隠岐国分寺蓮華会舞 ― 大陸の舞楽をとどめる島の仮面舞

毎年4月21日、隠岐諸島の島後(どうご)にある隠岐国分寺の本堂前に、特設の舞台が組まれる。異国風の面と装束をまとった舞い手がそこに立ち、隠岐国分寺蓮華会舞を奉納する。大陸から伝わった舞楽の流れをくむ仮面舞で、島の人々がおよそ1200年にわたって受け継いできたものだ。

昭和52年(1977年)に国の重要無形民俗文化財に指定された。現在伝わる七番の舞には、千年以上前に大陸から渡ってきた当時の芸能の姿が、かなり近い形で残るといわれる。

大陸から、海の向こうの寺へ

舞楽は、奈良から平安にかけて大陸文化とともに日本へ入ってきた外来の芸能である。荘重な舞と渡来の音楽を組み合わせたもので、無言の仮面劇とともに、各地の主だった寺院が法会の余興として演じていた。隠岐国分寺もそのひとつで、蓮華会舞は当時の形を比較的よく残しているとされる。

もとは旧暦6月15日の蓮華会に合わせて舞われていた。明治の廃仏毀釈で一度途絶えたが、明治17年(1884年)に地元の人々の手で復活した。以後は、弘法大師空海の命日にあたる4月21日、本堂で営まれる正御影供(しょうみえく)の折に奉納されている。

2007年の火災

2007年より前にこの舞を見た人は、平安から鎌倉期の作と見られる古面とともに演じられる蓮華会舞を目にしていた。そのうち9面は「蓮華会舞の面」として昭和49年(1974年)に島根県の有形民俗文化財に指定されていた。

ところが平成19年(2007年)2月25日の火災で国分寺本堂が全焼し、面・装束・楽器という道具一式がすべて失われた。途絶えてもおかしくない損失だったが、保存会と関係機関の尽力で道具は復元され、同年11月には再び舞えるようになった。焼失した古面の県指定は、同年12月に解除されている。

国指定の理由

国指定の理由は、特定の一番の舞というより、上演全体が日本の芸能史に対して持つ意味にある。所作や進め方に舞楽や延年のおもかげが認められ、芸能史的な価値が高い。これほど古い性格を保つ例は多くなく、島という土地柄が生んだ地方色も際立つ。

七番の舞

当日はまず本堂で正御影供が営まれる。その後、四天王を奉じた御輿を中心に、大導師・舞い手・楽人の一行が境内の特設舞台へ行道する。舞台上での四天王祈願祭に続いて、七番の舞が始まる。

最初は眠り仏。二人の子どもが、まぶたを閉じたような菩薩面をつけ、あぐらをかいて舞ううちにうとうとと眠り込む。対照的なのが竜王で、力強い足踏みと、ふいに見せる滑稽な跳躍が見どころになる。間には獅子、麦焼舞、山神と貴徳、そして仏舞が続く。七番のうち面をつけないのは太平楽だけである。

囃子は胴(どう)・笛・饒鉢(にょうはち)の三つ。舞ごとに固有の楽があり、出入りには出楽・入楽が奏される。全曲を終えると、舞い手たちは思い思いに入れ舞を舞い、桜の花が散るなか還幸の途につく。なお本祭と裏祭を隔年で行い、本祭では全曲を、裏祭では眠り仏のみを舞う。

見に行くには

4月21日の奉納は、本堂前から無料で見られる。祭礼の日に合わせて訪れるのが難しい場合は、池田地区の蓮華会之館で面や装束、関連資料を見ることができる。保存会に依頼すれば、演目の一部を上演してもらうこともできる(現在1公演5万円。別に隠岐国分寺・蓮華会之館の拝観料、大人400円・小人200円が必要)。

舞台に立ち会うには、まず島へ渡る必要がある。隠岐は島根県沖の日本海に浮かぶ島々で、島後へは松江市の七類港や鳥取県の境港からフェリー・高速船が通じ、空路では隠岐空港が使える。隠岐国分寺と蓮華会之館は、西郷港から車でおよそ6分の池田地区にある。

島後をめぐる

島後はゆっくり滞在する価値がある。島は隠岐ユネスコ世界ジオパークの一部で、海岸には国の名勝・天然記念物に指定された隠岐白島海岸がある。隠岐造と呼ばれる地元の様式で建てられた玉若酢命神社と水若酢神社も近く、前者の境内には、樹齢千数百年・高さ約30メートルともいわれる八百スギがそびえる。国分寺の境内そのものも国の史跡で、14世紀に隠岐へ流された後醍醐天皇の行在所が置かれた場所として知られる。

Q&A

Qいつ、どこで見られますか。
A毎年4月21日、隠岐の島町池田地区の隠岐国分寺・本堂前に組まれる特設舞台で奉納されます。一般に公開されており、無料で見ることができます。
Q使われている面は昔の古面ですか。
Aいいえ。平安から鎌倉期と見られた古面は、2007年に本堂を全焼させた火災で失われました。現在の面・装束・楽器は、同年11月までに復元されたものです。
Q七番の舞は毎年すべて舞われますか。
A毎年とは限りません。本祭と裏祭を隔年で行い、本祭では全曲を、裏祭では眠り仏のみを舞います。
Q祭礼の日以外に知る方法はありますか。
Aあります。池田地区の蓮華会之館で面や装束、関連資料を通年で見られるほか、保存会に依頼すれば演目の一部を上演してもらえます。
Q隠岐へはどう行きますか。
A島後へは、松江市の七類港または鳥取県の境港からフェリー・高速船で渡るか、隠岐空港への空路を使います。西郷港から国分寺のある池田地区までは車で短時間です。

基本データ

名称隠岐国分寺蓮華会舞(おきこくぶんじれんげえまい)
指定区分国指定 重要無形民俗文化財
指定年月日昭和52年(1977年)5月17日
分類民俗芸能
公開場所島根県隠岐郡隠岐の島町池田 隠岐国分寺
公開日毎年4月21日(正御影供)
演目七番(麦焼舞・眠り仏・獅子舞・貴徳山神・竜王・太平楽・仏舞)
保護団体隠岐国分寺蓮華会舞保存会
拝観本堂前から無料で見学可

参考文献

文化遺産オンライン「隠岐国分寺蓮華会舞」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/208300
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/302/460
隠岐の島町「国指定文化財」
https://www.town.okinoshima.shimane.jp/www/contents/1001000000248/index.html
島根県立古代出雲歴史博物館「蓮華会舞」
https://www.izm.ed.jp/tenpu/izumi/izumi_matsuri15.html
しまね観光ナビ「隠岐国分寺蓮華会舞」
https://www.kankou-shimane.com/destination/21098

最終更新日: 2026.06.04