旧樫野家住宅:徳島に息づく大正ロマンの迎賓建築

徳島県板野郡松茂町の樫野倶楽部敷地内に佇む旧樫野家住宅は、大正時代の住宅建築の粋を集めた壮麗な近代和風建築です。1915年(大正4年)から1925年(大正14年)まで実に10年の歳月をかけて建てられたこの邸宅は、石灰産業で財を成した樫野家の繁栄を今に伝えています。1999年に国の登録有形文化財に登録され、現在は結婚式場「樫野倶楽部」の本館として新たな役割を担いながら、その建築美を多くの人々に届けています。

歴史的背景

旧樫野家住宅は、樫野家二代目当主・樫野恒太郎によって建てられました。樫野家は樫野石灰工業(現・株式会社樫野)の創業家であり、徳島県阿南市を拠点に石灰の製造・販売で大きな成功を収めた実業家一族です。石灰は明治・大正期の日本において建築資材、農業用肥料、工業原料として広く用いられた重要な素材であり、樫野家はその取引を通じて莫大な富を築きました。

邸宅の建設は1915年(大正4年)4月に着工し、1925年(大正14年)に完成しました。10年という長期にわたる建設期間は、細部に至るまで妥協のない仕上げと、最高品質の材料の調達を可能にしました。もともと事業の中心地であった阿南市に建てられたこの住宅は、その後松茂町に移築されています。

1994年(平成6年)、菓子メーカーのハレルヤ製菓(現・株式会社ハレルヤ)が徳島空港近くに整備した文化テーマパーク「阿波之里」の迎賓館として現在地に移築保存されました。1999年(平成11年)8月23日には国の登録有形文化財に登録。2004年(平成16年)には株式会社ときわが運営する結婚式場「樫野倶楽部」として再オープンし、歴史ある建築を活かした新しい文化的空間として生まれ変わりました。

文化財としての価値

旧樫野家住宅は、大正期の住宅建築として複数の優れた特徴を備えていることから、国の登録有形文化財に選ばれました。

建築面積381平方メートルを誇るこの邸宅は、大正時代の住宅建築としては極めて大規模です。入母屋造・瓦葺の屋根を持つ木造2階建ての構造で、良質な材料がふんだんに使われている点が際立っています。1階に設けられた広間と、2階の背の高い外観は、建物に堂々とした風格を与えており、原所有者の豊かさと社会的地位を如実に物語っています。

この建物は、明治後期から大正期にかけて石灰産業が徳島県にもたらした経済的繁栄の記録として、地域の歴史的景観に大きく貢献しています。この時代の産業家層の建築水準と生活様式を後世に伝える貴重な存在です。

建築の見どころ

旧樫野家住宅は、伝統的な日本建築の技法と大正期の洗練された美意識が融合した建物です。入母屋造の大屋根は、優美さと構造的な巧みさを兼ね備え、建物の象徴ともいえる存在感を放っています。外観は2階部分のせいが特に高く、堂々とした佇まいが印象的です。

内部に入ると、1階の広い広間が目を引きます。これは正式な集いや来客のもてなしの場として設計されたもので、地域の名士としての樫野家の格式を反映しています。建物全体を通じて、太い構造材から繊細な建具や金物の仕上げに至るまで、上質な木材と厳選された素材がふんだんに使われています。

また、大正モダニズムを感じさせるステンドグラスや骨董品の調度品が配置され、格調高い空間を演出しています。飴色に輝くシャンデリアや、独特の波打ち模様を持つ手吹きガラスの窓など、大正ロマンの薫りが漂う意匠が随所に見られます。

邸宅は約3,600坪(約11,900平方メートル)の樫野倶楽部敷地内に位置し、約80種類の季節の草花に彩られた美しい庭園に囲まれています。広々とした芝庭と丁寧に手入れされた植栽が、建築の美しさを引き立てる穏やかな景観を形成しています。

見学・アクセス情報

旧樫野家住宅は、徳島県板野郡松茂町の樫野倶楽部施設内にあります。一般の方の建物・庭園見学は月曜日・火曜日に可能とされていますが、事前にお問い合わせのうえご確認ください。その他の曜日は主に結婚式・宴会場として運営されています。

