富士山の溶岩が刻んだ地下の回廊

静岡県御殿場市駒門。国道246号から少し外れた住宅と畑が続く一角に、足元へ向かって口を開ける洞窟がある。駒門風穴である。地元では正式名称よりも「かざあな」の呼び名で親しまれている。

およそ1万年前、富士山頂付近の火口から噴き出した溶岩が、東側の裾野を流れ下った。三島溶岩流と呼ばれるこの流れの内部で、表面が冷えて固まる一方、中心部の高温の溶岩は流れ続け、やがて抜け去った。あとに残ったのが、石でできた細長い空洞である。駒門風穴はそうしてできた溶岩洞窟のひとつで、富士山周辺に点在する風穴のなかでも規模の大きなものに数えられる。

洞内は本穴と枝穴の二つの通路に分かれる。全長は資料によって幅があり、本穴はおよそ240〜290メートル、枝穴は100メートル前後とされる。照明が整えられ実際に歩ける範囲は、本穴が入口から約150メートル、枝穴が分岐点から約45メートルほどである。内部の気温は一年を通じて約13度。夏は涼しく、冬は暖かく感じられる。

天然記念物に指定された理由

大正11年(1922年)3月8日、駒門風穴は国の天然記念物に指定された。指定基準は「(六)洞穴」と「(十)硫気孔及び火山活動によるもの」である。

文化庁のデータベースに記された指定の理由は、いくつかの点に整理できる。溶岩流による洞穴そのものが国内には数少ないこと。富士山周辺の風穴のなかで駒門風穴が大きなものの一つであること。そして洞内に立つと、溶岩が流れ、速度を落とし、固まっていった過程を壁や天井からそのまま読み取れること。指定文には、天井から垂れ下がる溶岩鍾乳石が貴重な要素としてとくに挙げられている。

2013年、富士山は「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録され、登山道や神社、景勝地など33の関連資産が構成資産に含まれた。富士五湖や胎内樹型のように、火山活動によって生まれた景観も名を連ねている。駒門風穴も同じく富士山の噴火が生んだ地形であり、当初は構成資産の候補に挙がっていた。しかし富士山への信仰や芸術との結びつきを証明できないという理由で候補から外れ、世界遺産の登録には至らなかった。駒門風穴の価値は、信仰の場としてではなく、火山がどのように働くかを示す地質の記録として評価されている。

洞内の見どころ

入口はホール状に大きく開け、天井までの高さは20メートルに達する。明るい屋外から下りてくると、その空間の広さに思わず足を止める人が多い。

立ち止まって眺めたい造形がいくつもある。壁面の一部では、固まった溶岩が縦じわのように垂れ下がり、肋骨が並んだような姿を見せる。肋骨状溶岩と呼ばれるこの形は、まだ柔らかい流れの表面が崩れ、引きずられて下垂したものである。天井からは溶岩鍾乳石がぶら下がる。石灰洞のつららのように細く尖るのではなく、ずんぐりと短い。足元では、冷えた溶岩の表面が縄目や波のしわを刻んでいる。流れが止まる直前の、緩やかな動きを残した縄状溶岩である。広く開けた一帯は千畳敷と呼ばれる。

本穴と枝穴が分かれるあたりには「神棚」と呼ばれる場所がある。昭和初期、ここの溶岩のすき間から直径約11センチの青銅鏡が見つかっている。古くから人がこの洞窟に出入りしてきたことをうかがわせる発見である。

駒門風穴は、ここにしかいない生きものの住みかでもある。名前に「コマカド」を冠する固有種が三種、コマカドチビゴミムシ、コマカドオビヤスデ、コマカドツチカニムシが生息している。いずれも真洞窟性生物と呼ばれ、永い暗闇に適応して目が退化、あるいは失われている。コウモリも数種が洞内をねぐらとし、わずかな光の届くところには黄色い藻のヒカリモが育つ。

