三朝のジンショ — 藤カズラで紡ぐ勇壮な大綱引き、山陰の夜を揺らす祈りの祭典

鳥取県のほぼ中央、霊峰・三徳山の山懐に抱かれた三朝温泉。世界屈指のラドン泉として名高いこの湯の町で、毎年五月の夜、全国でもほかに類を見ない勇壮な行事が繰り広げられます。山から切り出された藤カズラだけで編まれた長さ約80メートル、重さ約2トンの巨大な雌雄二本の大綱を、東西に分かれた人々が夜の温泉街に繰り出して引き合う「三朝のジンショ」。国の重要無形民俗文化財に指定されたこの大綱引きは、人と山、湯治と信仰が一体となった三朝ならではの伝統行事として、今も町ぐるみで大切に受け継がれています。

山の霊気を纏う、五月節供の大綱引き

「三朝のジンショ」は、鳥取県東伯郡三朝町に伝えられる五月節供の綱引き行事で、毎年5月3日・4日に催される「花湯まつり」のクライマックスを飾ります。「ジンショ(陣所)」とは、この大綱引きそのものを指す地元の呼称で、東西二つの「陣」に分かれて力を競い合うという意味が込められています。温泉の恵みに感謝し、その年の豊作や商売繁盛を祈るとともに、人々と自然、そして神仏との結びつきを改めて確かめる機会として、長く大切に守られてきました。

行事は二日にわたって行われます。5月3日には、三徳川のほとりで地区の人々およそ100人が集まり、大綱を編み上げる「綱からみ」が朝から夕方まで続けられます。材料は、三徳山周辺の山から切り出したばかりの藤カズラ。雄綱と雌綱の二本が、共同作業によって一本一本丹念に綯い上げられていきます。翌4日の夜、完成した二本の大綱は温泉街の中央通りへと運ばれ、両者の太い「壷口(つぼぐち)」を結合させたうえで、東西の勢力が全力で引き合う壮大な綱引きへと発展していきます。

藤カズラという素材は、繊維が強靭で重く、山から採取する工程そのものが山の手入れを兼ねるという、自然との共生に根差した選択でもあります。全国の綱引き行事がほとんど藁を使用するなかで、藤カズラのみで綱を編むという形式は、三朝のジンショを唯一無二の存在たらしめている大きな特徴です。

なぜ国の重要無形民俗文化財に指定されたのか

三朝のジンショは、平成21年(2009年)3月11日、国の重要無形民俗文化財に指定されました。五月節供にともなう綱引き行事は日本海沿岸地域に濃密に分布していますが、文化庁がとりわけ三朝の行事を高く評価したのは、その綱が藤カズラのみで綯われているという点です。

指定にあたっての解説によれば、藤蔓のみを材料として綯われる大綱の形態は他地域にはみられないとされ、全国の類例のなかでも極めて特異な存在と位置づけられています。さらに、雌雄二本に分けて編む造形、両綱を樫の棒「カセギ」で一つに結合させる所作、勝敗によって豊作や商売繁盛を占う農耕儀礼的な意味合いなど、地域の信仰や生業の記憶が随所に息づいている点も、高い文化財的価値として評価されました。

三朝のジンショは、平成11年(1999年)12月3日に「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」として選択されていましたが、その後の継続的な伝承と調査研究の蓄積を踏まえ、2009年に重要無形民俗文化財として正式に指定される運びとなりました。地域の人々が労働・祈り・自然資源を一つの儀礼の形にまとめ上げてきた歴史そのものを伝える、かけがえのない生きた文化財です。

見どころ — 夜の温泉街に響く大綱の鼓動

もっとも見応えがあるのは、5月4日の夜、東西二本の大綱が温泉街を練り歩く場面です。東側の雄綱と西側の雌綱は、温泉本通りの中央に設けられる「縁門(えんもん)」に向かって、「ドシンドシン」と大綱の頭部を地面に打ちつけながら引き出されていきます。この所作は、邪気や災厄を祓う意味を持つとされ、太鼓の響きと提灯の灯りと相まって、祭りの緊張感を一気に高めていきます。

縁門で両綱が向かい合うと、若衆の手によって大綱が一斉に立ち上げられます。立ち上がった雄綱と雌綱の上にはそれぞれ一人ずつが乗り、綱の先端である「壷口」をコントロールしながら位置を合わせていきます。三度、四度ともみ合いを繰り返したのち、雌綱の壷口に雄綱の壷口を通し、「カセ木」と呼ばれる樫の貫き棒を差し込んで固定。同時に縁門の上に掲げられていた大提灯の灯りが一斉に消され、東西の引き合いが始まります。

言い伝えでは、東が勝てばその年は豊作となり、西が勝てば商売繁盛となるとされています。どちらが勝っても町にとっては吉兆であり、観客として訪れた人々も地元の老若男女に交じって綱に取りつくことができるため、会場は一体感のある熱気に包まれます。トラックよりも重い大綱を藤カズラだけで仕上げ、温泉街の石畳の上で引き合うという光景は、日本の祭りのなかでも格別の迫力を伝えてくれます。

