城下町に映えるミントグリーンの昭和洋館

鳥取県米子市の旧城下町エリアに、ひときわ目を引くミントグリーンの建物が佇んでいます。旧米子角盤町郵便局舎は、昭和10年(1935年)に建てられた木造二階建ての特定郵便局舎です。約50年にわたり郵便局として地域に親しまれた後、書店「角盤文庫」としても長く愛されました。2024年の耐震改修を経て、地域交流拠点「YORAIYA(よらいや)角盤」として新たな一歩を踏み出したこの建物は、令和6年(2024年)11月に国登録有形文化財に登録されました。

歴史的背景

「特定郵便局」とは、明治時代に日本の郵便制度が発足した際に生まれた郵便局の形態です。地域の有力者が土地と建物を無償で提供し、自ら局長を務めるという独特の仕組みでした。当初は自宅の一室を改装して業務を行っていましたが、やがて専用の局舎が建てられるようになると、当時流行していた洋風建築を取り入れたハイカラな局舎が全国各地に姿を現しました。

旧米子角盤町郵便局舎もそうした流れの中で昭和10年に建築され、昭和59年(1984年)まで郵便局として使用されました。その後、平成元年(1989年)から令和3年(2021年)4月まで、一階南側の土間を利用して「角盤文庫」という書店が営まれ、地域のシンボルとして親しまれてきました。

しかし、長い年月の中で建物の老朽化は進み、平成26年(2014年)には取り壊しの話も持ち上がりました。このとき、建築のプロ集団を中心とした特定非営利活動法人「夢蔵プロジェクト」が建物を無償譲渡で引き受け、保存・再生への道が開かれました。クラウドファンディングや自治体の支援を得て、2023年秋から耐震補強と全面改修工事が進められ、2024年2月末に工事が完了。同年3月には文化庁による登録有形文化財の事前現地調査も行われ、4月20日に「YORAIYA角盤」として華々しくリニューアルオープンしました。

文化財としての価値

令和6年(2024年)11月22日に開催された国の文化審議会において、旧米子角盤町郵便局舎を国登録有形文化財に登録するよう文部科学大臣に答申されました。

米子の旧城下町エリアでは、同時期にいくつかの洋館が建てられましたが、それらは鉄筋コンクリート造で石張りやレンガ風の外観を持つ本格的な洋館でした。一方、旧米子角盤町郵便局舎は、ペンキ塗りの下見板張り以外にはこれといった洋風の要素を持たない、地方大工が洋風に仕上げた「軽明な洋館」です。このような木造の洋館は現在、旧城下町エリアに他に現存しておらず、町家が並ぶ町並みの中で貴重なアクセントとなっています。

復原的改修にあたっては、地元で長年親しまれた郵便局舎の外観を保存することを基本方針とし、内部も傷んでいない部材をできるだけ残しながら改修が行われました。こうした丁寧な保存・再生の姿勢も、文化財としての価値を高めています。

建築の見どころ

建物は寄棟造り・妻入りの木造二階建てで、赤桟瓦葺きの屋根が特徴的です。一階の規模は間口3間(約5.4メートル)、奥行き5間半(約10メートル)。建築当初と思われる図面が発見されており、当時の間取りや部屋の用途が明らかになっています。

一階の南側3間は郵便局の店舗部分で、玄関側1間のロビー(公衆室)と奥側2間の事務室を受付台で区切っていました。電話室や小包保管室も設けられていました。北側2間半は宿直室として使われ、西側に出入口がありました。かつては付属屋として食堂・湯沸場・浴室・便所が続いていましたが、現在は残っていません。

二階は間口3間、奥行き4間の規模で、通りに面した南西側には6畳の宿直室と2畳の小間があります。北側の8畳間は応接間として使われ、床の間・棚・押入が備わり、長押や欄間も付く上質な造作が施されていました。二階はすべて竿縁天井で、改修がほとんどなく、残存状況は非常に良好です。

外観は下見板張りで、二階窓上部のみ白漆喰塗りとなっています。窓は洋風建築に多い縦長の上げ下げ窓ではなく、両開き窓や引き違い窓が用いられています。改修時には、一階窓枠に残る塗料の痕跡から当時の色を推定し、爽やかなミントグリーンのペンキで塗り直されました。南側正面の出入口も建築当初のイメージに合わせた木製のガラス戸に復元されています。建築面積は56平方メートルです。

YORAIYA角盤 ── 地域交流拠点としての新しい姿

「YORAIYA(よらいや)」は、山陰地方の方言で「寄っていきなさい」「おいでなさい」を意味する親しみのある言葉です。2024年4月のオープン以来、この施設は米子の中心市街地における多機能複合交流拠点として運営されています。

