近江鉄道鳥居本駅舎~中山道の宿場町に佇む童話のような洋風駅舎~

滋賀県彦根市の北部、国道8号沿いにひっそりと佇む近江鉄道鳥居本駅舎は、まるでヨーロッパの童話から飛び出してきたかのような愛らしい洋風建築の駅です。赤い瓦のマンサード屋根(腰折れ屋根)、四角い煙突、半円形のアーチ窓——1931年(昭和6年)の開業以来、約90年以上にわたって旅人を迎え続けてきたこの駅舎は、2013年に国の登録有形文化財に登録されました。江戸時代から栄えた中山道鳥居本宿の歴史ある街並みを背景に、昭和初期の鉄道建築の貴重な姿を今に伝えています。

歴史的背景

近江鉄道は滋賀県最古の私鉄として、1896年(明治29年)に彦根~貴生川間で開業しました。1931年(昭和6年)3月15日、最後の区間である彦根~米原間が開通し、その際に鳥居本駅が開設されました。この駅の設置は地元住民の請願と負担によって実現したものとされ、豊かな宿場町であった鳥居本の人々の鉄道への期待がうかがえます。

鳥居本は中山道六十九次のうち江戸から数えて六十三番目の宿場町として、江戸時代を通じて大いに栄えました。天保14年(1843年)時点で家数293軒、人口1,448人、旅籠35軒を擁する活気ある宿場でした。鳥居本の名産は「三つの赤」として知られ、赤い丸薬の赤玉神教丸、赤い渋紙の合羽、そして赤いスイカが有名でした。特に伊吹山の薬草を使った製薬業と合羽の製造で莫大な富を蓄えた商人たちの審美眼が、この洋風駅舎の建築にも反映されていると言われています。

文化財指定の理由とその価値

鳥居本駅舎は2013年(平成25年)3月29日に、国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。昭和初期の地方私鉄駅舎として開業当時の姿をよく留めている点が高く評価されています。文化財としての主な価値は以下の通りです。

  • マンサード屋根(腰折れ半切妻造)に赤い瓦を葺いた、地方の鉄道駅としては極めて珍しい洋風意匠。
  • 両側面の半円形アーチ窓や正面の車寄(くるまよせ)など、西洋建築の要素を巧みに取り入れた構成。
  • 待合室に露出するハンマービーム式の小屋組(西洋の教会建築に由来する梁構造)。
  • 四角い煙突が生み出す童話的なシルエット。
  • 90年以上にわたり現役の鉄道駅として機能し続けている継続性。

構造は木造平屋建、瓦葺で、建築面積は81平方メートル。南半分を待合室、北半分を旧駅務室とし、正面南側に車寄を出し、その北側に煙突を立てるという配置になっています。

見どころ・魅力

鳥居本駅を訪れてまず目を引くのは、赤い瓦のマンサード屋根と四角い煙突が織りなす童話的なシルエットです。山小屋のようにも、ヨーロッパの田舎のコテージのようにも見えるこの駅舎は、日本の鉄道駅というイメージとは一線を画しています。正面の車寄は上品な佇まいを見せ、側面のアーチ窓がヨーロッパ的な雰囲気を添えています。

内部に入ると、待合室の天井に露出したハンマービーム式の木造小屋組が見事です。午後の西日が半円形の窓から差し込む時間帯には、まるで小さな教会の講堂にいるかのような神秘的な雰囲気に包まれます。高い天井と温かみのある木の骨組みが、駅舎とは思えない荘厳な空間を生み出しています。

2005年3月に無人駅となりましたが、駅舎は良好な状態で保存され、近江鉄道本線(彦根・多賀大社線)の現役駅として利用されています。島式ホーム1面2線を有し、駅舎とホームは構内踏切で結ばれています。近年は駅舎を会場としたコンサートなどの地域イベントも開催され、鳥居本のシンボルとして新たな役割も担っています。

