東京ゴルフ倶楽部クラブハウス:アントニン・レーモンドが手がけた名建築

埼玉県狭山市、入間川北岸の段丘上に広がる緑豊かなゴルフコースの中心に、東京ゴルフ倶楽部クラブハウスは静かに佇んでいます。チェコ出身の建築家アントニン・レーモンドの設計により昭和38年(1963年)に竣工したこの建物は、2018年(平成30年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。狭山市としては初の国登録有形文化財です。

東京ゴルフ倶楽部の創立50周年記念事業として建てられた本クラブハウスは、鉄筋コンクリート造と木造を組み合わせた独創的な構造と、磨き丸太を多用した山小屋風の趣が特徴的です。西洋の近代建築と日本の伝統的な建築技法を融合させたレーモンドの円熟期を代表する秀作として、高い評価を受けています。

100年を超えるゴルフの歴史

東京ゴルフ倶楽部は、大正2年(1913年)に東京・駒沢(現在の駒沢オリンピック公園付近)で創設された、日本人の手による最初のゴルフ倶楽部です。創設当初は海外でゴルフに親しんだ各界の指導者たちが中心となり、日本のゴルフ文化の礎を築きました。大正11年(1922年)には、摂政時代の昭和天皇と英国皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)との親善ゴルフが行われたことでも知られています。

昭和7年(1932年)、倶楽部は埼玉県朝霞に移転。英国の著名なコース設計家C.H.アリソンを招いて造成されたコースは「東洋一」と謳われ、レーモンドが設計した白亜のクラブハウスとともに名声を博しました。しかし、戦時下の昭和15年(1940年)、朝霞コースは陸軍に接収され、倶楽部は現在の狭山市柏原にあった秩父カントリー倶楽部と合併して移転しました。

終戦後は米軍に接収されるなど幾多の困難を乗り越え、昭和28年(1953年)に自主運営を回復。昭和30年(1955年)に一般社団法人として再出発しました。日本オープンゴルフ選手権をこれまで8回開催しており、日本を代表するチャンピオンシップコースとしての地位を確立しています。

建築家アントニン・レーモンドの足跡

アントニン・レーモンド(1888〜1976年)は、「日本近代建築の父」とも称されるチェコ系アメリカ人の建築家です。プラハ工科大学で建築を学んだ後、渡米してキャス・ギルバートやフランク・ロイド・ライトのもとで研鑽を積みました。

大正8年(1919年)、帝国ホテルの設計監理のためライトとともに来日。大正10年(1921年)に独立して設計事務所を開設し、以後約44年間にわたり日本を拠点に活動しました。東京女子大学礼拝堂、群馬音楽センター、南山大学などの代表作を残し、前川國男、吉村順三、ジョージ・ナカシマなど後進の建築家にも大きな影響を与えました。

レーモンドは「自然(natural)」「単純(simple)」「直截(direct)」「経済的(economical)」「実直(honest)」という建築の5原則を掲げ、素材の美しさを活かした機能的なデザインを追求しました。日本の伝統建築を深く理解し、障子や丸太材などの要素を積極的に取り入れた独自のスタイルは、国際的なモダニズムと日本の風土を見事に調和させたものです。現在も代々木にあるレーモンド設計事務所がその理念を継承し、東京ゴルフ倶楽部クラブハウスの改修工事なども手がけています。

登録有形文化財に選ばれた理由

平成30年(2018年)7月20日、国の文化審議会はこのクラブハウスを登録有形文化財(建造物)として登録するよう文部科学大臣に答申しました。同年11月2日に正式に登録原簿に記載され、狭山市初の国登録有形文化財が誕生しました。

登録の理由として評価されたのは、レーモンドの作風が顕著に表れた円熟期の秀作としての建築的価値です。1階を鉄筋コンクリート造、2階を木造とする混構造は、近代的な構造技術と伝統的な木造建築の技法を高い次元で融合させています。変形のロの字型平面に緩勾配の屋根を輻輳してかけ渡す構成は、建物に独特のリズム感と周囲の景観との一体感を与えています。

特に、磨き丸太の柱や梁を多用したインテリア、中央に暖炉を備えた山小屋風のラウンジは、レーモンドの建築理念が凝縮された空間として高く評価されました。自然との調和を重視し、ゴルフコースの景観に寄り添うように設計された姿は、まさに建築と環境が一体となった傑作です。

建築の魅力と見どころ

東京ゴルフ倶楽部クラブハウスは、地上2階建て、建築面積約1,498㎡、延床面積約3,029㎡の堂々たる建物です。銅板葺きの屋根が周囲の緑に調和し、格調高い佇まいを見せています。

山小屋風ラウンジ

クラブハウスの中核をなすのが、山小屋風に設えられた中央ラウンジです。磨き上げられた丸太の柱と天井の梁が力強い骨格を形成し、その中心に据えられた大きな暖炉が空間に温もりと風格を与えています。大きな窓からは手入れの行き届いたコースの景色が望め、室内にいながら自然との一体感を味わうことができます。

素材を活かした匠の技

建物全体を通じて、レーモンドの「実直な素材使い」の哲学が体現されています。磨き丸太の多用は晩年のレーモンド建築の特徴であり、木のぬくもりと質感が空間に豊かな表情をもたらしています。力強い鉄筋コンクリートの基壇と繊細な木造の上部構造との対比が、建物に独特の奥行きと品格を与えています。

