國安家住宅:江戸時代の岩国城下町に息づく豪商の面影
山口県岩国市の城下町、本町筋に佇む國安家住宅は、江戸時代後期に建てられた商家建築の傑作です。かつて鬢付油(びんつけあぶら)の製造・販売で名を馳せた豪商「松金屋」の主屋として建てられたこの建物は、嘉永3年(1850年)頃の建築と推定され、岩国城下町の繁栄を今に伝える貴重な歴史的建造物として、平成12年(2000年)に国の登録有形文化財に登録されました。
平成29年(2017年)3月25日からは、岩国市観光交流所「本家 松がね」として一般公開され、岩国の歴史や観光情報の発信拠点として、また地酒や郷土料理の試飲・試食が楽しめる観光施設として、国内外から訪れる多くの方々をお迎えしています。錦帯橋からわずか徒歩3分という好立地にあり、岩国観光の際にはぜひ立ち寄りたいスポットです。
歴史的背景
國安家住宅の歴史は、岩国城下町の成り立ちと深く結びついています。慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いの後、岩国に国替えとなった吉川広家は、横山の山頂に岩国城を築くとともに、その麓と錦川の対岸に計画的な城下町を整備しました。錦川を天然の外堀として、対岸の岩国地区には中・下級武士や商人・職人を住まわせ、商業の中心として本町筋が形成されました。
この本町筋に軒を連ねた有力商家のひとつが「松金屋」でした。松金屋は鬢付油「松金油」の製造・販売を手がけ、全国にその名を知られた岩国を代表する豪商です。当時、大名や幕府の役人たちが錦帯橋見物の際に休憩所として利用していたとも伝えられ、その格式の高さがうかがえます。現在の建物は、客座敷の間の座板裏面に「嘉永3年」の墨書が残されていることから、1850年頃に建てられたと推定されています。
明治維新後、婦人の洋装化により鬢付油の需要が急速に減少し、松金屋は衰退の道をたどりました。昭和10年(1935年)に國安氏がこの建物を購入し、醤油製造業を営みましたが、大手醤油メーカーの進出により製造を中止。以後は國安氏の居住用として使われてきました。平成26年(2014年)、建物の維持管理が困難となったため岩国市が買い取り、平成27年度に外観および内装の改修工事を実施。平成29年(2017年)に観光交流施設として生まれ変わりました。
文化財としての価値
國安家住宅は、平成12年(2000年)2月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その価値は、岩国城下町の商家建築の姿を良好な状態で今に伝えている点にあります。
建物は間口9間(約16メートル)規模のつし2階建てで、切妻造、平入り、桟瓦葺きの塗屋造町屋建築です。外壁は全体が防火に強い土壁漆喰塗りで仕上げられ、軒が高く、突端には鬼板瓦を備えた堂々たる構えを見せています。特に注目すべきは、つし2階正面壁に開けられた3本の横格子の虫籠窓(むしこまど)で、民家には珍しい意匠として高く評価されています。
内部は通り土間が吹き抜けとなっており、太い梁が縦横に架け渡された豪壮な空間が広がります。1階の南側には2.8メートルの格子が残り、それ以外の部分はすべて開放可能な構造で、かつてはぶちょう(撥ね上げ戸)や大戸口を備えた典型的な商家の店構えであったことがわかります。
建築後、幾度かの改造が加えられていますが、全体的には旧状をよく保っており、江戸時代の岩国城下町を代表する町家建築として極めて貴重な存在です。さらに平成29年(2017年)2月14日には、岩国市の景観重要建造物第2号にも指定されています。
見どころと体験
國安家住宅の魅力は、建物そのものの美しさと、そこで体験できる岩国の文化にあります。
まず目を引くのは、本町筋に面した堂々たる外観です。白漆喰の大壁造りに、つし2階の虫籠窓が独特のアクセントを添え、江戸時代の城下町にタイムスリップしたかのような雰囲気を醸し出しています。正面に設けられた庇(ひさし)の下には、往時の商家の活気が感じられます。
建物内部に足を踏み入れると、まず圧倒されるのが通り土間の吹き抜け空間です。天井を見上げれば、太く頑丈な梁が幾重にも交差する様子が見て取れ、江戸時代の大工の技術力と建主の財力を物語っています。奥には落ち着いた佇まいの床の間や、四季折々に彩られる中庭が広がり、商家でありながら洗練された住空間であったことがうかがえます。
現在は観光交流施設として、岩国市や國安家住宅の歴史をパネル展示で紹介しているほか、岩国の五蔵の地酒や、岩国寿司・岩国れんこんなどの特産品を試飲・試食(有料)できるコーナーも設けられています。毎週土日には、岩国藩鉄砲隊保存会所有の本格的な甲冑を身に着けての甲冑体験(予約制・1,000円)も実施されており、火縄銃や刀(レプリカ)を携えての記念撮影が楽しめます。お子様用(身長110cm前後)のサイズも用意されています。
ご利用案内
國安家住宅(本家 松がね)は、年中無休で入館無料です。開館時間は9時から17時まで(4月~8月は18時まで)となっています。
錦帯橋の岩国側から徒歩約3分と、非常にアクセスしやすい場所にあります。専用駐車場はありませんので、お車でお越しの際は錦帯橋下河原駐車場をご利用ください。公共交通機関をご利用の場合は、JR岩国駅からいわくにバスで約20分、「錦帯橋」バス停下車後、徒歩約5分です。山陽自動車道の岩国インターチェンジからは車で約10分です。
甲冑体験は毎週土曜日・日曜日の10時~16時(最終受付15時)に実施しています。料金は1人1,000円、所要時間は約40分です。事前予約が必要となりますので、お電話(0827-28-6600)にてお申し込みください。
