石山寺多宝塔 ― 建立年が判明する日本最古の多宝塔
滋賀県大津市、瀬田川のほとりに天然記念物の硅灰石(けいかいせき)がそびえる石山寺。その山上に建つ多宝塔は、建久5年(1194)に源頼朝の寄進により建立された、年代の明らかなものとしては日本最古の多宝塔です。下層は方三間のどっしりとした四角形、上層はすらりとした円形という調和のとれた姿は、「日本一美しい多宝塔」とも称され、国宝に指定されています。和歌山・金剛三昧院多宝塔、大阪・慈眼院多宝塔とともに「日本三名塔」の一つに数えられる名建築です。
歴史的背景
石山寺は、天平19年(747)に東大寺初代別当の良弁(ろうべん)僧正が、聖武天皇の発願により、巨大な硅灰石の岩盤の上に如意輪観音像を安置したことに始まると伝えられます。平安時代には「石山詣」が貴族女性の間で流行し、紫式部がこの寺に籠もって『源氏物語』を起筆したと伝わるなど、文学史においても特別な位置を占める古刹となりました。
鎌倉時代に入り、武家政権を確立した源頼朝は、かつて平治の乱の後に兄・源義平を匿ってもらった恩に報いるため、東大門および多宝塔を石山寺に寄進したと寺伝は伝えます。こうして建久5年(1194)に完成したこの多宝塔は、下層中央の須弥壇(しゅみだん)上框の裏側に残された墨書銘によって、建立年が明確に確認できる極めて貴重な建造物となりました。
国宝に指定された理由
多宝塔は、明治30年(1897)の古社寺保存法の下で保護対象となり、明治34年(1901)には特別保護建造物に指定されました。昭和4年(1929)には国宝保存法の制定により旧国宝となり、戦後の昭和25年(1950)に文化財保護法が施行されると翌昭和26年(1951)に改めて国宝に指定され、現在に至っています。
その価値は大きく三点にまとめられます。第一に、建久5年(1194)という建立年が墨書銘によって確実にわかる多宝塔としては日本最古であり、中世仏教建築史の重要な基準となる遺構であること。第二に、慶長年間の修理で軒回り・小屋組・扉などが取り替えられたものの、鎌倉時代初期の基本構造と姿を良好に留めていること。第三に、塔内に安置される快慶作の木造大日如来坐像(建久5年・重要文化財)と、四天柱・長押・天井・扉回りに描かれた金剛界三十七尊および五大明王などの仏画群(「石山寺多宝塔柱絵」として重要文化財)を伝え、建築・彫刻・絵画が一体となった鎌倉初期の密教空間をそのまま体感できる稀有な存在であることです。
建築の見どころ
多宝塔は、方形の下層の上に、亀腹(かめばら)と呼ばれる白い漆喰仕上げの部分を挟んで円形の上層を重ねるという、日本独自の塔形式です。石山寺多宝塔は高さ約16.3メートル。下層は方三間と幅広く、高さが抑えられているため、どっしりとした安定感のある姿を見せます。上層は下層の半分以下にぐっと絞られ、12本の円柱が四手先(よてさき)の組物を受けて深い軒を張り出します。
屋根は宝形造(ほうぎょうづくり)の檜皮葺(ひわだぶき)で、柔らかな曲線を描く優美なシルエットを生み出しています。前回の屋根葺替は昭和40年(1965)に行われ、その後平成23年(2011)から平成24年(2012)にかけて「国宝石山寺多宝塔平成大修理」として再度の檜皮葺葺替が実施されました。修理を終えた屋根は、檜皮ならではのやわらかな色合いで多宝塔をいっそう優美に見せています。
内部に目を移せば、中央の須弥壇には、鎌倉時代を代表する仏師・快慶の手になる金剛界大日如来坐像が安置されています。須弥壇を囲む四天柱には、当初五十四体ほどの尊像が極彩色で描かれていたとされ、現在確認できるのは二十余体に留まるものの、金剛界三十七尊に加えて五大明王を描き、しかもその一部を坐像で表す点は全国的にも珍しい図像として注目されています。
拝観情報
多宝塔へは、東大門をくぐり、本堂と天然記念物・硅灰石の巨岩を通り過ぎた先、石段を上った先に位置します。塔の前の広場からは瀬田川の流れと周囲の山並みを望むことができ、四季折々の景観と相まって心に残る眺めとなります。塔内部は通常非公開ですが、塔のすぐ近くまで寄って外観を拝観し、外からお参りすることができます。また塔の近くには源頼朝公・亀谷禅尼供養塔があり、こちらは通常通り拝観可能です。
