代々の医家が暮らし、診た屋敷

旧常喜医院は、滋賀県米原市堂谷にある医家・常喜家の旧宅で、明治37年(1904年)に建てられた主屋を中心とする5棟が、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財となった。名称は「きゅうじょうきいいん」と読む。「常喜」を「つねき」と読むのは誤りである。

堂谷は米原市の南部にある農村の集落である。常喜家はこの地で代々医者を務めてきた家で、滋賀県教育委員会が登録の答申を報告した2019年の資料では、当時の当主が14代目にあたるとされている。新聞報道では、江戸時代から地域の医療を支えてきた医家として紹介されている。

村の医者の家は、診療所であると同時に、地域の名家の住まいでもあった。旧常喜医院には、患者を迎える玄関と診察の場、客をもてなす座敷、医学書や米を納める蔵、往診に使った馬の小屋が、一つの敷地にそろって残っている。現在の所有者は米原市である。

5棟がそろって登録された理由

令和元年7月19日の文化審議会の答申を経て、同年12月5日に主屋・書院・東蔵・西蔵・馬小屋の5棟が登録された。登録番号は25-0442から25-0446まで連続している。

登録基準は2つに分かれる。主屋には「造形の規範となっているもの」が、書院・東蔵・西蔵・馬小屋の4棟には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が適用された。主屋は医院としての機能と住まいを一つの建物にまとめた形そのものが評価され、残る4棟は屋敷構えを形づくる要素として評価されたことになる。

県の資料は、代々医者を務めた旧宅の主要な建物がよく残り、各棟の建築の質も高い点を挙げ、長く周辺地域の医療を支えた地方医院の屋敷構えを伝える遺構として重要だと述べている。1棟ずつの価値よりも、診療・接客・収蔵・往診という医家の暮らしの部品が欠けずにそろっていることが、この屋敷の特徴である。

建築年代は棟ごとに異なる。西蔵が明治後期、主屋が明治37年(1904年)、東蔵が大正4年(1915年)、馬小屋が大正後期、書院が昭和5年(1930年)頃で、主屋は大正14年(1925年)頃と昭和5年頃に手が加えられている。明治から昭和初期にかけて、医院の変化に合わせて建物が少しずつ足されていった過程が、一つの敷地で読み取れる。

屋敷の配置

敷地の南面に門が開く。門の近く、敷地の南東に建つのが馬小屋で、出入口を西に向けている。往診に出る馬を門のそばに置いた配置と読める。

敷地の中央には主屋が南を向いて建つ。1階の南側に張り出した玄関まわりが医院の部分で、北側と2階が住まいにあてられた。書院は主屋の西側にあり、北側の廊下で主屋とつながって、庭を囲むように建っている。

2棟の土蔵は屋敷の裏手を固める。西蔵は主屋の北側に東を向いて建ち、東蔵は主屋の北東に南を向いて建つ。どちらも白い漆喰の壁の下半分を縦板で覆った同じ外装で、屋敷の北側の景観をまとめている。

見学とアクセス

旧常喜医院は、米原市の公式サイトで資料館などの常設の公開施設としては案内されておらず、定期的な公開日も示されていない(2026年9月確認)。見学を希望する場合は、所有者である米原市の教育委員会事務局生涯学習課(文化財保存活用担当、電話0749-53-5154)に前もって問い合わせたい。敷地内での撮影の可否や、車で訪れる場合の駐車場所も、そのときに確かめておくのが確実である。

所在地は米原市堂谷字北小路212。鉄道の最寄り駅はJR東海道本線の醒ケ井駅と近江長岡駅で、どちらからも地図上の直線距離で約2キロ離れている。歩けば30分以上かかるため、駅からはタクシーの利用も考えておきたい。

常喜家に伝わった陶磁器や漆器、金工品などの美術工芸品は、市内の近江はにわ館で展覧会として紹介されてきた。2022年の「旧常喜医院伝来の名品Ⅳ」では48点が並んだ。屋敷の建物とは別の話だが、この家がどのような暮らしを営んでいたかを知る手がかりになる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧常喜医院主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013128
国指定文化財等データベース(文化庁)旧常喜医院書院
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013129
国指定文化財等データベース(文化庁)旧常喜医院東蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013130
国指定文化財等データベース(文化庁)旧常喜医院西蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013131
国指定文化財等データベース(文化庁)旧常喜医院馬小屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013132
滋賀県教育委員会 8月定例教育委員会資料「国の文化審議会が新たに登録有形文化財に登録するよう答申した建造物について」(令和元年8月5日)
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5148198.pdf
米原市 生涯学習課(文化財保存活用)
https://www.city.maibara.lg.jp/soshiki/kyoiku/rekishi/index.html
中日新聞「美術工芸品お宝ざくざく 旧常喜医院に伝来、近江はにわ館で展覧会」(2022年8月28日)
https://www.chunichi.co.jp/article/534552

最終更新日: 2026.09.26

基本情報

名称旧常喜医院
所在地滋賀県米原市堂谷字北小路212
所有者米原市
指定登録有形文化財 5件
座標35.34751, 136.35421