石幢(六面石幢)― 立川市唯一の国宝、普済寺に眠る南北朝時代の傑作

東京都立川市の閑静な住宅街に佇む臨済宗建長寺派の古刹・普済寺(ふさいじ)。この寺院の境内に、立川市で唯一の国宝が静かに安置されています。「六面石幢(ろくめんせきとう)」と呼ばれるこの石造物は、延文6年(1361年)の南北朝時代に造立され、六面の緑泥片岩の板石に四天王と仁王の像を刻んだ、日本を代表する中世石幢の傑作です。660年以上の歳月を経てなお、その堂々たる姿と繊細な浮き彫りが往時の仏教美術の高みを今に伝えています。

石幢(せきどう)とは

「石幢」の「幢(どう)」とは、もともと仏堂を荘厳するための「はた」の一種です。四角形や六角形、八角形の笠の各辺から美しい織物を垂らして仏の世界を飾るものでした。この織物による荘厳の形を石に置き換えて造立したものが石幢です。中国では白色大理石によるものが多く見られ、日本では主に中世に造られました。

関東地方で見られる石幢の中には、石の板を組み合わせて柱としているものがあり、内部が空洞になっています。板石の形状や石材の種類から、同じく関東を中心に分布している板碑との関連が指摘されています。普済寺の六面石幢は、そうした関東型石幢の中でも最も優れた作例として高く評価されています。

国宝「六面石幢」の造形美

普済寺の六面石幢は、六角形の台石の上に6枚の緑泥片岩(りょくでいへんがん)の板石を六角柱状に組み合わせた構造です。その上に六角形の笠石を載せ、さらに凝灰岩製の受花(うけばな)と宝珠が重ねられています。宝珠は後世の補修と考えられていますが、全体の総高は約204.5センチメートル、各板石は高さ約166センチメートル、幅約42センチメートルという堂々たる大きさです。

6枚の板石にはそれぞれ仏教の守護神が浮き彫り(薄肉彫り)で刻まれています。四天王として持国天(東方守護)、増長天(南方守護)、広目天(西方守護)、多聞天(北方守護)の4体、そして金剛力士(仁王)の阿金剛像と吽金剛像の2体が配されています。

特筆すべきは、これらの像の配置が方角を意識して計画的に行われている点です。二体の仁王像は東南側にまとめられ、残る四面にはそれぞれの四天王が守護する方角に合わせて配置されています。660年以上の風化により顔の表情は失われつつあるものの、下半身の衣文(えもん)の表現は実にくっきりと生き生きとしており、持物や円光、岩座、像の上方に降り注ぐ七宝の表現も見事に残されています。

なぜ国宝に指定されたのか

六面石幢は、大正2年(1913年)に旧国宝に指定され、戦後の文化財保護制度の改正に伴い、昭和28年(1953年)11月14日に改めて新国宝として再指定されました。国宝に指定された主な理由は以下の通りです。

第一に、広目天像の板石に「延文六年辛丑七月六日施財性了立道円刻」という銘文が刻まれており、造立年代が1361年7月6日と明確に判明しています。「性了」は開山・物外可什の弟子とされる造立者、「道円」は彫刻を施した工人で、制作の経緯が記録されている貴重な資料です。

第二に、考古資料部門の国宝としては最も制作年代が新しいという特異な位置づけを持っています。第三に、埼玉県比企郡小川町の大聖寺六面幢や入間郡毛呂山町の六角塔婆など数少ない類例の中でも、芸術的完成度と保存状態において最も優れた作例と評価されています。日本の石幢を代表する存在であり、中世の石造美術・仏教文化を理解する上で欠かすことのできない文化財です。

普済寺の歴史 ― 武士と禅の物語

普済寺(正式名称:玄武山普済寺)は、文和年間(1352年〜1356年)に武蔵七党の一族である立川(立河)氏の地頭・立川宗恒が開基となり、禅僧・物外可什を開山として創建されました。本尊は聖観音菩薩で、臨済宗建長寺派の別格地として格式の高い寺院です。

寺院が建つ場所はかつて立川氏の居館(やかた)があったと考えられており、現在も中世の土塁の痕跡が境内に残されています。立川氏は武蔵国一帯に勢力を誇った武士団で、この寺を一族の菩提寺として手厚く保護しました。寺院では貞治2年(1363年)から応永7年(1400年)にかけて「五部大乗経」の刊行が行われるなど、文化の中心としての役割も担っていました。

しかし平成7年(1995年)、放火による火災で本堂が全焼し、開山・物外可什の木像をはじめ多くの寺宝が失われるという悲劇に見舞われました。六面石幢は堂宇から独立して境内に建っていたため焼失を免れました。その後約10年の歳月をかけて本堂と庭園が再建され、現在の美しい姿となっています。

拝観のご案内

六面石幢は、かつて昭和29年(1954年)に建設されたコンクリート製の覆堂(おおいどう)内に安置されていましたが、2020年から新収蔵施設への移設に伴う保存修理工事が行われました。新たに六角形の専用展示施設が建設され、石幢の保存環境が大幅に改善されています。

