太刀〈銘来国俊〉 ― 紀州東照宮に伝わる山城来派の細身の一口

和歌浦湾を見下ろす雑賀山の上に鎮座する紀州東照宮は、徳川家康と紀州藩初代藩主・徳川頼宣を祀る。その神宝のひとつに、茎尻近くへ「来国俊」と三字に切られた太刀がある。豪壮な姿ではなく、すらりと細身に伸びた一口で、その静かな佇まいが、作者と、のちにこれを蔵した武家の双方を物語る。

身長は二尺三寸八分五厘、約72.3センチ。反りは八分五厘で、約2.6センチとおおらかである。刃文は区元から切先まで乱れのない直刃を焼く。茎は磨上げられており、古い太刀を後世に佩用するため寸を詰めた形だが、来国俊の銘は失われずに残っている。

来国俊は鎌倉時代後期、山城国(現在の京都府南部)に興った来派の刀工である。来派は粟田口派とともに京の作刀を担った名門で、来国俊はその中心に立った。弘安元年(1278年)から元亨初年(1320年代初め)にかけての年紀作が残り、正和五年(1316年)には「七十五歳」と添えた作もあって、長命かつ多作の人であったことがうかがえる。

指定の理由と価値

本太刀は昭和25年(1950年)8月29日に重要文化財へ指定された。戦後の文化財保護法のもとで比較的早い時期に指定された一群に属し、員数は工芸品一口として登録されている。

価値の核は二つある。ひとつは作者である。三字銘「来国俊」を切る現存作の多くが国宝・重要文化財・重要美術品に指定されており、その作域の確かさを裏づけている。もうひとつは、この一口が示す円熟期の作風だ。前期の来国俊は豪壮な姿に丁子乱れの華やかさを見せたが、後期には細身で直刃の瀟洒な作へと転じた。本太刀は後期の典型で、地鉄は小板目がよく詰み、地沸がつく。沸映りの立つこともこの派の見どころとされる。

伝来も評価の一部をなす。紀州徳川家は二百数十年にわたって歴代藩主が東照宮へ太刀を奉納し続けた。刀が誰の手を経てきたかという来歴そのものが、鉄の地刃と並んで、指定の保護する対象となっている。

見どころと拝観のてがかり

訪れる方への注意点を先に記す。この太刀は常時公開されていない。紀州東照宮の歴代藩主奉納刀十三口は和歌山県立博物館に寄託されており、個々の作は特別展などで折にふれ展示されるにとどまる。この一口を実見したい場合は、事前に博物館の展示予定を確かめるのがよい。

ただし、刀の里である東照宮そのものが、石段を登るだけの価値をもつ。元和7年(1621年)、家康の十男にして紀州初代藩主の頼宣が、亡父を祀るために創建した社である。漆と極彩色で飾られた権現造の社殿は、伝左甚五郎の彫刻や狩野派の壁画をともない、「関西の日光」と呼ばれてきた。侍坂と呼ばれる108段の石段を登りつめると、眼下に和歌浦の入江が広がる。

来派の太刀が展示される機会があれば、まず直刃の通り方に目をとめたい。区元から切先まで乱れず一筋に焼き通すことは見た目以上にむずかしく、この抑制のきいた作りこそが来派の名声を築いた。次に地鉄を覗き込み、この派が得意とした淡い沸映りの景色を探すとよい。

Q&A

Qこの太刀は紀州東照宮で見られますか。
A社頭では見られません。和歌山県立博物館に寄託されており、特別展などで折にふれ公開されるため、事前に展示予定をご確認ください。
Q「磨上げ」とはどういう意味ですか。
A茎を切り詰めて寸を短くすることで、古い長寸の太刀を後世に佩用しやすくする際に行われました。現在の身長約72.3センチはその結果ですが、作者銘は残されています。
Q来派と京都はどのような関係ですか。
A来派は京を含む山城国を本拠とした刀工集団で、鎌倉時代には粟田口派と並ぶ二大流派として知られました。
Q刀が他所にあっても東照宮を訪ねる価値はありますか。
Aあります。元和7年建立の本殿や唐門などは重要文化財で、彫刻と彩色が見事です。石段の上から望む和歌浦の景観も格別です。

基本情報

名称太刀〈銘来国俊〉
種別工芸品(刀剣)
指定区分重要文化財(昭和25年8月29日指定)
員数1口
時代鎌倉時代
作者来国俊(山城国)
寸法身長 約72.3センチ(磨上)/反り 約2.6センチ/刃文 直刃
所有者東照宮(紀州東照宮)/和歌山県
公開状況和歌山県立博物館に寄託。特別展などで随時公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6306
文化遺産オンライン「太刀 銘 来国俊」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/209986
紀州東照宮(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/紀州東照宮
特別展「紀州東照宮の宝刀」(和歌山県立博物館)
https://hakubutu.wakayama.jp/exhibit/toushougu-houtou2024/

最終更新日: 2026.06.23