一階には珈琲店、書店の記憶を受け継ぐ図書コーナー「角盤文庫」、展示販売コーナーを備えたコミュニティスペースが広がります。二階は貸事務所と14畳の和室を備えた多目的レンタルスペースとなっており、各種ワークショップや会議、文化イベントに利用できます。

また、シェアキッチンとしても整備されており、カフェやバー、料理教室、ハンドメイド作品の展示・販売など、チャレンジショップとしての利用も可能です。副業やパラレルワークの実践の場として、地域の活性化にも貢献しています。

周辺の見どころ

旧米子角盤町郵便局舎の周辺には、城下町の歴史と文化を感じられるスポットが数多く点在しています。

  • 米子城跡(国史跡):標高約90メートルの山頂からは大山・日本海・中海・市街地を一望する360度の大パノラマが広がります。NHK「日本最強の城」にも選出された絶景スポットです。
  • 加茂川と白壁土蔵群:米子城の外堀であった加茂川沿いには白壁の土蔵やお地蔵様が並び、風情ある散策が楽しめます。遊覧船も運航しています。
  • 米子下町まち歩き:ガイド付きの城下町散策ツアーでは、町家や小路、寺町通りなど、江戸時代の面影を残す街並みを巡ることができます。
  • 皆生温泉:山陰屈指の温泉地として知られ、市中心部からバスで約15分。美肌の湯として人気があります。
  • 大山(だいせん):中国地方最高峰の名山。古くから修験道の聖地として信仰を集め、登山やハイキング、四季折々の景観が楽しめます。

Q&A

Q「YORAIYA」とはどういう意味ですか?
A「よらいや」は山陰地方の方言で「寄っていきなさい」「おいでなさい」という意味の親しみのある言葉です。誰でも気軽に立ち寄れる場所でありたいという施設の願いが込められています。
Q建物の中を見学することはできますか?
Aはい、YORAIYA角盤は地域交流施設として運営されており、一階の珈琲店や図書コーナーは一般の方も利用できます。二階はレンタルスペースとして利用可能です。営業時間やイベントによって利用状況が異なるため、訪問前に最新情報をご確認ください。
Qなぜミントグリーンに塗られているのですか?
A2023〜2024年の改修工事の際、一階窓枠に残っていた塗料の痕跡を調査した結果、建築当初の外壁色がミントグリーンであったことが判明しました。これに基づき、昭和10年当時の姿を復元する形で塗り直されました。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR米子駅から徒歩約20分(約1.5キロメートル)です。バスやタクシーを利用すればより短時間でアクセスできます。角盤町エリアは米子の中心市街地にあたるため、周辺の観光スポットと合わせて徒歩で巡ることも可能です。
Q「特定郵便局」とは何ですか?
A特定郵便局は、明治時代の郵便制度発足時に生まれた郵便局の形態で、地域の有力者が土地と建物を無償で提供し、自ら局長となったものです。専用の局舎が建てられるようになると、当時流行した洋風建築を取り入れたハイカラな局舎が全国各地に建てられました。現存するものは貴重な近代建築遺産として評価されています。

基本情報

名称 旧米子角盤町郵便局舎(YORAIYA角盤)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
建築年 昭和10年(1935年)
構造 木造二階建、寄棟造、赤桟瓦葺
建築面積 56平方メートル
所在地 〒683-0812 鳥取県米子市角盤町三丁目82
所有者 特定非営利活動法人夢蔵プロジェクト
現在の用途 地域交流拠点施設(シェアキッチン、コワーキング、レンタルスペース、珈琲店、図書コーナー)
アクセス JR米子駅から徒歩約20分、バス・タクシー利用可
お問い合わせ 米子市文化振興課 TEL: 0859-23-5436

参考文献

国登録有形文化財 旧米子角盤町郵便局舎(YORAIYA角盤)/米子市ホームページ
https://www.city.yonago.lg.jp/44911.htm
旧米子角盤町郵便局舎が国登録有形文化財となります/米子市ホームページ
https://www.city.yonago.lg.jp/44853.htm
旧郵便局を多機能複合施設に生まれ変え、下町を元気にする! - READYFOR
https://readyfor.jp/projects/yoraiya-kakuban
城下町米子観光ガイド|米子観光ナビ
https://www.yonago-navi.jp/yonago/shitamachi/sightseeing/kamogawa/
米子城跡|米子観光ナビ
https://www.yonago-navi.jp/yonago/shitamachi/sightseeing/yonago-castle-trace/

最終更新日: 2026.03.29