史料展示室

2階には、100年を超える倶楽部の歴史を伝える史料展示室が設けられています。駒沢コース時代の写真、歴代のゴルフクラブ、菊の御紋入りトロフィー、朝霞コースでプレーした米国の本塁打王ベーブ・ルースのサインなど、貴重な資料が展示されています。メンバーの名札が毛筆手書きで記されているのも、この倶楽部ならではの伝統です。

景観との調和

「まずコースありき」というレーモンドのクラブハウス設計の信条通り、建物は入間川北岸の段丘上に控えめに配置されています。緩やかな屋根のラインは周囲の地形の起伏を反映し、建物の向きはプレーヤーが自然にコースへと視線を導かれるよう計算されています。建築と自然が一体となった佇まいは、訪れる人に深い感銘を与えます。

周辺の観光情報

狭山市とその周辺には、建築探訪と合わせて楽しめるスポットが豊富にあります。

クラブハウスからほど近い智光山公園は、総面積53.8ヘクタール(東京ドーム約11個分)の広大な都市公園です。アカマツ、コナラ、クヌギなど武蔵野の豊かな自然がそのまま残され、園内にはこども動物園、都市緑化植物園、花菖蒲園などが点在しています。四季折々の花々が楽しめる散策スポットとして人気です。

狭山市は日本三大銘茶のひとつ「狭山茶」の産地としても知られています。「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」と謳われる上質な緑茶を、地元のお茶屋さんで味わうことができます。

近隣の入間市には航空自衛隊入間基地があり、毎年秋の航空祭には多くの来場者で賑わいます。また、狭山丘陵一帯はスタジオジブリの映画『となりのトトロ』の舞台のモデルとしても知られ、武蔵野の里山風景のなかでハイキングを楽しむことができます。

レーモンド建築に興味をお持ちの方は、長野県軽井沢のペイネ美術館(旧・夏の家)や栃木県日光のイタリア大使館別荘記念公園なども訪問先としておすすめです。

Q&A

Q一般の方でもクラブハウスを見学できますか?
A東京ゴルフ倶楽部は会員制のプライベートクラブであり、一般公開は行われていません。クラブハウスの見学には、原則として会員の紹介やゲストとしての招待が必要です。ただし、文化財に関連した特別公開イベントが開催される場合もありますので、狭山市の文化財担当や観光案内所に最新情報をお問い合わせください。
Qクラブハウスを設計した建築家は誰ですか?
Aチェコ出身の建築家アントニン・レーモンド(1888〜1976年)です。「日本近代建築の父」とも称される巨匠で、東京ゴルフ倶楽部では昭和7年(1932年)の朝霞コースのクラブハウスに続き、現在の狭山のクラブハウス(1963年竣工)も設計しました。いずれもレーモンドの代表作に数えられています。
Q東京都心からのアクセス方法を教えてください。
A電車の場合、西武新宿線で狭山市駅まで約50分(西武新宿駅から急行利用)。狭山市駅西口から倶楽部の送迎バスが運行されており、所要時間は約15分です。お車の場合は、関越自動車道の川越ICから国道16号経由でアクセスできます。狭山市駅からタクシーを利用する場合は約15分、1,700円程度です。
Qこのクラブハウスの建築的な特徴は何ですか?
A1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造という混構造に、銅板葺きの緩勾配屋根を組み合わせた独創的な建物です。内部では磨き丸太の柱や梁が多用され、中央に暖炉を備えた山小屋風のラウンジが設けられています。西洋のモダニズム建築と日本の伝統的な木造建築の技法を融合させたレーモンドの建築哲学が凝縮された、円熟期の傑作と評価されています。
Q他にレーモンドの建築作品を見学できる場所はありますか?
Aはい、日本各地にレーモンドの作品が現存しています。東京では代々木のレーモンド設計事務所内にあるメモリアルルーム(毎月第2金曜日の14〜15時に一般公開、要予約)を訪問できます。横浜・山手のエリスマン邸、長野県軽井沢のペイネ美術館(旧・夏の家)、栃木県日光のイタリア大使館別荘記念公園なども見学可能です。

基本情報

名称 東京ゴルフ倶楽部クラブハウス
設計 アントニン・レーモンド(Antonin Raymond)
竣工 昭和38年(1963年)
構造 1階:鉄筋コンクリート造、2階:木造、銅板葺き
建築面積 1,498 m²
延床面積 約3,029 m²
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)、平成30年(2018年)11月2日登録
所有者 一般社団法人東京ゴルフ倶楽部
所在地 埼玉県狭山市柏原字通り窪1957-5
アクセス 西武新宿線 狭山市駅西口より送迎バス約15分/関越自動車道 川越ICより国道16号経由

参考文献

東京ゴルフ倶楽部クラブハウス — 狭山市公式ウェブサイト
https://www.city.sayama.saitama.jp/manabu/dentou/touroku/tourokuyuukeibunkaza.html
東京ゴルフ倶楽部クラブハウス — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/404071
登録有形文化財(建造物)の新規登録について — 埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/2018/0720-99.html
History — 東京ゴルフ倶楽部公式サイト(英語版)
https://www.tokyogolfclub.jp/english/history/
東京ゴルフ倶楽部 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%95%E5%80%B6%E6%A5%BD%E9%83%A8
アントニン・レーモンド — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89
東京ゴルフ倶楽部クラブハウス改修 — レーモンド設計事務所
https://raymondsekkei.co.jp/works/sports/1206/
近代建築の巨匠、アントニン・レーモンド — BRUTUS.jp
https://brutus.jp/raymond_architecture/

最終更新日: 2026.03.24