周辺の楽しみ — 日本遺産「三徳山・三朝温泉」を巡る

三朝温泉は、約850年の歴史を持つとされる名湯で、世界屈指のラドン含有量を誇るラジウム泉として知られています。源義朝の家来・大久保左馬之祐が三徳山への参詣中に老白狼を助けた縁で、妙見大菩薩のお告げによって発見されたという開湯伝説が今も語り継がれており、2015年には「三徳山・三朝温泉 六根清浄と六感治癒の地」として、記念すべき日本遺産第一号のひとつに認定されました。三朝のジンショは、このストーリーのなかで「観」を象徴する民俗行事として位置づけられています。

温泉街から車で少し足を延ばせば、修験道の聖地として知られる三徳山・三佛寺が待っています。断崖絶壁の窪みに建てられた国宝「投入堂(なげいれどう)」は、日本一危険な国宝ともいわれる奥院で、その神秘的な姿は訪れる人を圧倒します。さらに、江戸・明治期の商家が並ぶ倉吉市の白壁土蔵群、紅葉と新緑の名所として名高い国指定名勝・小鹿渓、鳥取二十世紀梨記念館「なしっこ館」など、周辺には三朝町と倉吉市を中心に魅力的な立ち寄りスポットが点在しています。

訪問のご案内

三朝のジンショは、毎年5月3日・4日に開催される花湯まつりの中で行われます。5月3日は三徳川のほとりで朝から夕方まで綱からみの作業が進められ、4日夜の大綱引き「陣所」はおおむね20時30分頃から始まります。会場が温泉街の路上に広がるため、ゆったりと観覧するには地元の旅館に宿泊し、温泉につかりながら祭りの雰囲気に身を委ねるのがおすすめです。

三朝温泉までのアクセスは、山陰本線のJR倉吉駅からバスまたはタクシーで20〜30分ほど。岡山方面から特急「スーパーはくと」「スーパーやくも」などを利用すれば、首都圏や関西圏からもアクセスしやすい位置にあります。ゴールデンウィーク期間中で全国的に混雑が予想されるため、宿泊予約は早めに済ませておくと安心です。開催内容は年によって変更される場合もあるため、最新情報は三朝温泉観光協会などの公式サイトでご確認ください。

Q&A

Q三朝のジンショとはどのような行事ですか?
A鳥取県三朝町に伝わる五月節供の綱引き行事で、藤カズラで綯った巨大な雌雄二本の大綱を、温泉街の東西に分かれて引き合う勇壮な祭りです。国の重要無形民俗文化財に指定されています。
Qいつ、どこで見ることができますか?
A毎年5月3日に三徳川のほとりで綱からみ(綱を編む作業)が行われ、翌5月4日の夜、三朝温泉街の中央通りで大綱引き「陣所」が行われます。どちらも誰でも自由に見学できます。
Q何がこの祭りを特別なものにしているのですか?
A綱引きの行事は全国にありますが、藤カズラのみを材料に綯われる大綱の形態は三朝のジンショ以外には確認されておらず、この特異性が重要無形民俗文化財指定の大きな理由となりました。
Q勝敗には何か意味があるのでしょうか?
A地元の言い伝えでは、東が勝てばその年は豊作、西が勝てば商売繁盛になるといわれています。いずれが勝っても町にとっては吉兆とされ、祭りの後には町全体が祝福に包まれます。
Q観光客も綱引きに参加できますか?
A地元の方々と保存会の皆さまが行事の中心を担いますが、引き合いの場面では観光客も一緒に綱に加わることができます。当日は現場のスタッフの指示に従い、安全を確認しながらお楽しみください。

基本情報

名称 三朝のジンショ(みささのじんしょ)
指定区分 国指定 重要無形民俗文化財(風俗慣習)
指定年月日 平成21年(2009年)3月11日
保護団体 三朝区ジンショ保存会
所在地 鳥取県東伯郡三朝町(三朝温泉街一帯)
開催日 毎年5月3日(綱からみ)/5月4日(陣所 大綱引き)※花湯まつりの一環
綱の材料 三徳山周辺から切り出した藤カズラ
綱の規模 長さ約80メートル/重さ約2トン(雌雄それぞれ)
最寄り駅 JR山陰本線 倉吉駅(倉吉駅からバス・タクシーで約20〜30分)

参考文献

三朝のジンショ — 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/215289
国指定文化財等データベース — 三朝のジンショ
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/302/00000856
花湯まつり・大綱引き「陣所」 — 三朝温泉公式サイト
https://misasaonsen.jp/sightseeings/sightseeing-2881/
日本遺産 三徳山 三朝温泉「六根清浄と六感治癒の地」
https://misasaonsen.jp/japan-heritage/
とっとり文化財ナビ — 三朝のジンショ
http://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/E35D5BF138C9C87E4925796F00080069

最終更新日: 2026.04.20