一年を通じて変わらない冷涼な空気には、かつて実用的な役割もあった。御殿場とその周辺は、近代から現代にかけて養蚕が盛んな土地だった。駒門風穴はその冷気を活かして蚕卵紙、すなわち蚕が卵を産みつけた紙の保管に使われていた。低い温度が孵化を遅らせ、農家が必要とする時期まで卵を待たせたのである。

アクセスと周辺

鉄道では、JR御殿場線の富士岡駅から徒歩約20分。車では東名高速道路の御殿場インターチェンジから約10キロ、裾野インターチェンジから約5.5キロである。県道155号をはさんで入口の向かいに無料の駐車場があり、数分歩けば洞口に着く。大型バスは兎島交差点を経由するよう案内されている。

入口の脇では、富士山に染み込んだ水が伏流水となって湧き出ており、その場で飲むことができる。暑い日にはありがたい立ち寄りどころである。駒門風穴は大きな事業者ではなく地元の保存会のボランティアによって守られており、上に広がる住宅と畑の景色は、その下に洞窟が走っているとはほとんど思わせない。

駒門風穴は御殿場市の「観光十二選」のひとつに選ばれている。御殿場市は富士山の東麓に位置し、富士山とその周辺をめぐる拠点として使い勝手がよい。晴れた日には市内の多くの場所から富士の斜面を望むことができる。

Q&A

Q子ども連れでも楽しめますか。
A家族連れに人気のある見学先で、歩ける区間は短く、小さな子どもでも無理なく回れます。地下の通路を探検する感覚を楽しむ子が多いようです。床は凸凹し、天井が低くなる箇所もあるため、大人がそばに付き添い、頭上に注意してください。
Q見学にはどのくらい時間がかかりますか。
A所要時間は20分ほどが目安です。照明のある通路を進み、同じ道を引き返す順路です。
Q洞内は寒いですか。
A内部は一年を通じて約13度です。夏はさわやかに感じられますが、数分も歩くと肌寒く感じる人もいるため、薄手の羽織るものがあると安心です。床がごつごつし、天井から水が滴るので、底のしっかりした靴をおすすめします。
Qヘルメットの貸し出しはありますか。
A入口でのヘルメットの貸し出しはありません。本穴は多くの人が頭をぶつけずに通れますが、枝穴や数か所では天井が低くなります。帽子をかぶると多少の備えになり、頭上注意の表示がある箇所では姿勢を低くしてお進みください。
Q写真撮影はできますか。
A撮影はおおむね可能です。通路には照明がありますが明るくはないため、手ぶれに気をつけるか、暗所に強いカメラを使うときれいに写せます。

基本データ

名称駒門風穴(こまかどかざあな/こまかどふうけつ)
所在地静岡県御殿場市駒門69
指定区分国指定天然記念物
指定年月日大正11年(1922年)3月8日
指定基準(六)洞穴/(十)硫気孔及び火山活動によるもの
成り立ち約1万年前、三島溶岩流の内部に形成された溶岩洞窟
規模本穴 約240〜290メートル、枝穴 約100メートル(資料により差がある)。公開区間は本穴 約150メートル、枝穴 約45メートル
洞内温度年間を通じて約13度
開洞時間9:00〜17:00(3月〜11月)/9:00〜16:00(12月〜2月)
休洞日12月〜2月の月曜(祝日の場合は開洞)、12月31日。3月〜11月は無休
入洞料大人300円、高校・中学生200円、小学生100円、幼児無料
アクセスJR御殿場線・富士岡駅から徒歩約20分。東名高速道路・御殿場ICから約10キロ、裾野ICから約5.5キロ
管理駒門風穴保存会(地元ボランティア)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 駒門風穴
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/1321
御殿場デジタル資料館 [国天然記念物]駒門風穴
https://www.city.gotemba.lg.jp/museum/muse-cat-004/128.html
御殿場市観光協会 駒門風穴
https://gotemba.jp/information/1137/
ウィキペディア 駒門風穴
https://ja.wikipedia.org/wiki/駒門風穴

最終更新日: 2026.05.26