畑田家住宅主屋

二階の外壁を黒漆喰で塗り込めた外観が、周囲の家並みのなかで際立っている。和歌山県海南市の北西、船尾に建つ畑田家住宅主屋は、紀州漆器を商った一家が昭和4年(1929年)頃に建てた住宅である。平成31年(2019年)3月、登録有形文化財となった。

建築面積は102平方メートルほどと大きくはないが、つし二階ではなく階高のそろった総二階建とする。屋根は入母屋造の桟瓦葺で、軒は出桁造として深く張り出す。小ぶりな平面のわりに重厚な構えに見えるのは、この軒と黒漆喰の壁面によるところが大きい。

漆器の町と近代の住宅

海南市は会津・越前・山中と並ぶ漆器の四大産地のひとつで、生産の中心は船尾の隣、黒江地区にある。黒江では工房や商家が街路に対して斜めに並び、いわゆる「のこぎり歯」の町並みを形づくってきた。漆器の生業は室町期にさかのぼり、江戸時代には紀州藩の保護のもとで発展した。

明治・大正を経て力をつけた漆器商は、それまでの間口の狭い町家とは異なる住まいを構えるようになる。畑田家主屋はその一例で、一階に居室、二階に座敷を設ける。漆器業の隆盛とともに形づくられた近代住宅地の核として位置づけられている。

登録の理由と価値

建造物の保護には、国宝・重要文化財として指定する制度と、平成8年(1996年)に始まった登録有形文化財の制度がある。後者は規制が比較的緩やかで、所有者が建物を使いながら守ることを前提とする。本件は登録有形文化財にあたり、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。

評価の眼目は、特異な一点にあるというより、近代和風住宅としての完成度の高さにある。黒漆喰塗、柱を塗り込めて壁面を一続きとする大壁の二階、そして深い出桁の軒。これらが一体となって、最盛期の漆器商の住まいらしい風格を成り立たせている。同種・同年代で旧状をよく保つ住宅は、地区内でも数少ない。

見どころ

道の反対側から見上げてみたい。黒漆喰の二階壁が光を吸い込み、白く縁取られた軒先を浮かび上がらせる。柱を見せない大壁仕上げのため、壁面には継ぎ目がなく、平滑な面が街路に向き合う。

軒の出も見ておきたい。出桁に支えられて深く張り出すため、二階の窓に影を落とし、正面に奥行きを与えている。一階の居室は街路側に開き、静かな座敷は二階に置かれる。商いと接客を兼ねた商家の住まいらしい構成である。

主屋は個人の住宅で、内部は公開されていない。建物の背景を知るには、近接する黒江の町並みを歩くのがよい。日本遺産の構成に含まれるこの一帯では、川端通り沿いに漆器町の古い建築が残り、紀州漆器伝統産業会館(うるわし館)で漆器づくりの工程を学べる。

Q&A

Q建物の内部は見学できますか。
A個人の住宅のため、内部は公開されていません。外観は街路から見ることができます。
Qいつ建てられた建物ですか。
A昭和4年(1929年)頃の建築です。平成31年(2019年)3月29日に登録有形文化財となりました。
Q外観の特徴は何ですか。
A二階外壁を黒漆喰の大壁とし、軒を出桁造で深く出す点です。総二階建の重厚な構えが目を引きます。
Q漆器とどのような関係がありますか。
A紀州漆器を商った畑田家が建てた住宅です。海南市、とくに隣接する黒江は日本有数の漆器産地です。
Q周辺の見どころは。
Aのこぎり歯の町並みや紀州連子格子で知られる黒江地区、紀州漆器伝統産業会館などが徒歩圏にあります。

基本情報

名称畑田家住宅主屋(はただけじゅうたくしゅおく)
所在地和歌山県海南市船尾字中濱215-67
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成31年(2019年)3月29日(登録番号 30-250)
建築年代昭和4年(1929年)頃
員数1棟
構造及び形式木造2階建、瓦葺、建築面積約102平方メートル
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
公開状況個人住宅のため非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/畑田家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012784
紀州漆器(海南市)
https://www.city.kainan.lg.jp/kanko/tokusanhin/kishushikki.html
黒江周辺地図(海南市)
https://www.city.kainan.lg.jp/kanko/midokoro/sikki/kuroe_map.html
黒江の町並み(和歌山県公式観光サイト)
https://www.wakayama-kanko.or.jp/spots/detail_1003.html

最終更新日: 2026.06.22