水のある場所に住みたい、という願いから建った家

旧武者小路実篤邸主屋(きゅうむしゃこうじさねあつていしゅおく)は、東京都調布市若葉町一丁目にある昭和30年(1955年)建築の木造平屋建住宅で、平成30年(2018年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。小説家・武者小路実篤(1885〜1976)が70歳で移り住み、90歳で亡くなるまでの20年間を過ごした自邸である。

実篤には子どもの頃からの願いがあった。年をとったら水のあるところに住みたい、というものである。70歳を前に自ら歩いて土地を探し、仙川のこの斜面と出会って一目で決めたと伝わる。以後、この家を「仙川の家」と呼んだ。

選ばれた土地は、東京西部に特有の地形の上にある。武蔵野台地の縁を国分寺崖線が走り、台地に染み込んだ水が急坂の中段で湧き出す。いわゆる「はけ」の地形で、敷地には大小二つの池があり、上の池には湧水の水源がある。昭和30年代後半から周囲が次々に宅地化されていくなかで、この一角に古い武蔵野の林が残ったのは、作家が庭として抱え込んだからだった。

移り住んだ時点で、実篤はすでに大きな存在だった。志賀直哉らと雑誌『白樺』を創刊し、「友情」「愛と死」などの小説を書き、理想郷「新しき村」を興した。ただし、多くの日本人が最初に思い浮かべるのはおそらく別のものだろう。野菜を描いた絵に短い言葉を添えた色紙、とりわけ「仲よき事は美しき哉」の一枚である。晩年のそうした書画の多くと、自伝小説「一人の男」は、この家で生まれた。

昭和30年の住宅が、なぜ登録されたのか

適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」で、文化庁は評価を「戦後和風住宅の好例」とまとめている。この短い一句が指しているのは、それなりに切実な課題である。戦前の社会の枠組みが失われたあと、日本の伝統的な住まいはどんな形をとればよいのか。

設計を担当した建築家・山口芳春の答えは、外と内を書き分けることだった。外観はモルタルの大壁で仕上げ、木の軸組を塗り込めてしまう。柱や梁の並ぶ面ではなく、量感のある静かな壁として見える。ところが内部に入ると、当時流行していた新興数寄屋の手法に切り替わり、細い部材と抑えた仕上げで軽やかにまとめられている。外は重く、内は瀟洒に。

平面も、斜面を削らずにそのまま使っている。玄関は山側の北面、居室は谷側の南面に置かれ、視線は池のある低い方へ抜ける。建物の一部の下には地下室があり、文化庁の記載も「木造平屋建地下室付」となっている。構造は木造平屋建、切妻造の鉄板葺、建築面積は195平方メートル。調布市はより細かく194.54平方メートルという数字を示している。

実篤の死後、旧邸と敷地は数々の遺品とともに遺族から調布市に寄贈され、昭和53年(1978年)5月に実篤公園として開園した。所有者は現在も調布市である。

いつ行けば、中に入れるのか

見られるものは訪問日で決まる。旧実篤邸の内部公開は毎週土曜日・日曜日と祝休日の午前11時から午後3時まで。雨天の場合は中止となる。平日はバルコニーからガラス戸越しに邸内を眺めることができ、南面の居室と庭との関係はこれでもある程度つかめるが、それ以外の部分は見えない。

建物が立つ実篤公園は約5,000平方メートル。ウメ、コブシ、サクラ、フジ、アジサイ、ツバキなどの花木と武蔵野の野草が季節ごとに入れ替わり、秋には紅葉する。園内にはあづまやがあって腰を下ろせる。上の池には湧水の水源、下の池には鯉。初夏から初秋にかけては、珍しい黄金色の藻「ヒカリモ」を見ることができる。

隣接する調布市武者小路実篤記念館は昭和60年(1985年)10月の開館で、原稿、手紙、絵や書、実篤が集めた美術品などを所蔵する。常設展示を置かず、4〜5週間ごとにテーマを変えて展示替えを行うので、訪ねるたびに違う作品に出会うことになる。開館時間は午前9時から午後5時、休館日は月曜日(祝日のときは翌日、その翌日が祝日ならさらに翌日)と年末年始。入場料は大人200円、小・中学生100円で、調布市内在住の65歳以上の方は無料である。記念館と公園は地下通路で結ばれている。

