元弘四年二月、長船で打たれた一刀

元弘四年(1334年)の二月、備前国長船の刀工景光が一口の太刀を仕上げ、茎の表に「備前國長船住景光」と銘を切った。裏には年紀を記す。刃長は73.3センチ、反りは2.7センチ。腰のあたりで踏ん張りがつき、鎌倉期の太刀らしい姿を保っている。

指定名称は「太刀〈銘備前国長船住景光/元弘四年二月日〉」。文化庁は、景光晩年の典型作と記録している。

裏の年号は元弘四年。ちょうどこの頃、年号は元弘から建武へと改められつつあった。すでに使われなくなりかけた年号を茎が残している点が、制作の時期を1334年の初めに絞り込む手がかりになる。なお国指定文化財等データベースは、年紀の「四」を「二二」と重ねて切る形で翻刻している。

景光と長船派

景光は、日本刀の歴史でも最大の作刀集団とされる長船派の三代目にあたる。長船派は備前国邑久郡、吉井川の流域(現在の岡山県瀬戸内市長船町)に興った。事実上の祖は光忠、その子が長光、長光の子が景光で、惣領として一門を率いた。銘には左兵衛尉の官名を添えることもある。

景光の地鉄は、同じ長船派のなかでも美しいと評された。小板目がよく詰んだ肌に、乱映りが鮮やかに立つ。刀を光にかざすと、刃の上に雲のような映りが浮かぶ。

刃文では片落ち互の目で知られるが、この太刀はもっと静かだ。直刃を基調に尖り刃が間遠に交じり、帽子は小丸に返る。匂口はよく締まる。文化庁はこの焼刃を、景光晩年の作風と読み取っている。

地味に見えて重要なのは、茎が生ぶである点だ。磨上げられていないため、銘と年紀がそのまま残る。同時代の太刀の多くは後世に磨り上げられ、作者の銘を失った。銘と年紀を備えた生ぶの景光は、ほかの作を計るための確かな基準点になる。

所在が分からなくなった重要文化財

この太刀は、旧国宝保存法のもとで早くに指定を受けた。記録には昭和十六年(1941年)とある。その後、現行の文化財保護法の施行にともない重要文化財へと引き継がれ、昭和二十五年(1950年)八月二十九日に指定番号01213として登録された。

近年の来歴はたどりにくい。所有者は個人で、現在の所在は分かっていない。文化庁は本刀を、所在不明となった国指定文化財の一覧に掲げている。失われた指定品がいつか再び世に出ることを期して、文化庁が設けている一覧である。古い所在記録は東京都を示すが、所在不明一覧では所有者の都道府県を福岡県とする。盗難として記録されているわけではなく、所在不明として扱われ、文化庁は情報の提供を呼びかけている。

訪問者にとっては、この景光そのものを見ることはできないということになる。代わりにできるのは、景光の作風を知るための関連作に当たることである。

景光の作を見られる場所

現存する景光のうち最も名高いのは、東京国立博物館が所蔵する国宝「小竜景光」である。元亨二年(1322年)の作で、茎に近い樋のなかに小さな倶利伽羅竜と梵字を彫ることから、この号がついた。楠木正成の佩刀と伝わり、のちに井伊家、明治期には皇室の所有になったとされる。明治天皇はサーベル様の拵えを作らせて佩用したという。公開はおおむね一年から三年に一度なので、訪問前に展示予定を確かめておきたい。

西宮市の黒川古文化研究所も、重要文化財の景光の太刀を所蔵し、季節の展観で公開する。鎺に三つ葉葵紋があしらわれ、ある時期に徳川家にあったことをうかがわせる。

刀剣ワールド財団は、正和五年(1316年)の年紀をもつ景光の太刀を所蔵し、運営する施設で公開している。旧国宝の一口である。静岡県三島市の佐野美術館にも景光の作があり、刀剣を入れ替えながら展示している。

景光らがどこで刀を打ったのかを知るなら、長船を訪ねるのが早い。瀬戸内市の備前長船刀剣博物館は、景光が活動した土地に建ち、備前刀を中心に約四十口を展示する。敷地には鍛刀場があり、月に一度、玉鋼を千二百度を超える熱で鍛え延ばす古式鍛錬が公開される。海外の愛好家も足を運ぶ。

Q&A

Qこの刀はどのような作ですか。
A備前長船の名工景光が元弘四年(1334年)に打った太刀で、晩年の作にあたります。重要文化財に指定されています。
Q博物館で見られますか。
A見られません。現在の所在は不明で、文化庁の所在不明国指定文化財の一覧に掲載されています。心当たりがあれば、文化庁文化財第一課への連絡が呼びかけられています。
Q景光とはどのような刀工ですか。
A備前長船派の三代目です。事実上の祖である光忠の孫、長光の子で、一門を率いました。一三三〇年代まで活動し、地鉄の美しさで高く評価されています。
Q指定年が昭和十六年と昭和二十五年の二つあるのはなぜですか。
A旧国宝保存法のもとで先に指定され、現行の文化財保護法が施行された昭和二十五年に重要文化財として登録し直されたためです。いずれも同じ一口を指します。
Q景光の作はどこで見られますか。
A東京国立博物館の国宝「小竜景光」が代表例です。黒川古文化研究所、刀剣ワールド財団、佐野美術館にも作があり、岡山の備前長船刀剣博物館では鍛刀場とともに長船の伝統に触れられます。

基本情報

名称太刀〈銘備前国長船住景光/元弘四年二月日〉
種別工芸品(太刀)
作者備前国長船住景光
年代元弘四年(1334年)二月、鎌倉時代後期
法量刃長73.3センチ、反り2.7センチ
形状・特徴鎬造、庵棟、腰踏張あり。地鉄は小板目に乱映り立つ。刃文は直刃に尖り刃が間遠に交じる。茎は生ぶ
表「備前國長船住景光」、裏に年紀(元弘四年二月)
指定重要文化財(指定番号01213)。昭和十六年に旧法で指定、昭和二十五年八月二十九日に重要文化財として登録
所有者個人
現況所在不明。文化庁の所在不明国指定文化財一覧に掲載
所在記録所在の都道府県は東京都、所在不明一覧では所有者の都道府県を福岡県とする

References

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6123
文化庁 所在不明文化財(国指定)一覧
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/torimodosou/kunishitei/102.html
文化遺産オンライン 太刀〈銘備前国長船住景光(小竜景光)〉
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/203669
e国宝(国立文化財機構)小竜景光
https://emuseum.nich.go.jp/detail?langId=ja&content_base_id=100178
黒川古文化研究所 太刀 銘 備前国長船住景光
https://www.kurokawa-institute.or.jp/pages/173/
刀剣ワールド 太刀 銘 備州長船住景光 正和五年十月日
https://www.touken-world.jp/search/8331/
備前長船刀剣博物館(瀬戸内市)
https://www.city.setouchi.lg.jp/site/token/

最終更新日: 2026.06.14