矢部家住宅 ― 江戸時代初期の風格を伝える鳥取県最古級の民家

鳥取県八頭郡八頭町用呂の静かな集落に佇む矢部家住宅は、17世紀初頭に建てられたとされる県内最古級の民家建築です。江戸時代に大庄屋を務めた矢部家の格式と権威を今に伝えるこの住宅は、昭和49年(1974年)に国の重要文化財に指定されました。豪壮な木造架構と整然とした間取りが残るこの建物は、当時の上層農家の暮らしぶりを知るうえで極めて貴重な文化遺産です。

矢部家の歴史

矢部家は江戸時代を通じて大庄屋を務めた旧家です。大庄屋とは、複数の村を統括する地方行政の最高責任者であり、農民と藩政をつなぐ要としての役割を担っていました。矢部家がこの用呂の地に深く根を下ろし、地域の重鎮として活躍したことは、住宅の規模や敷地の広さからも十分にうかがい知ることができます。

主屋は徳川幕府が全国支配を確立しつつあった17世紀初期に建造されたと推定されています。鳥取県下に現存する民家建築としては最古のものの一つであり、江戸時代前期の農村社会における支配層の生活文化を理解するための第一級の資料といえます。

重要文化財に指定された理由

矢部家住宅の主屋は昭和49年(1974年)2月5日に国の重要文化財に指定され、平成6年(1994年)12月27日には宅地が追加指定を受けました。指定にあたっては、以下のような点が高く評価されています。

まず、県内最古級の民家でありながら、当初の規模や構造がほぼそのまま残されている点です。床の間や座敷の配置など、整形六間取りと呼ばれる当時の格式高い間取りが推察でき、上層農家の空間構成を知る貴重な手がかりとなっています。また、土間まわりの架構は豪壮で、古式の建築技法を今に伝えています。

さらに、宅地は江戸時代の大庄屋にふさわしい広大な規模を有し、当時の家相図とも一致することが確認されています。主屋と宅地が一体となって「国土の歴史的景観に寄与し、かけがえのないもの」との評価基準を満たしており、建物と敷地の双方が文化財としての価値を形成しています。

建築の見どころ

主屋は桁行約21.9メートル(約11間)、梁間約10.9メートル(約5間)という大規模な建物です。屋根は入母屋造で、もとは茅葺き。南面と東面には桟瓦葺きの庇が付いています。この建物の大きさそのものが、矢部家の経済力と社会的地位を雄弁に物語っています。

特に注目すべきは土間まわりの豪壮な架構です。土間は日常の農作業の中心的な場であり、それを支える太い柱と梁は、建築当時の技術力と実用性を兼ね備えた力強い空間を生み出しています。後の時代の民家建築では失われてしまった古式の構造技法が残されており、建築史研究において重要な位置を占めています。

整形六間取りの平面構成は現在でもほぼ推察することができ、江戸時代前期の上層農家がどのように居住空間を構成していたかを知る貴重な実例となっています。

庭園の咲分けツバキ

矢部家住宅の庭には、樹齢約300年と推定されるヤブツバキの大木があります。この木は「咲分けツバキ」と呼ばれる珍しい品種で、白・赤・桃色の三色の花を同じ木に咲かせるのが特徴です。冬の時期になると色とりどりの花が古い木造建築を背景に咲き誇り、訪れる人々の目を楽しませています。

見学に関するご案内

矢部家住宅は現在、一般への内部公開は行われていません。ただし、外観や敷地の見学は可能で、建物の佇まいを外から鑑賞したり、冬季に咲分けツバキの花を楽しんだりするために訪れる方が多くいらっしゃいます。

最寄り駅は若桜鉄道の丹比駅で、そこからタクシーで約5分の距離です。若桜鉄道はJR郡家駅で乗り換えることができ、JR因美線で鳥取方面・津山方面からアクセスできます。お車の場合は、鳥取自動車道の河原インターチェンジから地方道を経由して訪れることができます。

八頭町の周辺観光情報

矢部家住宅のある八頭町とその周辺には、さまざまな魅力的なスポットがあります。大江ノ郷自然牧場は地元産の卵を使ったふわふわパンケーキで知られるナチュラルリゾートで、カフェやショップを併設しています。道の駅はっとうでは、八東地区が誇る新鮮な梨・ぶどう・柿・りんごなどの季節のフルーツを購入できます。

鉄道ファンにはやずミニSL博物館がおすすめです。実際に石炭で走行する8.4分の1スケールのミニ蒸気機関車のコレクションを見学・体験できます。船岡竹林公園は国内外の珍しい竹や笹が生い茂る国内有数の竹林公園です。また、八頭町には有名な因幡の白兎伝説とは異なる独自の白兎伝承が残されており、福本地区には白兎神社が祀られています。

Q&A

Q矢部家住宅の内部は見学できますか?
A現在、内部の一般公開は行われていません。ただし、外観や敷地は自由に見学でき、有名な咲分けツバキも外からご覧いただけます。
Q見学に適した時期はいつですか?
A冬季は樹齢約300年の咲分けツバキが白・赤・桃色の花を咲かせ、特に見応えがあります。建物自体は四季を通じてご覧いただけます。
Q公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
AJR郡家駅で若桜鉄道に乗り換え、丹比駅で下車後、タクシーで約5分です。
Qなぜ重要文化財に指定されたのですか?
A鳥取県内最古級の民家であり、17世紀初期の建築当初の規模・構造・間取りがほぼ残されている点が高く評価されました。大庄屋にふさわしい宅地とともに、江戸時代前期の上層農家の暮らしを総合的に理解できる貴重な文化遺産です。
Q入場料はかかりますか?
A外観・敷地の見学に入場料はかかりません。お問い合わせは八頭町教育委員会事務局社会教育課(TEL: 0858-84-1232)までお願いいたします。

基本情報

名称 矢部家住宅(やべけじゅうたく)
指定区分 国指定重要文化財(建造物)
指定年月日 昭和49年(1974年)2月5日(主屋)/平成6年(1994年)12月27日(宅地追加指定)
時代 江戸時代前期(17世紀初頭)
構造 入母屋造、茅葺、桁行約21.9m、梁間約10.9m、南面及び東面庇付(桟瓦葺)
所在地 鳥取県八頭郡八頭町用呂1278番地
アクセス 若桜鉄道 丹比駅よりタクシー約5分
公開状況 内部非公開(外観見学可)
お問い合わせ 八頭町教育委員会事務局 社会教育課 TEL: 0858-84-1232

参考文献

矢部家住宅(鳥取県八頭郡八東町) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/157475
矢部家住宅 — 日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/4484/
矢部家住宅 — 八頭町公式サイト
http://www.town.yazu.tottori.jp/1167.htm
矢部家住宅 — やずナビ(八頭町観光情報)
https://yazukanko.jp/seeing_play/historicsite/yabehouse/
矢部家住宅 — 智頭急行株式会社 沿線みどころガイド
https://www.chizukyu.co.jp/chizukyu/guide/yazu_wakasa/yabeke/

最終更新日: 2026.03.29