仁風閣:鳥取城跡にたたずむ白亜のフランス・ルネサンス洋館

山陰の城下町・鳥取の中心部、鳥取城跡の石垣の上に、まるで一幅の絵のように白く輝く洋館があります。明治40年(1907年)、皇太子殿下(のちの大正天皇)を迎えるために建てられた「仁風閣(じんぷうかく)」です。中国地方でも屈指の明治洋風建築として知られ、国の重要文化財に指定されているこの木造二階建ての邸宅は、フランス・ルネサンス様式の優雅な外観、支柱を持たない螺旋階段、そして眼下に広がる池泉回遊式庭園という、東西の美がめぐり合う稀有な場所です。

皇室を迎えるために生まれた邸宅

20世紀が幕を開けて間もない頃、旧鳥取藩主池田家のもとへ、並外れて重要な賓客を迎える準備が整えられていました。明治40年、皇太子嘉仁親王殿下(のちの大正天皇)が山陰地方を行啓されることとなり、池田家14代当主・池田仲博侯爵が、殿下をお迎えするにふさわしい新しい邸宅の建築を発願したのです。建築地に選ばれたのは、鳥取城の「扇御殿」があった場所。江戸時代、代々池田家が用いた由緒ある敷地でした。

設計を任されたのは、宮内省匠頭として当時の宮廷建築を主導した片山東熊工学博士。すでに東京の赤坂離宮(現・迎賓館)の設計で知られた、明治日本を代表する建築家です。工事監督は橋本平蔵が務めました。明治39年(1906年)に起工し、翌明治40年5月に竣工。建築費は当時の金額で4万3335円という巨額にのぼりました。名目上は池田家の別邸でしたが、実際には当初より皇族の御宿泊を想定して設計・建築されたものと伝えられています。

「仁風閣」という館名にもまた、歴史の重みが込められています。行啓に随行した元帥海軍大将・東郷平八郎によって命名されたもので、同人の筆による扁額が今も館内に残されているのです。

なぜ国の重要文化財に指定されたのか

仁風閣は、昭和48年(1973年)6月2日に国の重要文化財(建造物)に指定されました。指定の根拠は明確です。山陰地方には明治期の洋風建築の遺構が極めて少なく、仁風閣はその中でも創建時の姿を良好に保ったまま現存する、貴重な一棟だからです。

フランス・ルネサンス様式を基調とした木造二階建ての意匠は、飾り破風の扱いに優れ、窓枠や軒まわり、内装の細部に至るまで保存の状態が良いことが高く評価されています。近代化に向かって歩み始めた明治日本の気風と、封建時代を過ぎてもなお地域の文化を支え続けた池田家の歴史とを、今に伝える建築遺産と言えるでしょう。

建築の見どころ

一目見て印象に残るのは、白く塗られた外壁、側面に立ち上がる細身の八角形の階段塔、そして一・二階とも正面に設けられた深いベランダです。屋根まわりにはバロック風の棟飾りが施され、白亜の壁とあいまって、どこかヨーロッパの古城を思わせる劇的な輪郭を描き出しています。ガラス張りの二階バルコニーからは、眼下に広がる日本庭園を一望することができます。

館内で最もよく知られる見どころは、玄関を入ってすぐ右手にある螺旋階段です。中央に支柱を持たないこの階段は、ケヤキの厚板のみで曲線を支えるという、当時としては驚くべき構造技術で造られました。現代の目から見てもなお、その軽やかな美しさには思わず息をのむほどです。外観で目を引く角尖塔は、この螺旋階段を包む八角形の構造物なのです。

賓客を迎えた主要な室内は、天井と壁面上部にヨーロッパから取り寄せた壁紙が張られ、床にはアキスミンスター絨毯が敷き詰められています。日本の地方都市にありながら、まるでヨーロッパの宮殿のような気品が漂う空間です。皇太子殿下の行啓にあたって御食堂として設えられた部屋も、現在まで大切に保存されています。

宝隆院庭園と宝扇庵

仁風閣の二階ベランダから見下ろす先には、鳥取市指定名勝である池泉回遊式庭園「宝隆院庭園」が広がっています。この庭園は、12代鳥取藩主・池田慶徳が、若くして未亡人となった11代藩主池田慶栄夫人の宝隆院のために造営したものです。鶴をかたどった池の中央には亀島が浮かび、長寿を願う古典的な日本庭園の象徴をたたえています。

庭園の一角にたたずむ茶室「宝扇庵(ほうせんあん)」は、江戸時代後期に造られた「扇御殿化粧の間」を修復したもので、鳥取城の構造物として現地に唯一現存する建物です。池田家の息づかいを伝える、かけがえのない存在と言えるでしょう。

ご来館にあたって:現在の保存修理工事について

ご旅行の計画にあたって、ぜひお知りおきいただきたい点があります。仁風閣は、令和5年(2023年)12月から大規模な文化財保存修理工事のため長期休館しており、再開館は令和11年度(2029年度)中が予定されています。令和7年(2025年)9月末からは建物自体が覆いに包まれ、外観もご覧いただけない状態となっています。建物全体を対象とした本格的な修理は、昭和48年の重要文化財指定後に行われた3年がかりの大修理以来のことで、建物の保存にとって極めて重要な節目の作業です。

