はじめに

滋賀県栗東市の安養寺境内に静かにたたずむ安養寺十三重塔は、鎌倉時代後期に建立された石造の塔であり、国の重要文化財に指定されています。高さ約334センチメートルの花崗岩製のこの塔は、もともと十三重の層を持って造られましたが、現在は第九重から第十一重が失われ、十重の姿となっています。それでもなお、優美な軒反りと繊細な四仏の彫刻を残し、琵琶湖周辺地域でも屈指の美しさを誇る石造塔として、多くの人々を魅了し続けています。

歴史的背景

安養寺の正式名称は東方山安養寺といい、真言宗泉涌寺派に属する古刹です。寺伝によれば、天平十二年(740年)に聖武天皇の勅願により、平城京の鬼門を守護するために創建された金勝寺の別院として、良弁僧正が開基しました。

承和元年(834年)には弘法大師空海によって中興され、真言宗に改宗されました。鎌倉時代には大いに栄え、弘長三年(1263年)には亀山天皇の勅願所とされ、七堂伽藍をはじめ二十余の僧坊が並ぶ大伽藍が建立されました。十三重塔はこの繁栄の時代に造立されたものと考えられています。

しかし、長享元年(1487年)に室町幕府第九代将軍足利義尚が六角高頼討伐のため安養寺に陣所を構えた際、兵火により堂宇が損壊しました。さらに元亀元年(1570年)には織田信長の兵火によって本尊の一部を除いてすべてが灰燼に帰してしまいます。

その後、貞享元年(1684年)に戒山慧堅律師が旧跡の荒廃を惜しみ再建に着手し、享保三年(1718年)までに現在の堂舎が復興されました。二度にわたる兵火を乗り越え、石造の十三重塔は寺の長い歴史の無言の証人として今日まで残されています。

文化財指定の理由

安養寺十三重塔は、昭和三十五年(1960年)二月二十日に国の重要文化財に指定されました。その指定は、以下のような優れた価値に基づいています。

第一に、鎌倉時代後期のこの規模と品質を備えた石造十三重塔は極めて稀少です。全国に鎌倉時代の石造塔は数多く現存しますが、安養寺のように高い芸術的完成度を保つものは限られています。塔身の四面にはそれぞれ仏像が浮き彫りにされており、四方の宇宙仏を表す密教的な図像構成は、真言宗寺院にふさわしい宗教的意義を持っています。

第二に、花崗岩から彫り出された笠石の優美な軒反りは、堅固な石材でありながら軽やかな印象を与える卓越した技術と美意識を示しています。また、塔頂の相輪には四方に水煙(炎形装飾)が張り出すという、精巧かつ珍しい意匠が施されています。

第三に、この塔は近江地方における中世の石造建築技術と仏教美術の研究において重要な資料であり、鎌倉時代の宗教文化を理解する上で貴重な遺構です。

建築・芸術的見どころ

この塔の最大の魅力は、堅牢な花崗岩の造りと繊細な芸術的表現の絶妙な調和にあります。現存する各層の笠石には微妙な軒反りが施されており、石造でありながら全体に軽快な印象を与えています。

塔身には東西南北の四面にそれぞれ仏像が半肉彫りで刻まれています。長い歳月の風化を受けつつも、なお穏やかな威厳を保つこれらの像容は、中世の石工たちの優れた技量を今に伝えています。

塔の頂部には相輪が載り、その水煙は四方に張り出す独特の意匠となっています。この装飾は視覚的な複雑さと仏教的な象徴性を兼ね備え、塔全体の格調を高めています。

三層(第九重から第十一重)が失われているものの、残る十層の構成は当初の比例的な調和を十分に感じさせ、失われた部分を除く各層に細やかな彫刻が施されていることから、全体にわたって一貫した高い技術が投入されていたことがうかがえます。

拝観案内

安養寺は滋賀県栗東市の安養寺山の山裾に位置し、豊かな森林に囲まれた静寂な環境にあります。広大な境内には本尊を祀る薬師堂、回廊で結ばれた観音堂、そして滋賀県指定名勝の池泉鑑賞式庭園が配されています。

