背面で引き合わせる鎧、伝上杉謙信所用の色々威腹巻

腹巻は、胴を背面で引き合わせて着る鎧である。右脇で引き合わせる胴丸、騎射に適した重厚な大鎧と並ぶ中世武具の一形式で、もともとは軽快さを身上とした。山形県米沢市の上杉神社に伝わる色々威腹巻〈兜・壺袖付〉は、その腹巻に兜と壺袖を具えた一領で、上杉謙信(1530〜1578)の所用と伝えられている。

色々威とは、三色以上の絹の威毛(おどしげ)を用いて小札(こざね)を綴じ合わせる技法をいう。本品の威色については紫や紅を挙げる記述が見られるが、配色の詳細は資料によって異同がある。兜の前立には、戦勝の神として戦国期の武将に信仰された飯綱権現がかたどられており、毘沙門天を篤く信仰した謙信の人物像と響き合う意匠といえる。ただし謙信その人との結びつきは、銘によるものではなく伝来にもとづく。

室町の作、昭和34年指定

中世の鎧は、大鎧・胴丸・腹巻の三形式に大別される。腹巻は三者のうちもっとも軽く、当初は徒歩の兵が用いた。室町時代も後期になると上級の武士が好んで着用し、兜や袖を加えて格式を整える例が増えていく。本品もその系譜に連なる一領である。

文化庁の国指定文化財等データベースは、本品を室町時代の工芸品とし、昭和34年(1959)12月18日に重要文化財へ指定したと記録する。重要文化財は国宝の一段下に位置づけられる国の指定区分であり、歴史上・芸術上の価値が高いとされた品が全国から選ばれる。附(つけたり)として黒漆鎧櫃が指定に含まれている。なお同データベースは寸法や品質・形状の欄を空欄とするため、巷間に流布する細部の数値は慎重に扱うのが妥当である。

見どころ

まず前立の飯綱権現に目をとめたい。烏天狗の姿で狐に乗る神格として表されることが多く、仏教と民間信仰の交わる図像をなす。兜の眉庇の上にこれを掲げることは、合戦に臨む者が神威を恃む姿勢の表れでもあった。

威毛の配色も間近で確かめたい。横の段ごとに色を違えた絹紐が小札を貫き、段と段の境で色調が移ろう。本品は現存する腹巻のなかでも大ぶりで、胴丸に近い寸法をもつと評される。徒歩兵の具足を転用したものではなく、体格のある着用者を想定して作られた可能性をうかがわせる。壺袖の形状や背面で引き合わせる構造は、台に立てて展示された折にこそ読み取りやすい。

稽照殿と城跡

本品を収めるのは、上杉神社の宝物殿である稽照殿である。神社は米沢城本丸の跡地、現在の松が岬公園に鎮座し、謙信を祭神とする。上杉家は慶長6年(1601)に米沢へ入り、始祖ゆかりの遺品を携えてきた。謙信の遺愛の品が越後ではなく米沢に多く残るのは、この移封の経緯による。

稽照殿の建物自体も注目に値する。大正12年(1923)、米沢出身の建築家伊東忠太の設計で竣工した鉄筋コンクリート造の宝物殿で、国の登録有形文化財に登録されている。館内には上杉家伝来の宝物数百点が、入れ替えながら公開される。色々威腹巻の近くで人気を集めるのは、直江兼続所用と伝わる「愛」の前立の甲冑である。

展示は定期的に入れ替えられ、冬季は休館して春に再開する。本品の鑑賞を主目的とするなら、訪問前に公開状況を確かめておきたい。米沢へは鉄道で至り、神社は米沢駅からバスまたは徒歩で近い。

Q&A

Qこれは本当に上杉謙信が着た鎧ですか。
A所用は伝来にもとづきます。上杉家の記録と長年の伝承によって謙信と結びつけられてきましたが、謙信の名を記す銘はなく、文化庁の記録も室町時代の作とするにとどまります。謙信の家に伝えられ、伝承上その所用とされる鎧と理解するのが正確です。
Q腹巻は他の鎧とどう違うのですか。
A腹巻は背面の肩の間で引き合わせます。これに対し胴丸は右脇で引き合わせ、より古い大鎧は騎射に適した重厚な形式でした。腹巻は軽快さゆえ中世後期に広く用いられ、兜や袖を加えて上級武士が着る例も増えました。
Q開館していればいつでも見られますか。
A必ずしもそうではありません。稽照殿は展示替えを行うため、個々の品は公開と非公開を繰り返し、冬季は休館します。本品が目当てであれば、訪問前に神社の案内を確認するのがよいでしょう。
Q国宝ですか。
A国宝ではなく、その一段下にあたる重要文化財です。いずれも文化庁が所管する国の指定で、歴史上・芸術上の価値が高いと判断された品に与えられます。
Qあわせて見たいものはありますか。
A同じ稽照殿には直江兼続の「愛」の兜をはじめ、上杉家の武具や古文書が収まります。米沢城跡の松が岬公園や上杉神社そのものも、上杉家の歴史をたどる半日の行程によく合います。

基本情報

名称色々威腹巻〈兜・壺袖付〉(伝上杉謙信所用)
所在地山形県米沢市 上杉神社
指定区分重要文化財(工芸品)/昭和34年(1959)12月18日指定
時代室町時代
員数1領(附 黒漆鎧櫃)
所有者上杉神社
収蔵稽照殿
アクセスJR米沢駅からバスまたは徒歩
公開展示替えあり/冬季休館/事前の確認を推奨

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6717
文化遺産オンライン(国立文化財機構)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/198913
上杉神社稽照殿
https://uesugi-jinja.or.jp/keishoden/
やまがたへの旅(山形県観光情報)
https://yamagatakanko.com/attractions/detail_2518.html

最終更新日: 2026.06.18