綿を積んだ倉庫が、よく鳴る部屋になった

旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)は、静岡県磐田市福田にある昭和前期(1926年から1945年)建築の木造倉庫で、平成25年(2013年)6月21日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。建築面積は129平方メートル。平成9年(1997年)の改修を経て、現在は小規模な音楽ホールとして使われている。

改修は開発事業として行われたものではない。福田音楽愛好会「アンダンテ」の初代代表であった故・寺田昭子さんが、自宅である丸四織物合名会社の織布工場木造倉庫を音楽ホールに改装し、平成9年4月に開いた。静岡新聞によれば、こけら落とし公演に出演したNHK交響楽団の奏者が「この倉庫はドルチェな音がする」と口にしたことが名称の由来だという。ドルチェは「甘く、やわらかく」を指す音楽用語である。

平成25年の登録は、この倉庫と、隣接する事務所兼主屋「寺田家住宅主屋」(洋館付き日本家屋)の2件が同時に対象となった。

建物の構成

倉庫は敷地の南東に建つ。屋根は切妻造の桟瓦葺。北面に下屋を設け、その中央を入口とする。外壁は下見板張で、東・南・西の各面に両開窓を二箇所ずつ、両妻には高窓を開く。糸と布を保管するための建物だから、開口はいずれも小さく、位置も高い。

この建物の性格を決めたのは、改修時の一つの判断だった。

もともと小屋裏には二階の床が張られ、上下二層の収蔵空間になっていた。その床を撤去したのである。結果として、二重梁和小屋の小屋組が室内に露出した。下梁と上梁が二段に架かり、その上に垂木が並ぶ構造がそのまま見える。低く積み重ねられた収蔵空間が、一続きの高い木の空間に変わった。床を取り去ることは文化財建造物では通常は損失を意味するが、ここでは小屋組の技術が見えるようになり、同時に響きが生まれた。

ホール側の案内は、その帰結について率直である。戦前の純木造のままで、防音設備も音響設計も加えていない。電気的に増幅する楽器や大きな太鼓には向かない。逆に、マイクを通さない声や楽器は十分に届く。聴衆から「演奏者の息遣いまで伝わってくる」という感想が寄せられている。

福田に、こうした倉庫があった理由

福田は「ふくで」と読む。磐田市の沿岸部、遠州灘に面した地区で、この規模の織物倉庫が建った背景そのものでもある。

当地の織物は、天保2年(1831年)に庄屋の寺田彦左衛門が大和国(現在の奈良県)を旅した際、厚地の綿織物である雲斎織を見て、農業・漁業の副業に適するとして導入したことに始まると言われる。明治中期になると、下駄の鼻緒の材料として需要のあったコール天の製織が始まり、明治28年から29年頃に製品化された。福田を中心とする産地はここから急速に形成される。地区が知られるのは別珍とコール天の二つで、いまも国内唯一の産地である。

戦時の痕跡も残る。この倉庫は終戦時、国有綿の保管倉庫としても使われた。入口には当時の日本政府の告知板が現在も掛かり、ポツダム勅令に基づく罰則が記されている。従業員のげた箱もそのままだという。コンサートに向かう来場者の多くは、その前を素通りしている。

訪問について―見学施設ではない

受付も常設の開館時間もない。ドルチェ倉庫は貸しホールであり、運営は寺田家が行っている。内部を見るには、ここで開かれるコンサートに足を運ぶか、自分で会場を借りるかのいずれかになる。

公表されている貸出料金は、催事の昼の部(9時から16時30分)が7,000円、夜の部(17時から21時)が7,000円、一日通しで14,000円。エアコンを使用する場合はいずれも1,000円が加算される。設備はエアコン3台、照明器具、舞台用の台、障碍者対応トイレ。備品にはピアノ1台と椅子70脚があり、昭和17年(1942年)製のヤマハ製リードオルガンも置かれている。予約・問い合わせは公式サイト、または dolce.souko@gmail.com へ。

敷地内の無料駐車場は上限27台。それを超える台数については、2026年6月1日から構外の有料駐車場を利用する扱いになると告知されている。人数の多い催しを計画する場合は事前の相談が必要になる。

音楽ではなく織物が目的であれば、天龍社織物工業協同組合が磐田市福田中島で運営する「コーデュロイハウス」がある。産地の生地が約600種類展示・販売されている。かつてこの倉庫に積まれていた布が、いまも近くで織られているという関係が見えてくる。

所在地の表記について補足しておく。文化庁データベースは「福田字村前東4447-2他」、ホール側の公表住所は「福田6085-15」となっている。地番と郵便用住所の違いによるものと考えられるが、経路検索にはホール側の表記を用いるのが確実である。

Q&A

Q旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)は見学できますか。
A自由見学はできません。ドルチェ倉庫は資料館ではなく貸しホールで、常設の開館時間や入場料はありません。内部を見るには、ここで開催されるコンサートに来場するか、会場として借りる必要があります。問い合わせは公式サイトまたは dolce.souko@gmail.com へ。
Qドルチェ倉庫(旧丸四織物合名会社倉庫)の貸出料金はいくらですか。
A催事の昼の部(9時から16時30分)が7,000円、夜の部(17時から21時)が7,000円、一日通しは14,000円です。エアコンを使用する場合は各1,000円が加算されます。ピアノ1台、椅子70脚、舞台用の台、障碍者対応トイレが利用できます。
Q旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)の響きがよいのはなぜですか。
A平成9年(1997年)の改修で小屋裏二階の床を撤去し、二重梁和小屋の小屋組が室内に現れる一続きの高い空間になったためです。防音設備や音響設計は加えられておらず、マイクを使わない声や楽器に向く一方、電気的に増幅する楽器や大きな太鼓には適しません。
Q旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
A文化庁データベースは建築年代を昭和前期(1926年から1945年)、改修を平成9年(1997年)としています。登録有形文化財への登録は平成25年(2013年)6月21日、登録番号22-0192、第75回登録です。
Qドルチェ倉庫のある磐田市福田地区は、どのような織物の産地ですか。
A別珍とコール天(コーデュロイ)の産地で、現在も国内唯一の産地とされます。織物の始まりは天保2年(1831年)に庄屋の寺田彦左衛門が雲斎織を導入したこととされ、コール天の製織は明治中期に始まりました。地区の生地は磐田市福田中島の「コーデュロイハウス」で見ることができます。

基本情報

名称旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)/きゅうまるしおりものごうめいがいしゃそうこ
所在地静岡県磐田市福田字村前東4447-2他(ホール公表住所:磐田市福田6085-15)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 22-0192
指定年平成25年(2013年)6月21日登録・告示
員数1棟
寸法木造、瓦葺、建築面積129平方メートル(昭和前期建築/平成9年改修)
所有者文化庁データベースに記載なし(個人)
公開状況コンサート来場または貸切利用時のみ。昼の部・夜の部各7,000円、一日14,000円(エアコン使用時は各1,000円加算)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009608
文化遺産オンライン「旧丸四織物合名会社倉庫(ドルチェ倉庫)」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206494
磐田市「国登録有形文化財」
https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sports_midokoro/bunkazai/bunkazainitsuite/1002040.html
静岡新聞「工場倉庫改装の音楽ホール、愛され25年」
https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1114986.html
静岡県「遠州織物の歴史」
https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/shokogyoservice/chiikisangyo/1044754/1044757/1044024/1041968.html

最終更新日: 2026.08.13