代官山の斜面に残る大正8年の家

旧朝倉家住宅は、東京都渋谷区猿楽町にある大正8年(1919年)建築の和風住宅で、平成16年(2004年)12月10日に国の重要文化財に指定された。指定番号は02455、員数は2棟。主屋と土蔵に加え、5419.81平方メートルの宅地が指定の対象である。翌平成17年(2005年)には土地の追加指定が行われた。附としては棟札1枚、杉皮葺の庭門(棟門)1棟、建築面積42.96平方メートルの附属屋1棟が記載されている。

東急東横線の代官山駅から徒歩5分、台地が目黒川の谷へ向かって急に落ち込む南西斜面の一角を占めている。

東京の木造建築は、大正12年(1923年)の関東大震災と昭和20年(1945年)の空襲で、そのほとんどが失われた。都心に近い場所に大正期の大規模な和風住宅が残っている例は数えるほどしかない。この住宅が建築史の研究者から繰り返し参照されてきた理由は、まずそこにある。関東大震災では土蔵が壊れたものの、主屋は瓦一枚落ちなかったと伝えられている。

朝倉家と、建設の経緯

朝倉家は甲州武田氏の家臣の出といい、その子孫が帰農して渋谷に住みついたと伝わる。江戸時代には地域の有力な地主となり、江戸末期から明治初期にかけては近くを流れていた三田用水の水車を使って精米業を営んだ。用水筋では最大の水車として知られていたという。事業はやがて米穀販売、さらに土地の集積による地主経営へと広がっていく。

建設を発注したのは、東京府議会議長や渋谷区議会議長を歴任した朝倉虎治郎である。大工棟梁は朝倉家出入りの秋元政太郎が担当した。大正8年3月16日の年紀をもつ棟札が箱に納められ、主屋2階建部分の棟木に打ち付けられていた。この棟札も附として指定に含まれている。朝倉家は昭和22年(1947年)までここを本邸として使った。

戦後は相続税の支払いのため手放され、経済企画庁の会議所などとして使用された。平成14年(2002年)に閣議で売却が決定されると、元の所有者である朝倉家と、隣接するヒルサイドテラスの設計者である建築家・槇文彦が中心となって保存運動が展開された。その結果、平成16年に主屋と土蔵が重要文化財に指定され、保存が決まっている。現在は国(文部科学省)が所有し、渋谷区が管理団体として一般公開している。

指定の理由 ― 2棟が守るもの

適用された重文指定基準は第五号、流派的又は地方的特色において顕著なものである。評価の軸になったのは、ひとつの住宅が部屋の用途に応じて建築の語法を切り替えている点だった。接客のための御殿風の座敷、家族が使う内向きの居間、茶室。それぞれ意匠の性格が違うのに、全体としては破綻していない。この機能的な多様性をもつ住宅複合体は、近代における和風住宅の展開を知るうえで重要な資料となっている。

主屋は木造、一部2階建で、建築面積573.76平方メートル。東西棟の主体部の東前方に、南北棟の平屋が接続する。屋根は桟瓦葺で、軒先に向かう線に強い起りがつく。外壁は下見板張を基本とし、一部を漆喰塗とする。

土蔵だけは性格が異なる。軸部は木造だが、外壁を鉄筋コンクリート造としてモルタル洗出しで仕上げてある。大正8年頃の住宅付属建築としては先を行く選択だった。戸口と窓には観音開きの鉄扉が吊り込まれ、2階の東面には戸棚が造り付けられている。東面に庇を付けた蔵前があり、茶室北の小間と直接つながる。

2棟が一件の指定であるのは、この対比を含めてひとつの屋敷だからである。主屋だけを見れば良質な大正期の和風住宅であり、土蔵だけを見れば小ぶりな鉄筋コンクリートの蔵にすぎない。震災で土蔵が壊れ主屋が無傷だったという事実も、両方が残っているからこそ確かめられる。文化庁の解説は、建物と庭園が一体で保存されている点、そして東京が近代都市へ本格的に脱皮していく時期に、市街地化が急速に進む周縁部で営まれた邸宅である点にも触れている。大正8年の猿楽町からは、まだ田園が見えていた。

見どころ ― 玄関から杉の間へ

入口は東面中央に突出した玄関。入って左手が四周に縁を廻した12畳半の応接室、右手が洋間である。数歩のうちに、この家が和と洋の両方を用意していることがわかる。洋間は邸内で唯一の洋室で、折上格天井、シャンデリア用の彫刻を施した木製ブラケット、一枚板を用いた引違い戸など、細部まで丁寧に仕上げられている。日常の来客対応や事務に使われていた空間である。

2階に上がると格式が一段上がる。15畳の主室と12畳半の次の間が並び、いずれも天井を高く格天井とする。壁面には内法長押のほかに飛長押と天井長押が廻り、線が三段に重なる。柱や長押などの化粧材は檜の良材。小屋組は和小屋だが、梁組には水平斜材を打って補強してある。装飾ではなく、造り手の判断がそのまま残った部分だ。

奥へ進むと、杉の間と呼ばれる座敷部に出る。ここで空気が変わる。化粧材は檜から杉へ。屋久杉の巨大な一枚板をはじめとする杉材が用いられ、木目を浮き立たせるうづくりの技法で仕上げられた木肌は、視覚にも触覚にも訴える。床と棚の配置はぐっと自由になり、奥二室の天井は長尺で幅の広い杉板を底目張りとしている。軽い。意図して軽くしてある。