樫野倶楽部は徳島阿波おどり空港の近くに位置しており、飛行機で徳島を訪れる方にとって大変アクセスしやすい立地です。空港からタクシーで約6分です。高速バスをご利用の場合、徳島バス空港線の「松茂」または「中喜来東」バス停下車で徒歩約5分です。お車の場合は、神戸淡路鳴門自動車道「鳴門IC」から約10分、徳島自動車道「徳島IC」からも約10分です。また、徳島とくとくターミナル(高速バスターミナル)からは徒歩約5分の距離にあります。

周辺情報

旧樫野家住宅の周辺には、見どころがいくつもあります。同じ樫野倶楽部の敷地内には、もう一つの国登録有形文化財である旧大磯家住宅があります。文政13年(1830年)から天保14年(1843年)頃に建てられたこの住宅は、藍の製造・販売で栄えた大磯家の邸宅で、徳島のもう一つの代表的産業である藍産業の歴史を伝えています。

樫野倶楽部に隣接するハレルヤスイーツキッチンでは、徳島銘菓「金長まんじゅう」の製造工程を無料で見学できるほか、焼きたてのスイーツを楽しめるカフェや、お菓子作り体験(要予約)も用意されています。なると金時を使ったスイーツや阿波の素材にこだわった和洋菓子は、お土産にも最適です。

近隣の松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館では、徳島の伝統芸能である阿波人形浄瑠璃の世界に触れることができます。月見ヶ丘海浜公園は空港近くの海辺のレジャースポットで、海岸散策や景色を楽しめます。また、鳴門市方面に足を延ばせば、世界的に有名な大塚国際美術館や鳴門の渦潮観潮も楽しめます。

Q&A

Q結婚式の予定がなくても見学できますか?
Aはい。月曜日・火曜日は一般の方も建物と庭園の見学が可能とされています。事前に樫野倶楽部(Tel: 088-699-1007)へお問い合わせのうえ、ご訪問されることをおすすめいたします。
Q徳島阿波おどり空港からのアクセス方法は?
A空港からタクシーで約6分です。また、リムジンバスまたは路線バスで「中喜来東」バス停下車、徒歩約4分でもアクセスできます。
Q建物の建築的な特徴は何ですか?
A入母屋造・瓦葺の木造2階建てで、建築面積381平方メートルの大規模な住宅です。良質な材料をふんだんに用いている点、1階に広間を持つこと、2階のせいが高い外観が大きな特徴です。大正時代に10年をかけて建てられた丁寧な造りが随所に見られます。
Q駐車場はありますか?
Aはい、樫野倶楽部には専用駐車場が完備されています。お車でのご来場も可能です。
Q周辺で他に見学できる文化財はありますか?
A同じ樫野倶楽部の敷地内に、江戸時代末期の建築である旧大磯家住宅(国登録有形文化財)があります。また、近隣の松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館では、阿波人形浄瑠璃の伝統に触れることができます。

基本情報

名称 旧樫野家住宅(きゅうかしのけじゅうたく)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 1999年(平成11年)8月23日
建築年代 大正時代(1915年〜1925年)
構造 木造2階建、瓦葺(入母屋造)、建築面積381㎡
所在地 〒771-0220 徳島県板野郡松茂町広島字北川向四ノ越29-1
所有者 株式会社ときわ
現在の用途 樫野倶楽部(結婚式場・宴会場)
アクセス 徳島阿波おどり空港よりタクシー約6分/神戸淡路鳴門自動車道「鳴門IC」より車で約10分/徳島自動車道「徳島IC」より車で約10分
お問い合わせ Tel: 088-699-1007

参考文献

旧樫野家住宅 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/177526
樫野倶楽部 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AB%E9%87%8E%E5%80%B6%E6%A5%BD%E9%83%A8
樫野倶楽部 ― 国登録有形文化財 — おにわさん
https://oniwa.garden/kashino-club-tokushima/
樫野倶楽部【公式】
https://kashino.jp/
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001306

最終更新日: 2026.04.01