注意点が二つある。館内および旧実篤邸内は撮影・録音が禁止されている。閲覧室で使えるのは鉛筆だけで、飲食物、かさ、ペットの持ち込みも公園を含めて不可となっている。もう一つは足元で、公園内の通路は段差が多く急坂もある。車椅子を利用する場合は受付に声をかければ幅80センチメートルの階段のない通路を案内してもらえるが、園内全体の移動は難しい。池があるため初夏から秋は蚊が出るので、虫除けは館外で使ってほしい。

アクセスは京王線の仙川駅またはつつじヶ丘駅から徒歩約10分。小田急線・成城学園前駅からは「調布駅」行または「つつじヶ丘駅南口」行のバスに乗り、稲荷前で下車して徒歩5分である。記念館の駐車場は乗用車5台分のみで、公園入口側には駐車場がない。

Q&A

Q旧武者小路実篤邸の内部は見学できますか。公開日はいつですか。
A内部公開は毎週土曜日・日曜日と祝休日の午前11時から午後3時までです。雨天中止のため、当日の天候に注意してください。平日はバルコニーからガラス戸越しに邸内をご覧いただけます。詳しい日程は武者小路実篤記念館の月間スケジュールで確認できます。
Q旧武者小路実篤邸と武者小路実篤記念館の入場料はいくらですか。
A調布市武者小路実篤記念館の入場料は大人200円、小・中学生100円です。旧邸のある実篤公園は無料で入れます。調布市内在住の65歳以上の方、各種手帳をお持ちの方と付添人は無料で、交通系ICカードやクレジットカードによる支払いにも対応しています。
Q旧武者小路実篤邸の中で写真撮影はできますか。
Aできません。旧実篤邸内および記念館内は撮影・録音が禁止されています。閲覧室で使用できる筆記具は鉛筆のみで、飲食物やかさ、ペットの持ち込みも公園を含めて禁止されています。
Q旧武者小路実篤邸はいつ建てられ、誰が設計したのですか。
A昭和30年(1955年)の建築で、設計は建築家・山口芳春です。登録は平成30年(2018年)11月2日、第91回登録で、登録番号は13-0415。登録対象は木造平屋建地下室付、金属板葺、建築面積195平方メートルの1棟です。
Q旧武者小路実篤邸へのアクセス方法を教えてください。
A京王線の仙川駅またはつつじヶ丘駅から徒歩約10分です。小田急線・成城学園前駅からは「調布駅」行または「つつじヶ丘駅南口」行のバスで稲荷前下車、徒歩5分。駐車場は記念館側に乗用車5台分のみで、大型バスの駐車場はありません。

基本情報

名称旧武者小路実篤邸主屋(きゅうむしゃこうじさねあつていしゅおく)
所在地東京都調布市若葉町一丁目23-20他(記念館は若葉町1-8-30)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 13-0415
指定年平成30年(2018年)11月2日登録(第91回)
員数1棟
寸法木造平屋建地下室付、金属板葺、建築面積195平方メートル(調布市の資料では194.54平方メートル)
所有者調布市
公開状況内部公開は土曜・日曜・祝休日の11時〜15時(雨天中止)。平日はバルコニーからガラス戸越しに見学可。記念館は9時〜17時、月曜・年末年始休館、大人200円・小中学生100円。館内および旧邸内は撮影禁止

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧武者小路実篤邸主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012508
文化遺産オンライン「旧武者小路実篤邸主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/446723
調布市武者小路実篤記念館「旧実篤邸」
https://www.mushakoji.org/about/saneatsutei.html
調布市武者小路実篤記念館「旧武者小路実篤邸が登録有形文化財に登録されます」
https://www.mushakoji.org/info/info_078.html
調布市武者小路実篤記念館「利用案内・アクセス」
https://www.mushakoji.org/about/info.html
調布市「武者小路実篤記念館」
https://www.city.chofu.lg.jp/100200/p073016.html

最終更新日: 2026.08.22