『延喜式』に名を残す神崎郡の古社
乎加神社は、滋賀県東近江市神郷町にある神社で、延長5年(927年)にまとめられた『延喜式』神名帳に名が載る式内社であり、明治25年(1892年)に整えられた社殿を中心とする境内の6棟が平成15年(2003年)3月18日に国の登録有形文化財となった。読みは「おかじんじゃ」。「乎」を「お」と読ませる古い用字で、東近江市観光協会は、「おか」をこの2字で書く神社は全国に2社しかないと紹介している。
社名の由来は一つに定まっていない。和田山という岡に祀られたからとする説と、主祭神である豊遠迦比売命(とよおかひめのみこと)の名から来たとする説がある。滋賀県神社庁の記載では、祭神は豊岡姫命と白山比咩神の2柱、神紋は左三ツ巴である。
創祀は社伝による。允恭天皇の皇妃である衣通姫(そとおりひめ)の祈願によってこの地に祀られたと伝え、のちに天智天皇から神領を受け、嵯峨天皇が神宮寺を建てて社寺領300石を寄せたという。江戸時代には太田氏の崇敬を受けて社殿の造営があり、大正5年(1916年)に県社へ列した。いずれも神社側の伝えであり、同時代の記録で確かめられているわけではない。
伊勢から迎えた本殿と、6棟の登録
いま見る社殿群の骨格は、明治25年に定まった。文化庁のデータベースによれば、本殿は明治22年(1889年)の伊勢神宮の式年遷宮に際して別宮の社殿を譲り受け、明治25年にこの地へ移したものと伝えられる。幣殿・祝詞殿・玉垣も同じ明治25年の建築とされ、本殿を囲む一画がこの年にまとまって整えられた。拝殿と手水舎は、それよりやや下る明治後期の建物である。
平成15年3月18日に登録されたのは、本殿・幣殿・祝詞殿・玉垣・拝殿・手水舎の6棟で、登録番号は25-0209から25-0214までの連番になっている。玉垣と手水舎は、建物ではなく「その他工作物」の区分で登録された。
6棟に当てられた登録基準は二つに分かれる。本殿と幣殿は「造形の規範となっているもの」、祝詞殿・玉垣・拝殿・手水舎は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。伊勢の形式を伝える神明造の本殿と、それに向き合う入母屋造の幣殿が近代の神社建築の手本として評価され、残る4棟は社殿群の景観を成り立たせる建物として評価された、という分け方になる。
形式の違う建物が一つの軸の上に並んでいることが、この境内の特徴である。素木の神明造の本殿のまわりを、唐破風の拝所や菱格子の欄間を備えた明治の社殿が囲む。伊勢の簡素さと近代の装飾性が、同じ参道の先で隣り合っている。
境内の配置と歩く順序
境内は約3300坪の広さがあり、社殿は樹木に囲まれた社叢の中に建つ。登録された6棟は参道の軸線上に前後に並んでいるので、入口から奥へ一度歩けば全体をたどれる。
参道を入ってまず出会うのが手水舎である。その先の正面に、床を張らない土間の拝殿が建つ。拝殿の奥には横長の幣殿が構え、正面中央に唐破風屋根の拝所を突き出している。幣殿の背後では、小さな祝詞殿が幣殿と本殿をつなぐ。いちばん奥が本殿で、幣殿より一段と背が高い。
本殿と祝詞殿のまわりは玉垣が囲んでいる。玉垣は幣殿の両脇から左右に少し延び、そこから折れて奥の一画を閉じる。延長は52メートル。本殿と祝詞殿はこの内側にあり、参拝者は玉垣の外から拝むことになる。
境内社として、日吉神社・若宮神社・五社神社・八阪神社などが祀られている。また、境内地には滋賀県指定史跡の神郷亀塚古墳がある。地元で「亀山」と呼ばれてきた高まりで、発掘調査によって墳丘全長約37メートルの前方後方墳と分かった。弥生時代の終わりから古墳時代の初めにかけて築かれたもので、墳丘の西側の溝からは祭祀に使われたとみられる土器が出ており、長い期間にわたってまつられていたことがうかがえる。
4月の例祭
例祭は4月9日に近い日曜日に行われる。滋賀県神社庁の案内では、祭礼日には神事だけを行い、神輿などの行事は別の日になる場合があるとしている。祭りに合わせて訪ねるなら、日程を事前に神社へ確かめておくとよい。
拝観とアクセス
乎加神社は地域の氏神として祀られてきた神社で、境内は参拝者が歩いて回れる。東近江市観光協会の案内には拝観料や拝観時間の定めは記されていない。登録された6棟はいずれも内部を公開しておらず、外観を境内から見る形になる。社叢の中は日が陰りやすいので、明るい時間帯に訪ねたい。
鉄道ではJR琵琶湖線の能登川駅が最寄りになる。駅から東へ約2キロメートル、歩いて25分ほど。駅前の住宅地を抜けると田畑が開け、その先にこんもりとした社叢の森が見えてくる。これが乎加神社の目印になる。
所在地は文化庁の登録では「東近江市神郷町字森9」、東近江市観光協会の案内では「東近江市神郷町1890」と表記されている。地図で探すときは両方の表記を手がかりにするとよい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003249
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社幣殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003250
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社祝詞殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003251
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社玉垣
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003252
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社拝殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003253
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 乎加神社手水舎
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003254
- 滋賀県神社庁 — 乎加神社(御祭神・御由緒・祭礼日)
- https://www.shiga-jinjacho.jp/ycBBS/Board.cgi/02_jinja_db/db/ycDB_02jinja-pc-detail.html?mode:view=1&view:oid=816
- 東近江市観光協会 — 乎加神社(おかじんじゃ)
- https://www.higashiomi.net/media/miru/oka
- 東近江市 — 東近江市内の遺跡紹介(神郷亀塚古墳)
- https://www.city.higashiomi.shiga.jp/bunka_sports_shougaigakushu/rekishi_bunka/1003155/1003160.html
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 乎加神社 |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県東近江市神郷町字森9 |
| 所有者 | 宗教法人乎加神社 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 35.17699, 136.18435 |