茶室は中央に囲炉裏を切る。その北の小間には大きな円窓が開く。各室の戸襖、袋棚の小襖、杉戸には多彩な技法による障屏画が描かれているので、部屋から部屋へ移るときは敷居のところで一度足を止めたい。

庭園は崖線の地形を打ち消さずに使う。斜面を回る園路の沿道に庭石や大型の石灯籠が多数配され、モミジを中心とした雑木林を抜けていく回遊式である。春はツツジ、秋はモミジが見ごろとなる。足元の悪い箇所があるので、歩きやすい靴で訪れたい。

訪問前に知っておきたいこと

開館時間は10時から18時、11月から2月は16時30分まで。入館はいずれも閉館の30分前までである。休館日は月曜日(祝日の場合は直後の平日)と、年末年始の12月29日から1月3日まで。

観覧料は一般500円、渋谷区民200円、小中学生50円。年間観覧料はそれぞれ2,000円、800円、200円である。10人以上の団体は一般400円、小中学生40円。渋谷区民で60歳以上の方、障害のある方および付き添いの方1人は無料となる。渋谷区民価格を利用する際は、受付で住所の分かるものの提示が必要である。

建物内は靴を脱いでの見学となる。施設保護のため素足での入館は断られ、スリッパの使用も禁止されているので、靴下は必ず用意しておきたい。保存の都合で見学できない部屋がある。個人の撮影は可能だが、商行為での撮影には制限があり別途手続きが必要となる。

交通は東急東横線代官山駅から徒歩5分、ハチ公バス夕やけこやけルート「代官山駅」から徒歩5分、東急トランセ「ヒルサイドテラス」から徒歩3分。入口は代官山交番の向かいで、ヒルサイドテラス側からは入館できない。駐車場はなく、車での来場もできない。重要文化財のためバリアフリー対応には制約がある。

Q&A

Q旧朝倉家住宅はいつ建てられ、いつ指定されましたか。
A大正8年(1919年)の建築で、棟札に同年3月16日の年紀があります。国の重要文化財の指定は平成16年(2004年)12月10日、指定番号02455で、員数は主屋と土蔵の2棟に宅地5419.81平方メートルを加えたものです。平成17年(2005年)に土地の追加指定が行われました。
Q旧朝倉家住宅が重要文化財に指定された理由は何ですか。
A適用基準は第五号、流派的又は地方的特色において顕著なものです。接客の座敷、内向きの居間、茶室と、部屋の用途に応じて建築の語法を切り替えながら全体が破綻していない点が評価されました。関東大震災以前の大規模な和風住宅が都心にほとんど残っていないことも背景にあります。
Q旧朝倉家住宅の主屋と土蔵はどう違いますか。
A主屋は木造一部2階建、桟瓦葺、建築面積573.76平方メートルで、外壁は下見板張を基本とします。土蔵は軸部こそ木造ですが外壁を鉄筋コンクリート造としてモルタル洗出しで仕上げており、大正8年頃の住宅付属建築としては先を行く選択でした。関東大震災では土蔵が壊れ、主屋は瓦一枚落ちなかったと伝わります。
Q旧朝倉家住宅の見学料と開館時間を教えてください。
A観覧料は一般500円、渋谷区民200円、小中学生50円です。10人以上の団体は一般400円、小中学生40円。渋谷区民で60歳以上の方、障害のある方と付き添いの方1人は無料です。開館は10時から18時、11月から2月は16時30分までで、入館は閉館30分前まで。月曜日と12月29日から1月3日は休館です。
Q旧朝倉家住宅を見学するときの注意点はありますか。
A靴を脱いでの見学となり、施設保護のため素足での入館は断られ、スリッパも使えないので靴下が必要です。保存の都合で見学できない部屋があります。個人の撮影は可能ですが商行為の撮影は別途手続きが要ります。駐車場はなく車での来場はできません。

基本情報

名称旧朝倉家住宅(きゅうあさくらけじゅうたく)
所在地東京都渋谷区猿楽町29番地(29-20)
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号02455/指定基準(五)流派的又は地方的特色において顕著なもの
指定年平成16年(2004年)12月10日/平成17年(2005年)土地追加指定
員数2棟(主屋1棟、土蔵1棟)および宅地5419.81平方メートル/附 棟札1枚、庭門(棟門)1棟、附属屋1棟
寸法主屋 木造、一部2階建、桟瓦葺、建築面積573.76平方メートル/土蔵 鉄筋コンクリート造及び木造、2階建、桟瓦葺、東面庇附属、建築面積29.03平方メートル/大正8年(1919年)
所有者国(文部科学省)/管理団体は渋谷区
公開状況一般公開。10時から18時(11月から2月は16時30分まで、入館は閉館30分前まで)。月曜日および12月29日から1月3日は休館。観覧料は一般500円、渋谷区民200円、小中学生50円

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 旧朝倉家住宅(主屋)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00003889
文化庁 国指定文化財等データベース 旧朝倉家住宅(土蔵)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00003890
文化遺産オンライン 旧朝倉家住宅
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/188036
渋谷区 重要文化財 旧朝倉家住宅
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/bunka-shisetsu/asakura/asakura_00004.html

最終更新日: 2026.08.31

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