静岡県明ヶ島古墳群出土土製品──古墳時代の祈りの世界を伝える重要文化財
静岡県磐田市の住宅地の下に眠っていた、一千点を超える小さな土の造形物。明ヶ島(みょうがじま)古墳群から出土した土製品は、古墳時代の人々が神々に捧げた祈りのかたちを、驚くほど鮮やかに今に伝えています。人の姿、動物、武器、鏡、装身具、農具、機織り道具、そして楽器——手のひらに収まるほどの小さな粘土の模造品に込められた古代の精神世界は、2013年(平成25年)6月19日、国の重要文化財に指定されました。
明ヶ島古墳群とは
明ヶ島古墳群は、磐田市見付地区に所在する古墳時代中期から後期にかけての古墳群です。東部土地区画整理事業に伴い、平成6年度(1994年)から平成13年度(2001年)にかけて発掘調査が行われました。この調査の過程で、古墳の下部から約4,000点以上もの土製模造品が発見され、考古学界に大きな注目を集めました。
出土の中心となったのは5号墳で、一辺約18メートルの方墳(四角い形の古墳)です。5号墳の下で検出された「削り出し遺構」と呼ばれる特殊な構造から、土製品はほぼ原位置を保った状態で見つかりました。つまり、1,500年以上前の祭祀の場がほぼそのままの形で残されていたのです。この発見は、古代の祭祀がどのように執り行われていたかを知るうえで、極めて貴重な情報を提供しています。
なぜ重要文化財に指定されたのか
明ヶ島古墳群出土土製品が重要文化財に指定された理由は、大きく三つあります。
第一に、出土数の圧倒的な多さです。総数4,000点以上という出土量は全国的に見ても突出しており、保存状態の良い1,064点が重要文化財として指定されました。
第二に、種類の豊富さです。人形(ひとがた)・四足動物形・武具形(盾・甲)・武器形(大刀・弓・矢・靫)・鏡形・装身具形(腕輪・玉類)・農耕具形(斧・鍬鋤)・紡織具形(綛車・舞羽)・楽器形(棒琴・板琴・槽琴)・容器形など、極めて多様な形式が認められます。これほど多くの種類の土製品が一つの遺跡から出土した例は、全国でも他にありません。
第三に、作り分けの精緻さです。人形では武人・男性・女性を明確に区別し、楽器形では棒琴・板琴・槽琴という三種類を作り分けています。武器形では柄頭や茎尻の端部まで再現した大刀形、把手表現を持つ盾形、三角板の地板表現を持つ甲形など、実物の構造的特徴を正確に捉えた作品が数多く含まれています。さらに、靫形と矢形、綛車形と舞羽形のように、対になって機能する「組み合わせ式」の土製品も確認されています。
これらの特徴から、明ヶ島の土製品群は古墳時代の祭祀における土製品の種類と組合せをきわめてよく示しており、当時の祭祀の実態を把握するうえで極めて重要な資料であると評価されました。
土製模造品とは──埴輪との違い
古墳時代の土製品というと、多くの方が埴輪(はにわ)を思い浮かべるかもしれません。しかし、明ヶ島の土製品は埴輪とは異なる性格を持っています。埴輪は古墳の墳丘上や周囲に並べられた中空の大型土製品で、古墳の外観を飾り、死者の霊を守護する役割を担いました。
一方、明ヶ島の土製品は「土製模造品」と呼ばれるもので、手のひらに乗る程度の小さな焼き物です。粘土で実物の形を模して手づくりし、焼成したものです。これらは古墳の上に飾るのではなく、地面の上に配置して祭祀を行う際に使用されたと考えられています。さまざまな種類の土製品を組み合わせて地面に置き、神への祈りを捧げる——そうした古代の儀式のあり方を、明ヶ島の出土品は生き生きと物語っているのです。
見どころ・魅力
磐田市埋蔵文化財センターでは、明ヶ島古墳群出土土製品の一部が展示されています。小さいながらも一点一点に個性がある土製品の世界をぜひ間近でご覧ください。
人形は最も出土数が多く、コレクションの中核をなしています。武人の姿をした人形は力強い印象を与え、女性の人形は衣装の表現に当時の服飾文化を垣間見ることができます。四足動物形には犬や馬と思われるものがあり、古代人と動物の関わりを偲ばせます。
武器・武具の模造品は、実物の構造を驚くほど正確に再現しています。大刀形の柄頭や茎尻の細部、盾形の把手、甲形の三角板地板など、当時の職人の観察力と造形力が凝縮されています。
特に注目すべきは楽器形の土製品です。棒琴・板琴・槽琴という三種の弦楽器が模造されていることは、古墳時代の音楽文化を知るうえで貴重な資料であり、祭祀に音楽が伴っていた可能性を示唆しています。
また、農耕具形(斧・鍬鋤)や紡織具形(綛車・舞羽)は、祭祀の場においても農業や手工業が重要な意味を持っていたことを示しており、古代の人々の生活全般が神への祈りと密接に結びついていたことがうかがえます。
周辺情報
明ヶ島古墳群出土土製品が収蔵・展示されている磐田市埋蔵文化財センターの周辺には、歴史的な見どころが数多くあります。磐田市見付地区は、古代には遠江国の国府が置かれた地域であり、歴史の重層性を感じられるエリアです。
埋蔵文化財センターから近い場所にある遠江国分寺跡は、国の特別史跡に指定されています。天平13年(741年)の聖武天皇の詔によって建てられた国分寺の跡で、全国で初めて伽藍配置が明らかになった国分寺研究の出発点です。現在は歴史公園として美しく整備されており、七重塔跡や金堂跡の礎石を見ながら散策を楽しめます。
旧見付学校は、明治8年(1875年)に建築された日本最古級の木造洋風校舎で、現在は教育資料館として公開されています。また、矢奈比賣神社(見付天神)は学問の神様として知られ、毎年旧暦8月に行われる「見付天神裸祭」は国の重要無形民俗文化財に指定されている奇祭です。
磐田市はヤマハ発動機の本社所在地でもあり、ヤマハコミュニケーションプラザではヤマハの歴史や製品を楽しく学べます。磐田市香りの博物館では、オリジナルの香水づくり体験ができ、歴史散策とは趣の異なるひとときを過ごせます。
春には、樹齢約850年と推定される国指定天然記念物「熊野の長藤」が見事な花を咲かせ、獅子ヶ鼻公園では桜と新緑のハイキングが楽しめます。
Q&A
- 明ヶ島古墳群の土製品と埴輪はどう違うのですか?
