。登録は現状変更を届出で扱う制度で、許可制の指定(重要文化財・国宝)とは枠組みが異なります。
Q埼玉県立深谷商業高等学校記念館へのアクセスを教えてください。
A所在地は深谷市原郷80番地で、JR高崎線深谷駅から徒歩約15分です。国道17号沿い、市の中心部に位置します。上野駅から深谷駅までは高崎線でおよそ70分です。
Q埼玉県立深谷商業高等学校記念館と渋沢栄一の関係は何ですか。
A深谷出身の渋沢栄一は、大正10年に開校した本校の設立に尽力した一人です。大正11年10月には完成間もない二層楼で講演を行い、その際に松を植樹し、「至誠」「士魂商才」の書を残しました。この二語は現在も校訓として受け継がれています。

基本情報

名称埼玉県立深谷商業高等学校記念館(さいたまけんりつふかやしょうぎょうこうとうがっこうきねんかん)/通称 二層楼
所在地埼玉県深谷市原郷80
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 11-0024
指定年登録年月日 平成12年(2000年)10月18日/告示 同年11月6日(第26回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、塔屋付、建築面積608平方メートル
所有者埼玉県
公開状況毎週日曜日 10時〜12時/13時〜15時、入館無料(年末年始休館、臨時休館あり)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「埼玉県立深谷商業高等学校記念館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001900
文化遺産オンライン「埼玉県立深谷商業高等学校記念館」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186630
埼玉県立深谷商業高等学校「二層楼見学について」
https://fukasyo-ch.spec.ed.jp/お知らせ/二層楼見学について
埼玉県立深谷商業高等学校 公式サイト
https://fukasyo-ch.spec.ed.jp/
深谷めぐり「埼玉県立深谷商業高等学校 二層楼」
https://fukayameguri.jp/spot/cat3/埼玉県立深谷商業高等学校 二層楼.html

最終更新日: 2026.08.10