幸いなことに、同じ敷地内の宝隆院庭園と茶室・宝扇庵は、引き続きご利用いただけます。仁風閣を囲む久松公園は、山陰地方屈指の桜の名所として知られ、春には多くの花見客で賑わいます。再開館後に訪れれば、修復を経た白亜の洋館がふたたびその姿を現す、またとない瞬間に立ち会うことができるでしょう。

周辺の見どころ

仁風閣が建つのは、江戸時代を通じて池田家の居城であった鳥取城の跡地です。巨大な石垣は発掘調査や修復が継続的に行われており、歩いて回るだけでも十分に見応えがあります。背後にそびえる久松山へは登山道が整備されており、山頂からは鳥取市街と日本海を一望できる雄大な眺めが広がります。隣接する鳥取県立博物館では、この地方の自然史と文化史について、さらに深く学ぶことができます。

映画ファンの方には、仁風閣がスクリーンに登場していることもお伝えしておきたいところです。1989年の映画「舞姫 Die Tanzerin」では皇居のロケ地として使われ、2012年の実写映画「るろうに剣心」では武田観柳の屋敷として登場し、国内外の観客に強く印象づけました。

鳥取城跡からさほど遠くないところには、壮大な鳥取砂丘、ダイナミックな岩礁が連なる浦富海岸、そして古湯・岩井温泉など、山陰の魅力が凝縮された観光地が点在しています。仁風閣を起点に、山陰路の旅を広げていかれてはいかがでしょうか。

Q&A

Q現在、仁風閣の館内を見学することはできますか?
A申し訳ございませんが、現在は館内をご見学いただくことができません。令和5年12月から大規模な保存修理工事のため長期休館しており、再開館は令和11年度中の予定です。ただし、同じ敷地内の宝隆院庭園と茶室・宝扇庵は引き続きご利用いただけます。
Q仁風閣を設計したのはどのような人物ですか?
A宮内省匠頭として明治の宮廷建築を主導した片山東熊工学博士です。東京の赤坂離宮(現・迎賓館)を手がけたことでも知られる、当時を代表する建築家で、仁風閣は首都以外で片山の作品に触れられる貴重な機会のひとつです。
Q「仁風閣」という名前の由来を教えてください。
A明治40年の皇太子殿下(のちの大正天皇)の山陰行啓に随行した元帥海軍大将・東郷平八郎によって命名されました。東郷の筆による扁額が現在も館内に保存されています。
QJR鳥取駅からのアクセスはどうすればよいですか?
AJR鳥取駅から徒歩で約30分です。バスの場合は、路線バスで約5分「西町」下車、徒歩で約5分。また、100円循環バス「くる梨」の緑コースで約8分、「仁風閣・県立博物館」下車すぐです。お車では鳥取自動車道「鳥取IC」から約20分となります。
Q仁風閣は映画のロケ地になったことがあるのでしょうか?
Aはい。1989年の映画「舞姫 Die Tanzerin」では皇居のロケ地として使用され、2012年の実写映画「るろうに剣心」では武田観柳の屋敷として登場しました。映画を通じて仁風閣の名を知った国内外のファンの方も多くいらっしゃいます。

基本情報

名称 仁風閣(じんぷうかく)
指定区分 国指定重要文化財(昭和48年6月2日指定)
設計 片山東熊(宮内省匠頭)
工事監督 橋本平蔵
施主 池田仲博侯爵(旧鳥取藩主池田家14代当主)
竣工 明治40年(1907年)5月
構造 木造、建築面積540.7平方メートル、二階建、正面玄関ポーチ、側面八角階段室付、桟瓦及び銅板葺、フランス・ルネサンス様式
所在地 鳥取県鳥取市東町二丁目121番地
所有 鳥取市
現在の状況 文化財保存修理工事のため長期休館中(令和5年12月〜令和11年度中に再開館予定)
アクセス JR鳥取駅から徒歩約30分。路線バス約5分「西町」下車徒歩約5分。100円循環バスくる梨(緑コース)「仁風閣・県立博物館」下車すぐ。鳥取自動車道「鳥取IC」から車で約20分

参考文献

文化遺産オンライン(文化庁・NII) 仁風閣
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/201859
国指定文化財等データベース(文化庁) 仁風閣
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/2932
鳥取市公式ウェブサイト 仁風閣及び宝扇庵
https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1297927229424/index.html
公益財団法人鳥取市文化財団 仁風閣公式サイト
https://www.tbz.or.jp/jinpuukaku/
鳥取市観光サイト【公式】 仁風閣・宝扇庵・宝隆院庭園
https://www.torican.jp/spot/detail_1012.html
鳥取県観光連盟 国指定重要文化財 仁風閣
https://www.tottori-guide.jp/tourism/tour/view/9
Wikipedia(日本語版) 仁風閣
https://ja.wikipedia.org/wiki/仁風閣

最終更新日: 2026.04.20