旧熊野街道に面して建つ江戸後期の町家

大江家住宅主屋は、和歌山県日高郡みなべ町北道の旧熊野街道に東面して建つ江戸時代後期の町家で、平成21年(2009年)8月7日に国の登録有形文化財となった。

目の前の道は、かつて熊野三山をめざす参詣者が通った熊野街道である。国道が別に通されて久しく、いまは地元の生活道路になっている。建物のほうは動いていない。

まず目に入るのは間口の広さだ。主体部だけで17メートル。その南に間口9.7メートルの座敷部が続き、正面には下屋庇が通されて両者がひと続きの表構えに見える。全体で26メートルを超える。この規模の町家が一列に街道へ向いている例は、町内でもそう多くない。

屋根は途中で形式が変わる。主体部は北側を入母屋造、南側を切妻造とし、そこに座敷部の切妻屋根が接続する。正面から見ると気づきにくいが、街道を20歩ほど北へ歩いて振り返ると、棟の切り替わりがはっきり見える。

一階の上には、収納に使うつし二階が載る。外壁上部は柱を塗り込める大壁造の白漆喰仕上げで、そこに虫籠窓を開ける。太く塗り籠めた竪桟は通風のためだけならここまで太くする必要がない。防火を意識した造りである。その下には繊細な出格子が並ぶ。文化庁の解説は、重厚な構えのなかに細やかな出格子を備えた質の高い町家、という趣旨でこの建物をまとめている。

登録の理由と価値

国宝や重要文化財を生む「指定」に対し、「登録」は平成8年(1996年)に始まった比較的ゆるやかな保護の仕組みである。おおむね建設後50年を経た建造物のうち、現に使われ続けているものを対象とし、所有者はそのまま住み続けられる。大きく改造する際に届け出が要る代わりに、修理への技術指導や補助の道が開かれる。

大江家住宅主屋の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。建築そのものの質に加え、街道沿いの町並みを構成している点が評価されている。

この構えを支えたのは酒造業だった。大江家は明治中頃まで醸造を営んだ商家で、街道に主屋を構え、その背後に納屋や土蔵を配していた。敷地内の土蔵二棟は平成26年(2014年)に別途登録されている。

街道から見る見どころ

出格子から見てほしい。壁面からわずか数センチ持ち出すだけの造作だが、この数センチが一階に奥行きと影の帯をつくる。桟の間隔は、裕福に見せたいが下品にはしたくない、という施主の判断がそのまま形になった部分だ。

次に視線を上げる。

京都や大阪の町家が柱を見せる真壁造を好むのに対し、ここでは柱を塗り込めて白漆喰の面をつくっている。火と、太平洋から吹きつける潮風への備えであり、同時に街道の端からでも建物が見えるという効果を生んでいる。

外からは見えない部分もある。この種の町家を貫く土間である。令和2年(2020年)の秋、長年の使用で凹凸が生じていた37平方メートルの土間たたきが打ち直された。摩耗した層をいったんめくり取り、山土・漆喰・苦汁を混ぜたものを叩き締めるという伝統工法での施工で、工期は9月29日から10月16日まで。工事費約117万円のうち約半分を県と町の補助が担い、残りは所有者の負担だったという。登録有形文化財は、住んでいる人の手で維持されている。

訪ねる前に

大江家住宅主屋は現在も大江家の方が居住する個人の住宅で、一般公開されていない。拝観時間も拝観料も設定がなく、内部の見学や予約の受付もない。見られるのは街道側の外観だけで、もともとこの建物が見られることを想定していたのも、その一面である。

公道からの外観撮影に制限はないが、玄関の内側や出格子越し、庭へ向けてレンズを向けるのは控えたい。敷地内への立ち入りも遠慮すること。

アクセスは分かりやすい。JR紀勢本線(きのくに線)南部駅から徒歩10分弱。特急くろしおは停車する便としない便があるので、事前に確認しておくとよい。車なら阪和自動車道みなべICが最寄りとなる。みなべ町は梅の一大産地で、南部梅林までは車で10分ほど、見頃は2月である。

北道の集落そのものにも30分ほど割いてほしい。旧街道は北道から南道へほぼ当時の線形を保ち、漆喰壁や格子を残す家が点在している。

Q&A

Q大江家住宅主屋の内部は見学できますか。拝観料はかかりますか。
A見学はできません。現在も個人の住宅として使われており、内部は非公開です。拝観時間や拝観料の設定もありません。外観は公道から自由に見ることができます。
Q大江家住宅主屋はどこにあり、どう行けばよいですか。
A和歌山県日高郡みなべ町北道309、旧熊野街道沿いに建ちます。JR紀勢本線(きのくに線)南部駅から徒歩10分弱です。車の場合は阪和自動車道みなべICが最寄りです。
Q大江家住宅主屋はいつ建てられたのですか。
A文化庁のデータベースは主体部を江戸後期、西暦では1751年から1829年の範囲としています。南側の座敷部は明治期の増築で、明治前期とみられています。
Q大江家住宅主屋が登録有形文化財であることには、どんな意味がありますか。
A登録有形文化財は、重要文化財の「指定」より規制のゆるやかな制度です。使われ続けている建物を対象とし、所有者は居住を続けられます。大きな改変には届出が必要になる一方、修理への補助や技術的な助言を受けられます。主屋の登録は平成21年(2009年)8月7日です。
Q大江家住宅には主屋のほかにも登録された建物がありますか。
Aあります。同じ敷地の土蔵二棟が平成26年(2014年)10月7日に登録されました。建築面積176平方メートルの大蔵(明治前期の酒蔵)と、庭に面する建築面積43平方メートルの東蔵(江戸末期)です。いずれも非公開です。

基本データ

名称大江家住宅主屋(おおえけじゅうたくしゅおく)
所在地和歌山県日高郡みなべ町北道字濱通り309
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 30-0143
指定年平成21年(2009年)8月7日登録(告示は同年8月25日)
員数1棟
寸法木造平屋建(つし2階)、瓦葺、建築面積321平方メートル。間口は主体部17メートル、座敷部9.7メートル
所有者個人
公開状況非公開(外観のみ公道から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/大江家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007799
文化遺産オンライン(文化庁)/大江家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/192520
わかやまの文化財(和歌山県教育庁生涯学習局文化遺産課)/大江家住宅主屋
https://wakayama-bunkazai.jp/bunkazai/bunkazai-spot-848/
紀伊民報AGARA/土間たたきを補修 国文化財の大江家住宅
https://www.agara.co.jp/article/86914
みなべ町/みなべ町へのアクセスと町内案内マップ
https://www.town.minabe.lg.jp/tyousei/01/access.html

最終更新日: 2026.08.27