日向国西都原古墳出土金銅馬具類 ― 古代東アジア外交を物語る国宝の輝き

日本の古墳時代を代表する考古資料のひとつとして名高い「日向国西都原古墳出土金銅馬具類」。1956年(昭和31年)に国宝に指定されたこの一揃いの馬具は、6世紀の古墳時代後期に制作されたもので、古代日本と朝鮮半島との政治的・文化的交流を雄弁に物語る至宝です。

文化財の指定名称では「西都原古墳出土」とされていますが、学術的な調査研究により、実際には宮崎県西都市の西都原古墳群の西方に位置する「百塚原古墳群」の一基から出土したものと考えられています。現在、原品は東京都世田谷区上野毛の五島美術館に所蔵され、宮崎県立西都原考古博物館では精巧なレプリカを見ることができます。

金銅馬具類とは

古墳時代において、馬具は単なる実用品ではなく、権力と威信の象徴でした。儀式や行列で使用される飾馬(かざりうま)に装着された豪華な金銅製馬具は、被葬者の社会的地位と政治的影響力を如実に物語るものです。

本馬具類の構成は以下の通りです。金銅鞍橋金具(くらぼねかなぐ)残闕1背分、金銅透彫杏葉(ぎょうよう)3枚、金銅無地杏葉4枚、金銅透彫雲珠(うず)1箇、金銅無地雲珠1箇、金銅透彫辻金物9箇、金銅無地辻金物6箇、金銅透彫散金物16箇、金銅透彫轡鏡板(くつわかがみいた)2箇、金銅鉸具(かこ)1箇。鐙(あぶみ)を除くほぼ一式が揃っており、古墳時代の馬具としては稀有な完存度を誇ります。

国宝に指定された理由

本馬具類は1935年(昭和10年)に旧国宝保存法に基づく国宝(現在の重要文化財に相当)に指定された後、1956年(昭和31年)6月28日に文化財保護法に基づく国宝に指定されました。宮崎県出土の考古資料としては唯一の国宝であり、その学術的・芸術的価値は極めて高いものです。

国宝指定の大きな理由として、まず全体を統一する龍文透彫(りゅうもんすかしぼり)の意匠が挙げられます。鞍金具から辻金物、雲珠に至るまで、龍をモチーフとした繊細な透かし彫りで統一された美しいデザインは、古代金工技術の精華と称されています。さらに、朝鮮半島の新羅(しらぎ)に由来する舶載品(はくさいひん)と考えられ、6世紀の東アジアにおける外交と文化交流を具体的に裏付ける第一級の考古資料でもあります。

歴史的意義 ― 東アジア外交の証

南九州のこの地から、朝鮮半島から渡来した最高級の馬具が出土したことは、古代日向(ひゅうが)の政治的重要性を物語っています。古墳時代後期の6世紀、大和王権は朝鮮半島の新羅・百済・高句麗との間で複雑な外交関係を維持していました。

このような第一級の馬具が副葬されていたことは、被葬者が大和王権と朝鮮半島諸勢力との間で政治的・軍事的に重要な役割を果たした人物であったことを示唆しています。海上交通の要衝に位置する南九州において、国際的な外交ネットワークの一端を担った有力者の姿が浮かび上がります。

朝鮮半島の新羅においては、金銅透彫の装飾を持つ馬具類を副葬した古墳が多数確認されており、西都原の馬具との密接な関連性が指摘されています。これらの馬具は、古代東アジアの広域的なつながりを証明する貴重な存在なのです。

魅力・見どころ

実物を鑑賞する際にぜひ注目していただきたいのが、辻金物や雲珠に施された透彫の緻密さです。薄い金銅板に龍の文様が精巧に切り抜かれ、流れるような曲線が優美な陰影を生み出しています。

散金物はドーム状の小さな飾り金具で、内部に鈴が仕込まれています。馬が歩くたびにシャンシャンと美しい音色を奏でたことでしょう。視覚だけでなく聴覚にも訴える演出は、古代の儀式の荘厳さを偲ばせます。

杏葉(ぎょうよう)は特徴的な葉の形をした垂飾りで、馬の胸や腰の帯から優雅に揺れ動いたことが想像されます。透彫と無地の杏葉が交互に配されたであろうリズミカルな意匠は、当時の職人たちの優れた美的感覚を示しています。

鞍橋金具は残念ながらその大半が失われており「残闕」として伝わりますが、残された縁取り部分の装飾からも、完全な状態での豪華さが偲ばれます。

鑑賞できる場所

五島美術館(東京)― 原品所蔵

原品を所蔵するのは、東京都世田谷区上野毛の五島美術館です。東急グループの礎を築いた五島慶太氏のコレクションをもとに1960年に開館した同館は、国宝5件・重要文化財50件を含む約5,000件の美術品を収蔵しています。建築家・吉田五十八が設計した寝殿造の意匠を取り入れた本館建物と、約6,000坪の広大な庭園も見どころのひとつです。

