太刀〈銘因州住景長〉――八代将軍が漁師町の社へ贈った一刀

和歌山市の南、有田市千田の中雄山の中腹に須佐神社が鎮座する。その社宝のひとつが、刃長68.2センチの細身の太刀である。茎には「因州住景長」と五字の銘が切られている。因州とは因幡国、現在の鳥取県東部を指し、景長は室町時代にこの地で槌をふるった刀工であった。

姿は鎬造、庵棟。地鉄は小板目がよく詰み、刃文は細い直刃にところどころ小さな乱れがまじる。帽子は尖り、茎は生ぶで目釘孔はひとつ、先は栗尻となる。社伝では、景長は山城国の粟田口吉正に学び、「因幡小鍛冶」と呼ばれたという。京の系譜は刃にあらわれており、細身の体配と詰んだ地鉄に山城伝のおもむきが読みとれる。

八代将軍吉宗の追善奉納

この太刀が有田に届いたのは享保6年(1721年)のことである。この年は、家康の十男にして紀州徳川家の藩祖・徳川頼宣の没後五十年にあたった。祖父の追善のため、すでに江戸で八代将軍の座にあった徳川吉宗は、紀伊国内の九つの神社へ古い太刀を一振ずつ奉納した。そのうちの一口が、この須佐神社に納められた。

こうした奉納刀の多くは、後世には刀身だけが残ることが珍しくない。有田の例が際立つのは、刀身・拵・二重箱・目録・趣意書がそろって遺された点にある。拵は江戸時代に奉納のために調えられたもので、縹色の糸巻、赤銅色絵の割菱紋を据えた金具、同じ割菱紋を蒔絵であしらった鞘からなる。

本刀は大正4年(1915年)に旧・古社寺保存法のもとで国宝に指定され、昭和25年(1950年)8月29日、現行の文化財保護法の施行にともない、あらためて重要文化財に指定された。附の糸巻太刀拵も刀身とともに登録されている。

剣難除けの社

須佐神社の歴史は古い。創祀は和銅6年(713年)と伝えられ、祭神は荒ぶる神スサノオである。往来する船は帆を下ろして敬意を表したといい、社は海上安全の守護として、またスサノオの勇猛な性格にちなんで剣難除け・災難除けの神として崇敬を集めてきた。名刀を奉る相手として、ふさわしい社であった。

現在の本殿は正徳元年(1711年)、吉宗の命によって造替されたもので、紀州藩の大工頭が手がけた一間社の建築である。毎年10月14日には千田祭が営まれ、「千田のけんか祭り」とも呼ばれる。神前に供えた六枚の鯛を漁師たちが奪い合う鯛投げ神事があり、鯛を手にすれば一年の大漁に恵まれるという。

旅の実際として一点。景長の太刀は厳重に守られた社宝であり、常時公開はされていない。社殿や本殿、祭礼は自由に参拝できるが、刀身を見られるかどうかは、地域の博物館で折々に開かれる特別展しだいとなる。刀を目当てに訪ねる場合は、事前に最新情報を確かめておきたい。

Q&A

Q誰がいつ作った刀ですか。
A室町時代に因幡国(鳥取県東部)で活動した刀工・景長の作です。社伝では京の山城伝・粟田口吉正の門流とされ、細身の姿と詰んだ地鉄にその作風があらわれています。
Qなぜ須佐神社にあるのですか。
A八代将軍徳川吉宗が享保6年(1721年)、祖父で紀州徳川家藩祖・徳川頼宣の五十回忌に奉納しました。この年、吉宗は紀伊国内の九社へ古い太刀を一振ずつ納めています。
Q参拝すれば刀身を見られますか。
Aいいえ。本刀は保管された社宝で、常設展示はされていません。地域の博物館で折々に開かれる特別展で公開されることがあります。鑑賞目的の場合は事前に最新情報をご確認ください。
Q拵が残っている意義は何ですか。
A奉納刀は刀身のみ残る例が多いなか、本品は刀身・拵・二重箱・目録・趣意書が一括で遺っています。十八世紀初頭の社への奉納のかたちを、まとまって知ることができます。
Q神社では何が見られますか。
A正徳元年(1711年)造替の本殿や、中雄山中腹の社叢を参拝できます。10月14日に合わせれば、鯛投げ神事のある千田祭も見られます。社は有田市にあり、和歌山市街から向かえます。

基本情報

名称太刀〈銘因州住景長〉(附 糸巻太刀拵)
指定区分重要文化財(工芸品)/昭和25年(1950年)8月29日指定
員数1口
時代・作者室町時代/因幡国の刀工・景長
寸法刃長68.2センチ、元幅3.0センチ、先幅1.9センチ、反り1.8センチ
所有者須佐神社(和歌山県有田市千田)
公開状況社宝として保管。常時の一般公開はなし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6328
文化遺産オンライン(国立文化財機構)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/131494
須佐神社 公式サイト
https://www.susajinjya.com/
有田市公式ウェブサイト(須佐神社)
https://www.city.arida.lg.jp/kanko/miruasobu/1001428.html

最終更新日: 2026.06.23