旧国鉄紀勢西線紀伊湯浅駅本屋 ― 醤油発祥の地を見守り続けた洋風駅舎
和歌山県有田郡湯浅町、JR湯浅駅のすぐ隣に佇む旧紀伊湯浅駅本屋は、昭和2年(1927年)に紀勢西線の延伸に伴い建設された木造洋風駅舎です。92年間にわたり湯浅の玄関口として親しまれたこの駅舎は、令和元年(2019年)に駅機能を新駅舎に移した後、湯浅町に譲渡されました。令和5年(2023年)5月には外観の復元と内部の改修を経て飲食・物販施設「湯浅米醤」として生まれ変わり、令和6年(2024年)3月には国登録有形文化財(建造物)に登録されました。醤油醸造発祥の地・湯浅の歴史と、日本の鉄道遺産が交わる貴重な文化財です。
歴史的背景
紀伊湯浅駅の歴史は、紀勢線の建設と深く結びついています。昭和2年(1927年)8月14日、国鉄紀勢西線が藤並駅から紀伊湯浅駅まで延伸開業し、その終着駅として現在の駅舎が建設されました。翌昭和3年(1928年)10月には紀伊由良駅まで路線が延伸され、紀伊湯浅駅は途中駅となりました。
昭和34年(1959年)に紀勢本線が全通すると、駅は紀勢本線の駅として位置づけられ、駅名も「湯浅駅」に改称されました。昭和62年(1987年)の国鉄民営化によりJR西日本の管轄となり、以後も地域の交通の要として利用され続けました。
令和元年(2019年)に隣接地に新駅舎「湯浅えき蔵」が完成し、駅としての役割を終えた旧駅舎はJR西日本から湯浅町へ譲渡されました。令和3年(2021年)には「歴史的風致形成建造物」に指定され、官民連携による再利活用プロジェクトが進められました。株式会社つぎとを代表企業とする共同事業体が公設民営方式(DBO方式)で改修工事と運営を担い、令和5年(2023年)5月14日にグランドオープンを迎えました。
文化財指定の理由
旧国鉄紀勢西線紀伊湯浅駅本屋は、令和6年(2024年)3月6日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化審議会は令和5年(2023年)11月24日に登録を答申しています。
登録の理由として、戦前期の駅舎建築の様相を今に伝える洋風駅舎としての建築的価値が挙げられています。鉄板菱葺の半切妻屋根、垂直に突き出たドーマー窓、外壁に整然と並ぶ縦長上下窓といった意匠は、大正から昭和初期にかけて日本の鉄道駅に採用された西洋建築の影響を色濃く残しています。
また、開業以来90年以上にわたり地域の人々に親しまれてきた建物として、醤油醸造で発展した湯浅の近代を象徴する歴史的・社会的価値も評価されました。
建築の見どころ
本建築は木造平屋建、建築面積269平方メートルの規模を持ちます。屋根は半切妻造で鉄板菱葺とし、西面南寄りに切妻造の車寄(くるまよせ)を設けています。三方には吹放ちの下屋(しもや)が廻り、雨天時にも屋根下を歩ける構造となっています。
外壁は真壁(しんかべ)造りで漆喰塗仕上げ、腰部分はモルタル洗出し仕上げとなっています。ファサードに等間隔で配された縦長の上げ下げ窓が、洋風建築としての端正な外観を生み出しています。
内部はかつて南側に広い待合室を配し、カウンターを挟んで北側に事務室や職員休憩室などが設けられていました。旧待合室は三面に窓を設け、高い天井を持つ明るく開放的な空間で、現在はその特性を活かして飲食スペースとして利用されています。令和5年の改修では、写真や建物の痕跡をもとに外観を建設当初の姿に復元しつつ、内部は新たな用途に合わせて整備されました。
「湯浅米醤」での過ごし方
復元された駅舎には飲食・物販店「湯浅米醤(ゆあさべいしょう)」が入居しています。海南社(源じろう計画事務所)が運営するこの店では、昔ながらの薪を使ったかまどで炊いたご飯のおむすび、紀州鴨を使った湯浅鴨せいろ蕎麦、湯浅醤油の原型「たまり」を使ったあぶりもちなど、土地の食材と伝統を活かしたメニューが楽しめます。物販コーナーでは地元産の醤油や味噌などを購入することもできます。
特に注目したいのが、旧ホームの一部に設けられた木のデッキテラス席です。すぐ目の前を行き交う列車を眺めながら食事ができる、駅舎ならではの贅沢な空間となっています。
周辺の見どころ
湯浅町は駅舎だけでなく、町全体が歴史の宝庫です。駅から北西へ徒歩約10分の場所には、和歌山県唯一の国選定「重要伝統的建造物群保存地区」が広がっています。江戸時代から明治時代にかけての町家や土蔵が立ち並ぶこの地区は、日本遺産「『最初の一滴』醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」の中核をなしています。
