鎌田共済会郷土博物館(旧図書館):大正ロマンが息づく坂出の文化遺産

香川県坂出市、JR坂出駅から徒歩わずか5分の場所に佇む白亜の洋館——鎌田共済会郷土博物館は、1922年(大正11年)に「鎌田共済会図書館」として建設された、日本初期の本格的鉄筋コンクリート造図書館建築です。1998年(平成10年)に国の登録有形文化財に登録されたこの建物は、現在、香川県の歴史と文化に関する約6万点の貴重な資料を収蔵・展示する博物館として、訪れる人々を大正時代の優雅な世界へと誘っています。

鎌田勝太郎と鎌田共済会の志

この博物館の歴史は、坂出の実業家・鎌田勝太郎(1864〜1942年)の社会貢献の精神と深く結びついています。鎌田家は1789年(寛政元年)に醤油醸造業を創業した名家であり、勝太郎はその事業を発展させるとともに、貴族院多額納税者議員として政界でも活躍しました。「讃岐坂出塩業の父」とも称された勝太郎は、醤油醸造で得た利益を社会に還元することを信条とし、1918年(大正7年)に慈善・育英・社会教育を目的とする財団法人鎌田共済会を設立しました。

鎌田共済会は設立後、1922年に図書館、1925年(大正14年)に郷土博物館、1927年(昭和2年)に社会教育館を次々と開設し、地域の文化振興と教育に多大な貢献を果たしました。その精神は現在も公益財団法人鎌田共済会によって受け継がれ、博物館の運営が続けられています。

建築の見どころ:大正期鉄筋コンクリート造の傑作

博物館の建物は、香川県技師の富士精一の監修のもと、竹中工務店が設計・施工を手がけました。鉄筋コンクリート造3階建て(屋上展望室を含む)、建築面積444平方メートルの堂々たる建造物です。日本における初期の本格的鉄筋コンクリート造図書館建築として、建築史上きわめて貴重な存在とされています。

外観の特徴として、まず目を引くのが半円形の窓です。柔らかな自然光を館内に導き入れるこの窓は、建物に優雅な表情を与えています。壁面には石造風の目地切り仕上げが施され、重厚感のある佇まいを演出しています。特に注目すべきは、2階パラペット部分の波打った曲面に施された半円形・半球状の繰り返し装飾で、大正期の洋風建築ならではの意匠の粋を見ることができます。

館内に足を踏み入れると、玄関ホールに吊るされた照明器具が迎えてくれます。金属部分は開館当時のオリジナルが残されており、ガラスの傘部分は時代とともに交換されながらも、当時の雰囲気を今に伝えています。高い天井と広々とした空間は、大正時代の公共建築が持つ格調の高さをそのまま体感させてくれます。屋上の展望室も含めた建物の高さは、一般的なマンションの3階よりも高いとされ、当時の建築の壮大さを物語っています。

なぜ登録有形文化財に登録されたのか

この建物が1998年12月11日に「鎌田共済会郷土博物館(旧図書館)」として国の登録有形文化財に登録された理由は、大きく二つあります。第一に、日本初期の財団法人の活動実態を示す貴重な遺構であること。民間の篤志家が社会教育のために設立した財団の中核施設として、大正期の社会事業の姿を今に伝えています。第二に、日本における初期の本格的鉄筋コンクリート造図書館建築として、近代建築史上きわめて重要な位置を占めること。歴史的景観に寄与する建造物としても高く評価されています。

建物の歴史をたどると、1922年に鎌田共済会図書館として竣工した後、1951年から1979年まで坂出市立図書館としても使用されました。1992年にJR予讃線の鉄道高架事業に伴い旧博物館建物が取り壊された際、収蔵品がこの旧図書館建物に移され、改装を経て現在の郷土博物館として生まれ変わりました。

収蔵品の魅力:約6万点の郷土の宝

博物館では、香川県に関する歴史資料を中心に、古文書、古書籍、絵図、写真、考古資料など約6万点の資料を3つの展示室で展示しています。展示は半年ごとに入れ替えが行われ、訪れるたびに新たな発見があります。

久米通賢関係資料——国の重要文化財

博物館最大の見どころは、2014年(平成26年)に国の重要文化財に指定された久米通賢関係資料(1,061点)です。久米通賢(くめみちかた/つうけん、1780〜1841年)は、江戸時代後期に高松藩に仕えた科学者・発明家・測量家で、「讃岐のエジソン」とも称される人物です。

通賢は天文暦学、測量術、銃砲開発、塩田開発など多方面にわたる業績を残しました。なかでも彼が手がけた坂出塩田の開発は、坂出の塩生産量を日本全体の約半分にまで押し上げ、讃岐を代表する産業の礎を築いた一大事業です。博物館には、彼が天体観測に使用した「星眼鏡」(天体望遠鏡)をはじめ、自ら設計した測量器具、伊能忠敬に先行する讃岐国最古の実測地図、塩田開発に関する図面や経営資料、さらにはゼンマイ式発火機構を備えた輪燧佩銃など、彼の驚くべき才能を示す資料が数多く展示されています。

郷土の歴史と文化遺産

久米通賢関係資料以外にも、中世から近代にわたる坂出・香川地域の歴史を物語る古文書、書画、絵図、写真、鉱石標本など多彩な資料が収蔵されています。地域の社会・経済・文化の発展を多角的にたどることができる貴重なコレクションです。