庭園は江戸時代末期に造営されたもので、琵琶湖をかたどった池を中心に近江八景を配した風雅な構成で、栗東八景の一つ「泉面の雪花」として知られています。

薬師堂の南側には、安養寺山の自然の苔むした林の中に四国八十八ヵ所霊場の巡拝路が広がっており、荘厳な雰囲気の中で参拝することができます。

仏像の拝観や庭園の見学には事前の電話予約(077-552-0082)が必要です。駐車場は無料で約30台分が用意されています。

周辺情報

栗東市および滋賀県南部周辺には、歴史的・自然的な見どころが点在しています。近隣の金勝寺は安養寺と同じく良弁僧正の開基と伝わり、国の重要文化財である木造釈迦如来坐像や木造軍荼利明王立像を所蔵しています。金勝山一帯には古い山道があり、奈良時代の磨崖仏である狛坂磨崖仏も見学できます。

地域の重要な神社である大宝神社は、年間を通じて賑やかな祭礼が行われています。旧東海道沿いには、江戸時代に「和中散」を販売した薬商の本舗「ぜさいや」の跡地が国指定史跡として保存されており、街道の商業文化を偲ぶことができます。

日本最大の淡水湖である琵琶湖は西方にすぐ近く、湖岸での散策やサイクリング、水上レジャーが楽しめます。旧東海道と中山道の交差点として栄えた草津市も近く、歴史的な観光スポットが充実しています。

Q&A

Q安養寺十三重塔の高さはどのくらいですか?
A塔の高さは約334センチメートル(約3.3メートル)です。鎌倉時代に十三重として造立されましたが、現在は第九重から第十一重が失われ、十重の姿となっています。
Q拝観には予約が必要ですか?
A石造十三重塔は境内で自由にご覧いただけます。ただし、薬師堂内の仏像拝観や庭園の見学をご希望の場合は、事前に電話(077-552-0082)での予約が必要です。
Q公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
AJR草津駅からバス(金勝線)に乗り「なごやかセンター口」で下車、徒歩約10分です。また、JR手原駅からは徒歩約30分です。お車の場合は名神高速道路栗東インターチェンジから約10分で、無料駐車場(約30台分)をご利用いただけます。
Q塔身に彫られた四仏とは何ですか?
A塔身の四面にはそれぞれ仏像が半肉彫りで刻まれており、四方の宇宙仏(四方仏)を表しています。これは密教の曼荼羅に基づく図像構成で、鎌倉時代の石造塔に見られる特徴的な表現です。
Q安養寺にはほかにどのような文化財がありますか?
A十三重塔のほか、本尊の木造薬師如来坐像も国の重要文化財に指定されています。また、境内の池泉鑑賞式庭園は滋賀県指定名勝です。そのほか、室町時代の阿弥陀如来立像や毘沙門天立像、両界曼荼羅などの寺宝も所蔵されています。

基本情報

名称 安養寺十三重塔(あんようじじゅうさんじゅうのとう)
種別 石造十三重塔
時代 鎌倉時代後期(13世紀末~14世紀初頭)
材質 花崗岩
高さ 約334cm
現状 十三重のうち十重が現存(第九重~第十一重欠損)
指定 国指定重要文化財(昭和35年〈1960年〉2月20日指定)
所在地 〒520-3015 滋賀県栗東市安養寺88
所有者 東方山安養寺
宗派 真言宗泉涌寺派
電話番号 077-552-0082
駐車場 無料(約30台)

参考文献

東方山安養寺 公式サイト – 安養寺について
https://www.anyouji.org/about/
栗東市 – 東方山安養寺の文化財
https://www.city.ritto.lg.jp/soshiki/kyoiku/sports_bunka/bunkazai/rittoubunnkazai/15753.html
重要文化財建造物一覧 – 安養寺十三重塔
https://historical.info-proffer.com/landmarks?separate=KM9M0D8E
滋賀県栗東市 安養寺 – japan-geographic.tv
https://japan-geographic.tv/shiga/ritto-anyoji.html
JAPAN 47 GO – 東方山安養寺
https://www.japan47go.travel/ja/detail/eba702d1-7ee4-4e7e-b6ce-a4ccc5162dc8

最終更新日: 2026.04.15