沙沙貴神社旧源照殿(霜楓園):大正時代の格調高いおもてなしの建築を訪ねて

滋賀県近江八幡市安土町、佐々木源氏発祥の地として知られる沙沙貴神社の境内に、ひっそりと佇む一棟の建物があります。旧源照殿(きゅうげんしょうでん)——現在は「霜楓園(そうふうえん)」の名で呼ばれるこの建物は、大正8年(1919年)に近江商人の名家・外村与左衛門家の屋敷内に建てられた、皇族にゆかりのある貴人のための宿泊施設でした。昭和38年(1963年)に現在地に移築され、令和3年(2021年)に国の登録有形文化財に登録されました。書院座敷と茶室を備えた格調高い近代和風建築は、大正時代の日本建築の粋を今に伝える貴重な文化遺産です。

歴史と由来

旧源照殿は、大正8年(1919年)に東近江市五個荘金堂(ごかしょうこんどう)地区の外村与左衛門家の邸宅内に建設されました。五個荘金堂地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された近江商人ゆかりの町並みで知られ、外村家は江戸時代から京都や全国各地で商売を営んだ有力な近江商人の一家でした。その財力と社会的地位により、皇族に縁のある貴人をお迎えするための特別な宿泊施設として、この源照殿が建てられたのです。

昭和38年(1963年)に沙沙貴神社の境内に移築された後、祭儀の控え室として使用されてきました。令和3年(2021年)10月14日に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、その建築的・文化的価値が正式に認められました。現在は「霜楓園」として修復・活用が予定されています。

文化財としての価値

旧源照殿が登録有形文化財として登録された背景には、大正時代の上質な木造建築としての希少性と、その洗練された意匠があります。文化遺産オンラインの解説によれば、本建物は木造平屋建、入母屋造桟瓦葺で、建築面積は約67平方メートルです。

特に注目すべきは、その内部の巧みな間取り構成です。北側には八畳と六畳の部屋を配し、南側には三畳と四畳半を東西に並べています。北東には矩折れ(かねおれ)に縁を廻らせ、内と外の空間を優美につないでいます。八畳間は書院座敷としての格式を備え、四畳半は北に床(とこ)、西に床脇を設けた正式な構えとなっています。そして三畳間の南面には丸形の下地窓(したじまど)を配し、茶室の設えとしています。

文化遺産オンラインでは「格調高い近代の座敷棟」と評されており、大正時代の建築技術と美意識が見事に結実した建築であることがうかがえます。伝統的な日本建築の様式を守りながらも、近代的な感性を織り交ぜた空間構成は、この時代の上質な住宅建築の到達点を示すものといえるでしょう。

建築の見どころ

旧源照殿には、日本建築に関心をお持ちの方にとって見逃せないポイントがいくつもあります。

八畳の書院座敷は、裕福な商家が誇りとした正式な接客空間の典型です。書院造は、禅宗寺院の書斎から発展した建築様式で、床の間、違い棚、付書院を特徴とし、江戸時代から明治時代にかけて上流階級の住宅建築の標準的な形式となりました。この部屋には、そうした伝統を踏まえた端正な意匠が凝らされています。

三畳の茶室は、わずかな広さの中に侘び寂びの美学が凝縮されています。南面に設けられた丸形の下地窓は、柔らかな光を室内に導きながら、瞑想的な雰囲気を生み出すよう意図されたもので、茶の湯の精神を体現する繊細な意匠です。一棟の中に格式ある書院座敷と、より親密で精神的な茶の空間を共存させている点に、大正時代の文化的教養の深さが表れています。

「霜楓園」という名称は、この地域の秋の美しさ——霜が降り始める季節に鮮やかに色づく楓(かえで)——を想起させます。移り変わる四季と調和しながら建物を体験するという、日本美学の根本原理が、この名に込められているのです。

沙沙貴神社について

旧源照殿が所在する沙沙貴神社は、滋賀県を代表する歴史的な神社の一つです。佐々木源氏(近江源氏)の氏神として崇敬を集め、その起源は神話の時代にまで遡ります。少彦名神(すくなひこなのかみ)が小豆に似た豆のサヤ「ささげ」の船に乗ってこの地に降り立ったことから、「ささき」の地名が生まれたと伝えられています。

境内の主要建物八棟——本殿、権殿、拝殿、楼門、東西廻廊など——はすべて滋賀県指定有形文化財です。弘化5年(1848年)に四国丸亀藩主・京極高朗の援助により再建されたこれらの建物は、平安・鎌倉時代の様式を継承した格調高い建築群です。特に本殿は五間社流造(ごけんしゃながれづくり)という極めて珍しい建築形式を採用しており、当社の社格の高さを物語っています。

延享4年(1747年)建立の葦葺き楼門は、素朴でありながら品格ある佇まいで参拝者を迎えます。鳥居には源頼朝が揮毫したと伝わる「佐佐木大明神」の額(複製)が掲げられ、境内の随所には佐々木氏の家紋「四ツ目結い」が見られます。

佐々木氏の歴史と末裔

佐々木氏は、宇多天皇を祖とする宇多源氏の流れを汲む名門武家です。源成頼がこの地に土着し、その孫の佐々木経方が佐々木氏を称したことに始まります。中世日本において最も有力な武家の一つとなり、婆沙羅大名として知られる佐々木道誉、近江国を長く治めた六角氏、そして日露戦争の英雄・乃木希典大将など、歴史上の著名な人物を輩出してきました。