主な見どころとしては、天保12年(1841年)創業で今なお伝統的な手法で醤油を醸造し続ける角長(かどちょう)、醤油醸造の道具を展示する職人蔵、江戸時代の銭湯を復元した歴史民俗資料館「甚風呂」、熊野古道の宿場として栄えた深専寺などがあります。また、湯浅港で水揚げされる新鮮なしらす(白子)は名物グルメとして知られ、駅周辺の食堂で味わうことができます。
Q&A
- 旧紀伊湯浅駅本屋はどのような文化財ですか?
- 令和6年(2024年)3月6日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。戦前期の洋風駅舎建築の様相を伝える貴重な建物として評価されています。
- 建物の中に入ることはできますか?
- はい、可能です。改修を経て飲食・物販施設「湯浅米醤」として営業しています。営業時間は10時~17時、定休日は月曜日(祝日の場合は翌火曜日)です。入場料はなく、飲食・物販のみの料金となります。
- アクセス方法を教えてください。
- JR紀勢本線(きのくに線)湯浅駅のすぐ隣に位置しています。新大阪駅からJR特急くろしおで約90分、和歌山駅からは普通列車で約30分です。
- 湯浅町はどのような町ですか?
- 和歌山県有田郡にある、日本の醤油醸造発祥の地として知られる町です。13世紀に中国から伝えられた味噌の製造過程で偶然生まれた液体が醤油の起源とされています。伝統的な町並みは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、日本遺産にも認定されています。
- 駐車場はありますか?
- JR湯浅駅周辺に駐車スペースがあります。詳細は湯浅町教育委員会(電話:0737-64-1128)または湯浅米醤(電話:070-9133-0737)にお問い合わせください。
基本情報
| 名称 | 旧国鉄紀勢西線紀伊湯浅駅本屋(きゅうこくてつきせいにしせんきいゆあさえきほんや) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和6年(2024年)3月6日 |
| 建設年 | 昭和2年(1927年)、昭和35年頃増築、令和5年(2023年)改修 |
| 構造 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積269㎡ |
| 所在地 | 和歌山県有田郡湯浅町大字湯浅字南道1075-2 |
| 所有者 | 湯浅町 |
| 現在の用途 | 飲食・物販施設「湯浅米醤」 |
| 営業時間 | 10:00~17:00 定休日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日) |
| 電話番号 | 070-9133-0737(湯浅米醤)/0737-64-1128(湯浅町教育委員会) |
| 交通 | JR紀勢本線(きのくに線)湯浅駅すぐ隣。新大阪駅からJR特急くろしおで約90分。 |
参考文献
- 旧国鉄紀勢西線紀伊湯浅駅本屋 | わかやまの文化財
- https://wakayama-bunkazai.jp/bunkazai/bunkazai-3252/
- 湯浅駅旧駅舎が国の登録有形文化財に登録されます - 湯浅町公式ホームページ
- https://www.town.yuasa.wakayama.jp/soshiki/11/7833.html
- 旧国鉄紀勢西線紀伊湯浅駅本屋 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/583502
- 湯浅駅 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%AF%E6%B5%85%E9%A7%85
- 築約90年のJR湯浅駅旧駅舎を改修、飲食&物販店を開業 | 株式会社つぎと
- https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000083746.html
- 湯浅駅駅舎 | 日本遺産ポータルサイト
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3222/
最終更新日: 2026.04.03