石山寺の開門は午前8時、閉門は午後4時30分(最終入山は午後4時)です。入山料は大人600円、小学生250円。境内はとても広く、石段や坂道も多いため、歩きやすい靴でお越しになることをおすすめします。本堂・多宝塔を含めた境内全体の拝観には2時間前後を見込んでおくとよいでしょう。
周辺の見どころ
石山寺の境内自体が見どころの宝庫です。本堂(国宝)は硅灰石の岩盤の上に建ち、多宝塔と並んで境内の双璧をなします。尾根の突端にある月見亭は、歌川広重の「近江八景 石山の秋月」でも知られる眺望の地で、中秋の名月には秋月祭も営まれます。硅灰石の岩盤そのものも国の天然記念物に指定されています。
足を延ばせば、琵琶湖西岸の天台寺門宗総本山・三井寺(園城寺)や、古来「日本三名橋」の一つに数えられる瀬田の唐橋もすぐ近くにあります。大津は世界文化遺産「比叡山延暦寺」への玄関口でもあり、琵琶湖観光と合わせて一日、あるいは一泊二日の旅程で巡るのにふさわしい地域です。
Q&A
- 石山寺多宝塔はなぜそれほど重要なのですか。
- 下層中央の須弥壇上框裏面に残る墨書銘から、建久5年(1194)の建立であることが確実に判明しており、年代の明らかな多宝塔としては日本最古の遺構です。そのため中世仏教建築史を語る上で欠かせない基準的作例とされています。
- 塔内に入って拝観することはできますか。
- 繊細な柱絵や本尊を保護するため、通常内部の公開は行われていません。ただし塔のすぐ近くまで寄って外観を拝観することができ、外からお参りいただくことは可能です。
- 誰が多宝塔を寄進したのですか。
- 寺伝によれば、鎌倉幕府初代将軍・源頼朝(1147–1199)の寄進です。平治の乱後に兄・源義平を石山寺が匿ってくれたことへの感謝から、東大門とともに多宝塔を寄進したと伝えられています。
- どの季節に訪れるのがおすすめですか。
- 石山寺は「花の寺」として知られ、4月初旬の桜、11月中旬から12月初旬にかけての紅葉が特に見事です。秋のもみじライトアップの期間には、多宝塔がやわらかな灯りに照らし出され、格別の美しさをご覧いただけます。
- 京都からのアクセス方法を教えてください。
- JR京都駅からJR東海道本線の新快速でJR石山駅まで約13分、同駅1番のりばから京阪バス(2・4・50・52・53・54・55系統など)に乗り約10分、「石山寺山門前」で下車すると目の前が参道入口です。
基本情報
| 名称 | 石山寺多宝塔(いしやまでらたほうとう) |
|---|---|
| 指定区分 | 国宝(建造物)/昭和26年(1951)に文化財保護法の下で指定 |
| 建立年 | 建久5年(1194)/鎌倉時代初期 |
| 構造形式 | 多宝塔/下層方三間、上層円形・四手先組物、宝形造、檜皮葺 |
| 高さ | 約16.3メートル |
| 本尊 | 木造大日如来坐像(快慶作、建久5年/重要文化財) |
| 所在地 | 滋賀県大津市石山寺1-1-1 |
| 所有者 | 石山寺 |
| 拝観時間 | 午前8時~午後4時30分(最終入山 午後4時) |
| 入山料 | 大人600円/小学生250円 |
| アクセス | JR石山駅から京阪バス「石山寺山門前」下車(約10分)/京阪石山坂本線「石山寺」駅から徒歩約10分 |
参考文献
- 大本山 石山寺 公式ホームページ ― 国宝 石山寺多宝塔 平成大修理
- https://www.ishiyamadera.or.jp/guide/event/tahoutou-repair
- 大本山 石山寺 公式ホームページ ― 参拝料金・時間
- https://www.ishiyamadera.or.jp/guide/fee
- 大本山 石山寺 公式ホームページ ― 交通案内
- https://www.ishiyamadera.or.jp/access
- 文化遺産オンライン ― 石山寺多宝塔柱絵
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/159881
- 大津市 ― 石山寺 多宝塔
- https://www.city.otsu.lg.jp/bz/a/6/28/60797.html
- Wikipedia ― 石山寺
- https://ja.wikipedia.org/wiki/石山寺
最終更新日: 2026.04.23