アクセス・訪問情報

鳥居本駅は彦根市北部の国道8号沿いに位置しています。JR米原駅から近江鉄道本線に乗り換え、彦根方面へ2駅、約7分で到着します。JR彦根駅からは米原方面へ1駅です。駅には鉄道利用者向けの無料駐車場と駐輪場があります。

無人駅のため入場料等は不要で、駅舎の外観や待合室はいつでも自由に見学できます。ただし、他の乗客や鉄道運行の妨げにならないようご配慮ください。周辺の鳥居本宿の散策は徒歩が基本で、主な見どころは駅から徒歩10~15分圏内にまとまっています。

周辺の見どころ

駅を出て東へ数分歩くと、中山道鳥居本宿の旧街道に入ります。袖塀と格子構えの伝統的な家屋が約2キロにわたって続き、江戸時代の宿場町の雰囲気を色濃く残しています。

特に見逃せないのが有川家住宅です。江戸時代から続く胃腸薬「赤玉神教丸」の製造・販売元で、どっしりとした商家の佇まいは圧巻です。現在も営業を続けており、鳥居本宿の歴史を体感できる貴重なスポットです。鳥居本宿本陣跡(寺村家)や問屋跡、松並木なども散策の見どころです。

近隣にはアメリカ人建築家ウイリアム・メレル・ヴォーリズが設計した寺村家住宅主屋も残されており、洋風建築に興味のある方にはあわせて訪問をおすすめします。

少し足を延ばせば、国宝・彦根城が近江鉄道で1~2駅の距離にあります。鳥居本駅と彦根駅の間にそびえる佐和山は、関ヶ原の戦いで知られる石田三成の居城・佐和山城があった場所で、近江鉄道はこの山の下を単線トンネルで通過していきます。

Q&A

Q鳥居本駅は現在も電車が停まりますか?
Aはい。2005年に無人駅となりましたが、近江鉄道本線(彦根・多賀大社線)の現役駅として通常運行しています。
Q駅舎の見学に入場料はかかりますか?
Aいいえ。無人駅のため、駅舎の外観や待合室はどなたでも無料で見学できます。
Q主要都市からのアクセス方法を教えてください。
AJR東海道新幹線またはJR琵琶湖線で米原駅へ行き、近江鉄道本線に乗り換えて2駅(約7分)です。彦根駅からは米原方面へ1駅です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A一年を通じて魅力的ですが、春や秋は気候がよく、中山道鳥居本宿の散策に最適です。午後の西日が半円窓から差し込む時間帯は特に美しい光景が見られます。
Q彦根城とあわせて訪問できますか?
Aはい。彦根城は近江鉄道で1~2駅の距離にあり、鳥居本駅と中山道散策、そして彦根城を組み合わせた半日コースがおすすめです。

基本情報

名称 近江鉄道鳥居本駅舎(おうみてつどうとりいもとえきしゃ)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2013年(平成25年)3月29日
建築年 1931年(昭和6年)
構造 木造平屋建、腰折れ半切妻造瓦葺、建築面積81㎡
所在地 〒522-0004 滋賀県彦根市鳥居本町字丹後屋653
所有者 一般社団法人近江鉄道線管理機構
路線 近江鉄道本線(彦根・多賀大社線)、駅番号 OR03
アクセス JR米原駅から近江鉄道で約7分、JR彦根駅から1駅
駅の状況 無人駅(2005年3月より)、島式ホーム1面2線

参考文献

近江鉄道鳥居本駅舎 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206387
登録有形文化財 近江鉄道 鳥居本駅舎 - 彦根市観光協会
https://www.hikoneshi.com/sightseeing/article/ohmitetsudo-toriimoto-ekisha
鳥居本駅 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E5%B1%85%E6%9C%AC%E9%A7%85
鳥居本駅(近江鉄道本線)- サライ.jp
https://serai.jp/tour/84735
中山道 鳥居本宿 - 彦根市観光協会
https://www.hikoneshi.com/sightseeing/article/toriimoto-juku
旧鳥居本宿 - 滋賀県観光情報公式サイト
https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/915/

最終更新日: 2026.04.09