一般公開については、毎年秋に開催される「東京文化財ウィーク」の特別公開事業として公開されることがあります。拝観の可否や公開日程は年度によって異なるため、訪問前に普済寺(電話:042-522-3664)または立川市教育委員会文化財係(電話:042-525-0860)にお問い合わせください。

なお、立川市歴史民俗資料館には六面石幢の原寸大のレプリカが常設展示されており、彫刻の細部まで間近で観察することができます。実物の拝観が叶わない場合にもこちらで石幢の魅力に触れることが可能です。

普済寺の境内自体も見どころが多く、再建された本堂と美しい禅庭園、立川氏の居館跡を示す土塁の遺構など、中世の武蔵国の歴史を肌で感じることができる静謐な空間が広がっています。

見どころ・魅力

  • 四天王と仁王の浮き彫り ― 660年を超える風雪に耐えながらも、衣文や持物の表現が鮮明に残る繊細な石彫美術をじっくりご覧ください。
  • 広目天像の銘文 ― 1361年の造立年と「性了」「道円」の名が刻まれた歴史的銘文は、中世の造像活動を知る貴重な一次資料です。
  • 方角を意識した像の配置 ― 仏教の宇宙観に基づく四天王の方位配置は、造立者の深い信仰と学識を物語っています。
  • 再建された本堂と庭園 ― 1995年の火災から復興した普済寺の姿は、文化財保護への不屈の精神を示しています。
  • 立川市歴史民俗資料館のレプリカ ― 原寸大の精巧なレプリカで、銘文や彫刻の細部を自由に観察できます。

周辺情報

普済寺は立川市柴崎町にあり、JR立川駅から徒歩圏内のため、周辺の散策と合わせて楽しむことができます。立川市歴史民俗資料館は六面石幢のレプリカに加え、地域の考古資料や民俗資料を展示しており、立川の歴史を深く学べる施設です。立川駅からの散策ルート上にある諏訪神社は地域の鎮守として古くから親しまれています。

足を延ばせば、国営昭和記念公園が立川駅からすぐの場所にあります。四季折々の花々が咲き誇る広大な公園は、文化財巡りの後のリフレッシュに最適です。また立川駅周辺はGREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)などの複合施設が充実しており、食事やショッピングも楽しめます。

Q&A

Q六面石幢はいつでも見られますか?
A六面石幢は通常非公開で、毎年秋の「東京文化財ウィーク」期間中に特別公開されることがあります。新収蔵施設への移設後の公開状況については、普済寺(042-522-3664)または立川市教育委員会文化財係(042-525-0860)にお問い合わせください。
Q拝観料はかかりますか?
Aこれまでの特別公開では拝観無料で公開されてきました。普済寺の境内は日中であれば自由に参拝できます。また、立川市歴史民俗資料館のレプリカも無料で見学可能です。
Q普済寺へのアクセスは?
AJR立川駅南口から南西方向に徒歩約20分、または多摩モノレール柴崎体育館駅から西へ徒歩約10分です。境内に駐車スペースはありますが限りがあるため、公共交通機関のご利用をおすすめします。
Q写真撮影はできますか?
A特別公開時の撮影ルールは年度や状況によって異なります。フラッシュ撮影は文化財保護の観点から控えるのがマナーです。訪問時に寺院のスタッフにご確認ください。
Qおすすめの訪問時期は?
A特別公開が行われることの多い秋(10月〜11月)がおすすめです。境内の木々が色づく季節で、散策にも最適です。春の桜の時期も美しい庭園を楽しめます。

基本情報

名称 石幢(せきどう)/ 六面石幢(ろくめんせきとう)
指定区分 国宝(考古資料)
造立年 延文6年(1361年)7月6日
時代 南北朝時代
材質 緑泥片岩(りょくでいへんがん)
寸法 総高 約204.5cm、各板石 約166×42cm
旧国宝指定 大正2年(1913年)4月14日
国宝再指定 昭和28年(1953年)11月14日
所在地 〒190-0023 東京都立川市柴崎町4-20-46 玄武山普済寺
宗派 臨済宗建長寺派
アクセス JR立川駅南口より徒歩約20分 / 多摩モノレール柴崎体育館駅より徒歩約10分
電話 042-522-3664(普済寺)
レプリカ 立川市歴史民俗資料館にて原寸大レプリカを常設展示

参考文献

国宝 六面石幢 ― 玄武山 普濟寺 公式サイト
https://www.fusaiji.or.jp/treasure.html
【国宝】六面石幢 ― 立川市公式ホームページ
https://www.city.tachikawa.lg.jp/kanko/bunka/1004244/1004847/1019994/1004855.html
国指定文化財等データベース ― 石幢
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/846
普済寺 (立川市) ― Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/普済寺_(立川市)
普済寺の国宝・石幢 ― 仏像探訪記
https://www.butsuzoutanbou.org/ホーム/東京都/普済寺/
【国宝】六面石幢の特別公開 ― 立川市公式ホームページ
https://www.city.tachikawa.lg.jp/kanko/bunka/1004244/1004847/1004856.html

最終更新日: 2026.03.16