- 埴輪は古墳の墳丘上に並べられた中空の大型土製品ですが、明ヶ島の土製品は「土製模造品」と呼ばれる手のひらサイズの小型の焼き物です。人・動物・武器・道具・楽器など実物を模して粘土で作り、地面に置いて祭祀に用いたと考えられています。使用目的や設置場所が埴輪とは異なります。
- 磐田市埋蔵文化財センターには外国語の案内はありますか?
- 展示解説は主に日本語ですが、土製品の実物は目で見て楽しめるため、言語に関わらず十分に鑑賞いただけます。事前に連絡すれば展示解説を受けることも可能ですので、ご訪問前に文化財課(電話:0538-32-9699)にお問い合わせされることをおすすめします。
- 明ヶ島古墳群の発掘現場を見ることはできますか?
- 明ヶ島古墳群は土地区画整理事業に伴う発掘調査で発見されたもので、現在は住宅地となっており、古墳を直接見ることはできません。出土した土製品は磐田市埋蔵文化財センターに収蔵・展示されていますので、そちらをご見学ください。
- 見学にはどのくらいの時間が必要ですか?
- 埋蔵文化財センターの見学所要時間は約30分が目安です。周辺の遠江国分寺跡や旧見付学校なども合わせて巡ると、半日ほどの充実した歴史散策コースになります。
- アクセス方法を教えてください。
- JR東海道本線磐田駅前バスターミナル2番のりばから、遠鉄バス「二俣山東行き」に乗車し、「図書館前」バス停で下車、徒歩約1分です。磐田駅からの徒歩の場合は約30分です。お車の場合は、東名高速道路の磐田ICまたは浜松ICから約20分です。
基本情報
| 正式名称 | 静岡県明ヶ島古墳群出土土製品(附 土製品残欠) |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定重要文化財(考古資料) |
| 指定年月日 | 平成25年(2013年)6月19日 |
| 時代 | 古墳時代(中期〜後期、5世紀〜7世紀頃) |
| 点数 | 重要文化財指定 1,064点(附を含む)、総出土数 4,000点以上 |
| 所有者 | 磐田市 |
| 展示・収蔵場所 | 磐田市埋蔵文化財センター |
| 所在地 | 〒438-0086 静岡県磐田市見付3678-1 |
| 開館時間 | 午前8時30分〜午後5時(平日のみ) |
| 休館日 | 土曜日・日曜日・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日) |
| 入館料 | 無料 |
| 電話 | 0538-32-9699(文化財課) |
| アクセス | JR磐田駅前バスターミナル2番のりば 遠鉄バス「二俣山東行き」乗車、「図書館前」下車 徒歩約1分/JR磐田駅から徒歩約30分/東名高速 磐田ICまたは浜松ICから車で約20分 |
参考文献
- 静岡県明ヶ島古墳群出土土製品 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/277816
- 明ヶ島古墳群出土土製品附土製品残欠 — 磐田市公式ウェブサイト
- https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sports_midokoro/bunkazai/kunishitei/1002061.html
- 明ヶ島古墳群出土土製品保存修理 — 磐田市公式ウェブサイト
- https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sports_midokoro/bunkazai/kunishitei/1007924.html
- 施設ガイド 埋蔵文化財センター — 磐田市公式ウェブサイト
- https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shisetsu_guide/toshokan_bunka/tenji/1003512.html
- 国指定文化財 — 磐田市公式ウェブサイト
- https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sports_midokoro/bunkazai/bunkazainitsuite/1002037.html
- 磐田に刻まれた歴史をたどる旅 — 磐田市観光協会
- https://kanko-iwata.jp/plans/history/
最終更新日: 2026.03.12