文学との意外なつながり:村上春樹『海辺のカフカ』

この博物館には、現代日本文学との興味深いつながりがあります。村上春樹の小説『海辺のカフカ』(2002年)に登場する「甲村記念図書館」のモデルの一つではないかという説があるのです。小説中の甲村記念図書館は、造り酒屋の甲村家が設立した財団が運営し、2階に書画の展示室を持つ図書館という設定ですが、醤油醸造家の鎌田家が設立した財団が運営し、書画の展示を行うこの博物館との類似が指摘されています。村上本人は「甲村記念図書館は実在しません」と明言していますが、ファンにとっては想像を膨らませる魅力的なエピソードとして知られています。

周辺情報:鎌田ミュージアムと坂出の見どころ

郷土博物館は、鎌田醤油本社周辺に集まる3つの文化施設「鎌田ミュージアム」の一つです。すべてJR坂出駅から徒歩圏内にあり、あわせて巡ることでより豊かな文化体験が楽しめます。

  • 四谷シモン人形館 淡翁荘——1936年に鎌田勝太郎の邸宅として建てられた登録有形文化財の洋館に、人形作家・四谷シモン氏の球体関節人形23体を展示。金庫の中やクローゼットにも人形が潜む幻想的な空間です。
  • 小沢剛 讃岐醤油画資料館——江戸時代末期に建てられた旧鎌田本店の建物を活用し、現代美術家・小沢剛氏が日本美術史の名作を醤油で模写した作品を展示。遊び心あふれるユニークな美術空間です。
  • 香風園——鎌田勝太郎が1908〜1910年にかけて別邸に築庭した庭園で、坂出市指定文化財(名勝)。西部の池泉回遊式日本庭園と東部の洋風芝生公園が調和した美しい空間です。
  • 鎌田醤油直売店——鎌田醤油本社工場に隣接した直売店では、看板商品の「だし醤油」をはじめ、通販限定商品や業務用製品も購入可能。和三盆を使った醤油ラスクなどユニークなお土産も人気です。

さらに坂出市周辺には、瀬戸大橋を望む瀬戸大橋記念公園、四国八十八箇所の白峯寺、讃岐五色台など自然や歴史を楽しめるスポットが点在しており、一日かけてゆっくり散策するのがおすすめです。

アクセスとご利用案内

JR坂出駅南口から西へ徒歩約5分(約200メートル)と、アクセスは非常に便利です。坂出駅はJR予讃線の駅で、高松駅から快速マリンライナーで約20分。本州からは瀬戸大橋を渡ってすぐの駅です。入館料は無料で、大正建築の名品と貴重な郷土資料を気軽に楽しむことができます。

車椅子の方にも配慮されており、スロープの設置、車椅子の貸出、盲導犬の受け入れ、介添えサービスなどのバリアフリー対応が整っています。駐車場は約15台分が用意されています。

Q&A

Q鎌田共済会郷土博物館の入館料はいくらですか?
A入館料は無料です。3つの展示室で大正時代の美しい建築とともに、香川県の歴史資料をゆっくりご覧いただけます。
QJR坂出駅からの行き方を教えてください。
AJR坂出駅南口を出て西へ徒歩約5分です。駅から約200メートルの距離にあり、白い洋風の建物が目印です。
Q展示品の撮影は可能ですか?
A館内での撮影については、来館時にスタッフにお尋ねください。展示内容や企画展によって撮影可否が異なる場合があります。
Q鎌田ミュージアムの3館すべてを一日で回れますか?
Aはい、3館ともJR坂出駅から徒歩圏内に位置しているため、半日〜一日で十分に巡ることができます。3館を巡るスタンプラリーカードも用意されていますので、受付でお尋ねください。各館の開館時間を事前にご確認の上お出かけください。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A一年を通じてお楽しみいただけますが、春や秋は隣接する香風園の散策もあわせて特に気持ちの良い季節です。展示は半年ごとに入れ替えが行われますので、リピーターの方も新しい展示に出会えます。

基本情報

名称 鎌田共済会郷土博物館(旧図書館)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)、1998年(平成10年)12月11日登録
竣工年 1922年(大正11年)
構造 鉄筋コンクリート造3階建(屋上展望室含む)、建築面積444㎡
設計・施工 竹中工務店(香川県技師・富士精一 監修)
所有者 公益財団法人鎌田共済会
所在地 〒762-0044 香川県坂出市本町1-1-24
開館時間 9:30〜16:30(入館は16:00まで)
休館日 毎週月曜日、祝祭日、8月13日〜15日、12月29日〜1月4日
入館料 無料
アクセス JR坂出駅南口より西へ徒歩約5分(約200m)
電話番号 0877-46-2275
駐車場 あり(約15台)

参考文献

鎌田共済会郷土博物館(旧図書館) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192019
鎌田共済会郷土博物館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/鎌田共済会郷土博物館
公益財団法人鎌田共済会郷土博物館 公式サイト
https://kamahaku.jp/
久米通賢について — 鎌田共済会郷土博物館
https://kamahaku.jp/kume-tsuken/
鎌田共済会郷土博物館 — おでかけかけはし坂出(坂出市観光サイト)
https://sakaide-kankou.com/spots/1213/
鎌田ミュージアムについて — 鎌田ミュージアム
https://kamada-museum.jp/about
鎌田勝太郎 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/鎌田勝太郎
久米通賢関係資料 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/294869
鎌田共済会郷土博物館 — 香川県公式観光サイト
https://www.my-kagawa.jp/point/2970/
久米通賢関係資料 — さぬき歴史文化探訪ナビ
https://rekinabi-sanuki.net/ja/arts/014.html

最終更新日: 2026.03.24