正智院に伝わる唐時代の銅五鈷鈴

高野山の一院、正智院に、柄頭を五鈷の形にした青銅の法具の鈴が伝わる。銅五鈷鈴である。文化庁はこれを端的に唐の作品、すなわち中国・唐時代の制作と記し、昭和3年(1928年)に重要文化財へ指定した。指定番号は登録のなかでも若い番号に属し、その重要性がいかに早く、確かに認められたかをうかがわせる。

小ぶりな品ながら、密教の世界では第一級の法具である。金剛鈴は真言の修法に欠かせない道具であり、空海が日本の密教の中心として開いたこの山に伝わる唐時代の中国製の一口は、教えがどこから来たのかを示す証として、ひときわ重い意味をもつ。

五鈷鈴とは何か

真言の密教では、修法の壇に対をなす法具が据えられる。一つは金剛杵で、古代インドの雷を象った武器に由来する短い金属の杵であり、両端の鈷の数が一鈷・三鈷・五鈷と作り分けられる。もう一つが鈴で、その柄は金剛杵の半身の形につくられ、鈷の数で名を呼ぶ。五本の鈷をもつ形が五鈷鈴である。導師は片手に杵を、片手に鈴を執る。両者は智慧と方便、教えの核心にある分かちがたい一対を表す。

鈴は修法の節目を画し、招き請じた諸尊を歓喜させ、行者の心を引き締めるために鳴らされる。柄の五鈷にもそれ自体の意味があり、大日如来の五智に当てて読まれる。この種の法具はそれゆえ付属品ではなく、密教の体系そのものを手のうちに収め、音に鳴らす凝縮した像なのである。

中国伝来であることの意味

密教は九世紀の初め、唐の中国から日本に伝わった。空海が都で学び、経典・曼荼羅・法具を携えて帰朝したときである。壇に用いる杵や鈴も、その後に日本の金工がその形を学んで写した品々のなかにあった。それ自体が唐の中国製である鈴は、この伝来の源に位置する。後にその写しが作られていく、その手本そのものにあたる品であり、後代の模倣ではない。

だからこそ、国の記録の短い一文「唐の作品」が大きな重みをもつ。昭和3年に若い番号で行われた指定は、これが単に使える法具ではなく、美術史的に確かな価値をもつ古い舶載の法具だという判断を映している。国指定文化財等データベースは要点を押さえる。一口の青銅製の五鈷鈴、中国・唐時代の制作、重要文化財である。古い指定の多くと同じく、寸法は記載されていない。

正智院と、鈴を見ること

正智院は高野山の学問寺の一つで、高野山真言宗の別格本山である。開創は十二世紀の初めと伝え、鎌倉時代には「高野八傑」に数えられる学僧・道範によって再興された。国宝の文館詞林を所蔵する。唐の時代に編まれた漢の詩文の集成であり、あわせて重要文化財の不動明王坐像なども伝える。当院はまた現役の宿坊でもあり、二十世紀に作庭家・重森三玲が手がけた枯山水の庭を構える。この庭は国の登録記念物となっている。

五鈷鈴は常時公開されてはいない。高野山の指定品の多くと同様、本品も高野山霊宝館と連携して守られ、法具や正智院の名宝を集める展示があったときにのみ姿を見せる。見たいと願う旅人は、同館の特別展の予定を追うのがよい。鈴が出ていないときも、霊宝館や山内の寺院は他の多くの密教法具、杵・鈴・壇の荘厳具を展観しており、それらがこうした品の用い方と、唐時代の作がなぜ尊ばれるのかを明らかにしてくれる。

たとえ鈴が目の前になくとも、正智院は中心の伽藍からひと足のばす価値がある。一夜を過ごし、苔と石の庭の前に座り、当院が唐の詩文集を書として、唐の鈴を青銅として伝えていると知ること。それは、高野山がその学びの源である中国に、今なおどれほど直に触れているかを実感させてくれる。

Q&A

Q五鈷鈴とは何ですか。
A柄を五本の鈷をもつ金剛杵の形につくった密教の法具の鈴です。導師が修法の際に鳴らし、もう一方の手に持つ金剛杵と対で用います。
Qいつ、どこで作られましたか。
A国の記録は端的に唐の作品、中国製と記します。昭和3年(1928年)に重要文化財へ指定されました。
Q中国製であることがなぜ特別なのですか。
A密教とその法具は唐の中国から日本に伝わりました。唐の中国製の鈴は伝来の源に立つ品で、日本の作が学んだ手本にあたります。
Q正智院で見られますか。
A常時公開ではありません。高野山霊宝館と連携して守られ、特定の展示でのみ公開されます。同館の予定をご確認ください。
Q正智院は他に何を所蔵していますか。
A国宝の漢詩文集・文館詞林や、重要文化財の不動明王像などを伝えます。重森三玲の名庭をもつ宿坊でもあります。

基本情報

名称銅五鈷鈴
指定区分重要文化財(昭和3年〔1928年〕4月4日指定)
種別工芸品(金工・法具)
時代・制作地唐時代、中国の作
員数1口
所有者正智院(和歌山県高野町)
保管高野山霊宝館(公益財団法人高野山文化財保存会が管理)
公開状況常設展示ではなく、特定の展示でのみ公開。霊宝館へ要確認。

References

国指定文化財等データベース(文化庁)銅五鈷鈴
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/5438
正智院 寺院案内(宿坊)
https://www.shukubo.net/contents/stay/shochiin.html
高野山霊宝館 公式サイト
https://reihokan.or.jp/

最終更新日: 2026.06.23