周辺の見どころ
國安家住宅は、西日本有数の歴史的観光地の中心に位置しており、徒歩圏内に数多くの名所が点在しています。
まず何といっても外せないのが、徒歩3分の距離にある錦帯橋です。延宝元年(1673年)に第三代岩国藩主・吉川広嘉によって創建された日本三名橋のひとつで、清流錦川に架かる五連の木造アーチ橋は、日本の土木技術と美意識の結晶として世界的に知られています。春の桜の季節や夜間ライトアップ時の美しさは格別です。
錦帯橋を渡った先には、旧岩国藩主吉川家の居館跡に造られた吉香公園(きっこうこうえん)が広がります。日本の歴史公園100選にも選ばれたこの公園には、重要文化財の旧目加田家住宅、香川家長屋門、岩国徴古館など、藩政時代を偲ばせる文化財が点在しています。
吉香公園からロープウェーに乗れば、標高約200メートルの横山山頂に建つ岩国城へ。桃山風南蛮造りの天守閣からは、錦川と錦帯橋、岩国市街地、さらに晴れた日には瀬戸内海の島々まで見渡すことができます。関ヶ原の戦い後に築かれた珍しい山城で、上階が下階より張り出した独特の構造は建築愛好家にも人気です。
このほか、岩国にだけ生息する天然記念物のシロヘビを展示する「岩国シロヘビの館」や、佐々木小次郎の銅像、紅葉谷公園など、見どころは尽きません。岩国城下町一帯は平成19年に「美しい日本の歴史的風土100選」にも選定されており、碁盤目状の町割りと歴史的建造物が織りなす景観は、散策するだけでも大きな魅力があります。
Q&A
- 國安家住宅はもともと何に使われていた建物ですか?
- 江戸時代に鬢付油(びんつけあぶら)の製造・販売を営んでいた豪商「松金屋」の主屋として建てられました。鬢付油とは、武士のちょんまげを結う際に使う髪油のことです。その後、昭和10年に國安氏が購入し醤油製造業を営み、さらに住居として使用されてきました。
- 入館料はかかりますか?
- 入館は無料です。建物内部の見学やパネル展示は自由にご覧いただけます。ただし、地酒や特産品の試飲・試食は有料です。また、毎週土日に実施している甲冑体験は1人1,000円(予約制)となっています。
- 虫籠窓(むしこまど)とは何ですか?
- 虫籠窓とは、町家建築のつし2階部分の壁面に設けられた、格子付きの小窓のことです。採光と通風の役割を果たしつつ、防火性や防犯性も兼ね備えています。國安家住宅の横格子の虫籠窓は、民家では珍しい意匠として特に注目されています。
- 駐車場はありますか?
- 國安家住宅(本家 松がね)には専用駐車場がありません。お車でお越しの際は、近くの錦帯橋下河原駐車場をご利用ください。近隣私有地への無断駐車はご遠慮ください。
- 甲冑体験はどのように申し込めますか?
- 甲冑体験は毎週土曜日・日曜日に実施しています。時間は10時~16時(最終受付15時)、料金は1人1,000円、所要時間は約40分です。事前予約が必要ですので、本家 松がね(電話:0827-28-6600)までお申し込みください。お子様用(身長110cm前後)のサイズもあります。
基本情報
| 名称 | 國安家住宅(くにやすけじゅうたく) |
|---|---|
| 現在の施設名 | 岩国市観光交流所「本家 松がね」 |
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)/平成12年(2000年)2月15日登録、景観重要建造物第2号/平成29年(2017年)2月14日指定 |
| 建築年代 | 嘉永3年(1850年)頃(江戸時代後期) |
| 構造 | 木造2階建(つし2階)、瓦葺、建築面積257㎡ |
| 建築様式 | 切妻造、平入り、塗屋造(土壁漆喰塗り) |
| 所在地 | 〒741-0062 山口県岩国市岩国1丁目7-3 |
| 所有者 | 岩国市 |
| 開館時間 | 9:00~17:00(4月~8月は18:00まで)/年中無休 |
| 入館料 | 無料 |
| 電話番号 | 0827-28-6600 |
| アクセス | 錦帯橋(岩国側)から徒歩約3分/JR岩国駅からバス約20分「錦帯橋」下車徒歩約5分/山陽自動車道岩国ICから車約10分 |
| 駐車場 | なし(錦帯橋下河原駐車場を利用) |
参考文献
- 文化遺産オンライン - 國安家住宅
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/166842
- 岩国市 - 景観重要建造物の指定
- https://www.city.iwakuni.lg.jp/site/keikan-keikaku/18334.html
- 岩国観光振興課 - 本家 松がね
- https://kankou.iwakuni-city.net/iwakunikankoukouryuusho_matugane.html
- おいでませ山口へ - 岩国市観光交流所「本家 松がね」
- https://yamaguchi-tourism.jp/spot/detail_18116.html
- JRおでかけネット - 岩国市観光交流所「本家 松がね」
- https://guide.jr-odekake.net/spot/12656/
- 岩国城下町 - 岩国の観光.com
- https://www.iwakuni-kanko.com/nishi/zyouka/index.php
- いわくに文化財探訪
- https://iwakuni-bunkazai.jp/
最終更新日: 2026.04.18