現在も六角氏、京極氏、朽木氏、黒田氏、三井家など220余姓がその末裔とされ、全国から佐々木姓の方々が先祖への感謝と一族の繁栄を祈願するために参拝に訪れています。毎年10月の第2日曜日に行われる「近江源氏祭」は、佐々木源氏一族が全国から参集する年に一度の大祭です。

四季の花々と庭園

沙沙貴神社の境内は、四季折々の花々で彩られます。4月末から5月中旬にかけては、ヒトツバタゴ(通称「なんじゃもんじゃの木」)が真っ白な花を咲かせ、当社を代表する春の景観として多くの写真愛好家や自然愛好家を集めています。初夏にはアジサイ、晩冬にはロウバイが境内を美しく飾ります。

特に秋は見応えがあり、旧源照殿の周辺を含む境内の紅葉が赤や橙、金色に染まる様は見事です。「霜楓園」の名が最もふさわしく感じられる季節といえるでしょう。

本殿の裏手には、石彫刻家・中嶋登茂美氏の作品による十二支の石像が並ぶ「十二支の庭」があり、愛らしい動物たちの姿が参拝者の心を和ませてくれます。

周辺の見どころ

沙沙貴神社が位置する安土は、滋賀県有数の歴史的エリアであり、周辺にも魅力的な観光スポットが点在しています。

安土城跡(国特別史跡)は、天正4年(1576年)に織田信長が築いた革新的な城郭の遺構です。天守は本能寺の変の直後に焼失しましたが、壮大な石垣と大手道が残り、山頂からは琵琶湖を一望する絶景を楽しめます。近隣の安土城考古博物館や信長の館では、安土桃山時代の歴史について深く学ぶことができます。

近江商人の文化に興味がある方には、旧源照殿の元来の所在地に近い五個荘金堂地区(重要伝統的建造物群保存地区)がおすすめです。外村繁邸や中江準五郎邸など、近江商人の本宅が公開されており、旧源照殿の出自である近江商人文化を直接感じることができます。

さらに足を延ばせば、近江八幡の八幡堀や旧市街の町並み、西の湖の美しい風景など、琵琶湖東岸の豊かな歴史文化を堪能することができます。

Q&A

Q旧源照殿(霜楓園)の内部は見学できますか?
A旧源照殿は現在、修復・活用の準備が進められています。現時点では外観を境内から見学することが可能です。今後「霜楓園」として修復し活用する予定となっていますので、最新の公開状況については沙沙貴神社(TEL: 0748-46-3564)に直接お問い合わせください。
Q京都・大阪からのアクセス方法は?
A京都駅からはJR琵琶湖線(東海道本線)で安土駅まで約40〜50分です。安土駅には新快速は停車しませんので、快速または普通列車をご利用ください。安土駅からは徒歩約15分(800m)です。お車の場合は、名神高速道路「竜王IC」より約20分です。大阪からは京都経由で約90分です。
Q拝観料はかかりますか?
A沙沙貴神社の境内参拝は無料です。社務所の受付時間は9:00〜16:30で、祈祷の受付、神符・御守・御朱印の授与を行っています。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A季節ごとに異なる魅力があります。4月末〜5月中旬は「なんじゃもんじゃの木」の白い花、初夏はアジサイ、秋(11月)は霜楓園の名にふさわしい紅葉、晩冬はロウバイが楽しめます。通年で参拝できますが、特に春と秋がおすすめです。
Q駐車場はありますか?
Aはい、沙沙貴神社には無料の駐車場が完備されています。また、安土駅周辺にはレンタサイクルの利用も可能で、安土城跡など周辺の観光スポットを巡るのに便利です。

基本情報

名称 沙沙貴神社旧源照殿(霜楓園)
読み ささきじんじゃ きゅうげんしょうでん(そうふうえん)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)/登録年月日:令和3年(2021年)10月14日
建築年代 大正8年(1919年)建築/昭和38年(1963年)現在地に移築
元の所在地 滋賀県東近江市五個荘金堂地区 外村与左衛門家邸内
構造形式 木造平屋建、入母屋造、桟瓦葺
建築面積 約67平方メートル
所有者 沙沙貴神社
所在地 〒521-1351 滋賀県近江八幡市安土町常楽寺字四ノ坪2
アクセス JR琵琶湖線「安土駅」より徒歩約15分(800m)/名神高速道路「竜王IC」より車で約20分
電話番号 0748-46-3564(受付時間:9:00〜19:00)
拝観料 無料

参考文献

沙沙貴神社旧源照殿(霜楓園) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/583536
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014046
霜楓園 — 沙沙貴神社公式サイト
http://sasakijinja.or.jp/guide/sofuen/
境内案内 — 沙沙貴神社公式サイト
https://sasakijinja.or.jp/guide/
沙沙貴神社 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%99%E6%B2%99%E8%B2%B4%E7%A5%9E%E7%A4%BE
沙沙貴神社庭園 — わのっとメディア
https://waknot.com/spot/2212
沙沙貴神社 — じゃらんnet
https://www.jalan.net/kankou/spt_25381ag2130012386/

最終更新日: 2026.03.08