南蛮渡来の緞子をまとう ― 直江兼続所用と伝わる浅葱地花葉文緞子胴服

一着の上着の表地が、はるか海の彼方からやってきた。十六世紀のイタリアかイスパニア方面で織り上げられた浅葱色の絹が、南蛮貿易の船に積まれて日本に渡り、やがて出羽の地に拠った武将の衣裳になった。それがこの浅葱地花葉文緞子胴服である。

胴服とは、桃山時代に身分ある男性が小袖の上などに重ねて着た丈の短い上着で、後世の羽織につながる衣服にあたる。本品は、上杉景勝に家老として仕え、その手腕で知られた直江兼続(一五六〇〜一六一九)が着用したと伝わる。現在は山形県米沢市の上杉神社に所蔵され、平成二年(一九九〇年)に重要文化財に指定された。

異なる二つの世界が出会う一着

この胴服の価値は、舶来の生地と日本の仕立てが一つの衣服のなかで結びついている点にある。

表地は緞子と呼ばれる紋織の絹で、ヨーロッパでダマスクと称された織物に近い。五枚繻子の昼夜組織で織られており、繻子の表と裏が交互に現れることで文様が浮かび上がる仕組みである。意匠は、組紐を思わせる曲線の枠組みのなかに、多くの裂片からなる複雑な花の文様を収めている。こうした図柄は十五、六世紀のイタリアやイスパニアの織機が得意としたもので、研究者はこの表地を、ポルトガルやイスパニアの商人との南蛮貿易によって日本へもたらされた西欧の織物とみている。

出羽の武将がルネサンス期の舶来絹をまとっていたという事実は、当時の交易路がどこまで広がっていたかを示している。本品は、そうした東西交流を物に即して確かめられる遺品であると同時に、桃山時代の仕立てを明瞭に示す資料として評価されている。

見どころ

表地の色は浅葱、わずかに緑を帯びた淡い青で、日本の染織の語彙では普通の青とは区別される。これに金茶色の練緯を裏地として合わせ、二枚を重ねた袷の胴服に仕立てている。

仕立てそのものに注目したい。身幅は広く取られ、脇下から裾にかけて襠にあたる裂が足されているため、裾に向かって広がる一方、前身頃は後ろよりやや短い前下りとなっている。襟は身頃と同じ緞子を用いた通し襟である。これに対して袖は当時の小袖形にならって幅が狭く、袂の丸みもごく小さい。

こうした特徴は、同時代のほかの胴服とも響き合う。研究では二つの遺品がしばしば比較される。豊臣秀吉から片倉重長が拝領したと伝わる小紋染胴服(仙台市博物館蔵)と、同じく秀吉から片桐貞隆が拝領したという黄地菊桐紋付紗綾胴服(豊国神社蔵)である。三領を並べると、ゆったりとした身頃に細い袖を付ける形が、この時代の胴服に共通する特色だったことがわかる。

訪れる人に一点ことわっておきたい。宝物殿は展示替えを行うため、本品が常時公開されているわけではない。上杉家ゆかりの数多くの遺品のなかの一点として味わうのがよい。

周辺をめぐる

胴服を所蔵する上杉神社は、米沢城の本丸跡、現在の松が岬公園に鎮座する。現在の社殿は大正十二年(一九二三年)に再建されたもので、設計は米沢出身の建築家・伊東忠太の手による。

本品は神社の宝物殿である稽照殿に収められている。ここには重要文化財百数十点を含む上杉家ゆかりの品が千点以上あり、なかでも名高いのが直江兼続の甲冑である。前立に大きく「愛」の一字を掲げた兜は、二〇〇九年に放送された兼続を主人公とする大河ドラマでも広く知られるようになった。

歩いてすぐの場所には、上杉家の歴史をより詳しく紹介する米沢市上杉博物館があり、近隣の松岬神社には藩政改革で名高い上杉鷹山が祀られている。桜が植えられた城の堀は四月下旬が見頃で、二月には境内一帯が雪灯篭で埋まる地元の冬まつりが催される。

Q&A

Q訪れればいつでも実物を見られますか。
A必ずしもそうではありません。稽照殿は年間を通して展示替えを行うため、特定の一点が収蔵庫に入っている時期もあります。この胴服を目的に行く場合は、事前に上杉神社の案内を確認してから出かけることをおすすめします。
Q直江兼続とはどのような人物ですか。
A上杉景勝の家老として藩政を主導し、当時もっとも有能な統治者の一人と評された武将です。困難な時代の上杉家を支えた人物として記憶されています。本品は兼続の所用と伝わりますが、銘などの確たる記録ではなく伝承にもとづく伝来です。
Qなぜ日本の胴服に西欧の生地が使われているのですか。
A十六世紀後半、ポルトガルやイスパニアの船が南蛮貿易を通じて日本に舶来の織物をもたらしました。輸入された絹は高価で格式のあるもので、高い地位の武将であれば、こうした生地を日本式の衣服に仕立てさせることができたのです。
Q上杉神社へのアクセスを教えてください。
AJR米沢駅から路線バスに乗り、「上杉神社前」で下車します。所要はおよそ十分で、そこから公園を抜けて少し歩くと神社に着きます。
Q同じ旅でほかに見ておきたい場所はありますか。
A宝物殿の稽照殿と米沢市上杉博物館はいずれも見応えがあり、松が岬公園そのものも一年を通して心地よい場所です。少し足を延ばせば、上杉家の菩提寺である林泉寺もあります。

基本情報

名称浅葱地花葉文緞子胴服(あさぎじかようもんどんすどうふく)
指定区分重要文化財(工芸品) 平成二年(一九九〇年)六月二十九日指定
員数一領
時代桃山時代(十六世紀後半)
所有者上杉神社
所在地山形県米沢市丸の内一丁目四ー一三(宝物殿・稽照殿に収蔵)
アクセスJR米沢駅からバス「上杉神社前」下車、徒歩すぐ
公開状況稽照殿で展示替えにより随時公開。常時展示ではない。冬期間は休館することが多い。最新の開館時間・拝観料は事前に確認のこと。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/7292
羽前米沢 上杉神社 公式サイト(稽照殿)
https://uesugi-jinja.or.jp/keishoden/
上杉神社稽照殿(やまがたへの旅・山形県公式観光サイト)
https://yamagatakanko.com/attractions/detail_2518.html
直江兼続関連の史跡(米沢観光NAVI)
https://www.yonezawa-kankou-navi.com/person/naoe_02.html

最終更新日: 2026.06.18