ただし、金銅馬具類は常設展示ではなく、年間6~7回の展覧会の中で、主に夏季の企画展などで公開されることがあります。ご来館前に、公式ウェブサイトまたはお電話にて展示状況をご確認されることをお勧めいたします。

宮崎県立西都原考古博物館(宮崎)― レプリカ展示

出土地に近い西都原考古博物館では、精巧なレプリカを常時ご覧いただけます。入館料は無料で、展示物に直接触れることができる体験型の展示が充実しています。特別史跡・西都原古墳群の一角に建つ博物館は、古墳群全体をフィールドミュージアムとして捉えたユニークな施設です。勾玉づくりや埴輪づくりなどの古代生活体験も人気です。

周辺情報

五島美術館の周辺では、美術館に付属する美しい日本庭園の散策がお勧めです。春には枝垂れ桜、初夏にはツツジが咲き誇り、池や石仏など見どころが点在しています。近隣の二子玉川エリアは、ショッピングやグルメが充実し、多摩川沿いの散歩も楽しめます。

西都原では、古墳群そのものが壮大な屋外博物館です。横穴式石室を持つ唯一の古墳「鬼の窟(おにのいわや)古墳」や、日本最大の帆立貝形古墳・男狭穂塚(おさほづか)、九州最大の前方後円墳・女狭穂塚(めさほづか)など見応えのある古墳が点在しています。「記紀の道」と呼ばれるウォーキングコースでは、日本神話ゆかりの地を巡ることができます。毎年11月に開催される「西都古墳まつり」では、数百人によるたいまつ行列が古墳群を幻想的に照らし出します。

Q&A

Q五島美術館でいつでも国宝の馬具を見られますか?
A常設展示ではないため、いつでもご覧いただけるわけではありません。年間数回の展覧会の中で企画テーマに沿って展示されますので、ご来館前に五島美術館の公式サイトやお電話でご確認ください。
Q五島美術館で写真撮影はできますか?
A建物内(展示室を含む)での撮影は禁止されています。ただし、庭園内では他のお客様のご迷惑にならない範囲で撮影が可能です。
Q西都原考古博物館は無料で入館できますか?
Aはい。宮崎県立西都原考古博物館は入館無料です。国宝馬具類の精巧なレプリカをはじめ、多くの考古資料を無料でご覧いただけます。
Qこの馬具は日本で作られたものですか?
A現在の研究では、朝鮮半島から渡来した舶載品と考えられています。特に新羅(しらぎ)との関連が指摘されており、6世紀の東アジアにおける外交・交流を通じて日本にもたらされたとされています。
Q五島美術館へのアクセス方法を教えてください。
A東急大井町線(各駅停車)「上野毛(かみのげ)」駅下車、徒歩約5分です。渋谷からは約20分でアクセスできます。

基本情報

正式名称 日向国西都原古墳出土金銅馬具類(ひゅうがのくにさいとばるこふんしゅつどこんどうばぐるい)
種別 国宝(考古資料)
時代 古墳時代(6世紀)
国宝指定日 1956年(昭和31年)6月28日
旧国宝指定日 1935年(昭和10年)4月30日
出土地 宮崎県西都市 西都原古墳群(百塚原古墳群)
所蔵 五島美術館(東京都世田谷区上野毛3-9-25)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替期間、夏期整備期間、年末年始
入館料 一般1,100円 / 高・大学生800円 / 中学生以下無料(特別展は別途)
アクセス 東急大井町線「上野毛」駅より徒歩約5分
レプリカ展示 宮崎県立西都原考古博物館(宮崎県西都市、入館無料)

参考文献

金銅馬具類 宮崎県西都原古墳群出土 — 五島美術館 公式サイト
https://www.gotoh-museum.or.jp/2020/10/19/06-001/
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/853
日向国児湯郡西都原古墳出土金銅製馬具 — 日本遺産 南国宮崎の古墳景観
https://miyazaki-kofun.jp/properties/detail/21a3bd28-6a21-4154-bb21-f1a07b0554dc
百塚原古墳群 — 宮崎県西都市
https://www.city.saito.lg.jp/post_336.html
西都原古墳群 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%83%BD%E5%8E%9F%E5%8F%A4%E5%A2%B3%E7%BE%A4
WANDER 国宝 — 日向国西都原古墳 金銅馬具類
https://wanderkokuho.com/201-00853/
五島美術館 — アートアジェンダ
https://www.artagenda.jp/museum/detail/37

最終更新日: 2026.03.18