条約が生んだ石造灯台
六連島灯台は、山口県下関市の六連島北東端の断崖上に建つ石造灯台で、明治4年(1871)の完成、令和2年(2020)12月23日に国の重要文化財(建造物)に指定された。現役の航路標識として、いまも関門海峡西口を照らしている。
塔は高くない。総高は約10.2メートル。断崖がすでに海面から20メートルほどの高さを稼いでいるから、それ以上の高さを必要としなかった。切石を積んだ白い円筒の上に金属製の灯籠がのり、東側に扇形平面の付属舎が取りつく。周囲は低い石の囲障で囲われている。建築面積は57.71平方メートルである。
この規模の構造物が国の重要文化財となる理由は、幕末の外交にさかのぼる。慶応3年(1867)、兵庫開港を控えた江戸幕府は英国との間で大坂約定を結び、瀬戸内海の航路に灯台5基を設けることを約した。幕府はほどなく倒れ、事業は明治新政府に引き継がれる。実務を担ったのは、日本政府に雇われたスコットランド出身の土木技師リチャード・ヘンリー・ブラントンだった。設計はエディンバラのスティヴンソン社が作成した仕様書に基づく。
着工は明治3年(1870)10月。竣工日については記録に幅がある。山口県の文化財データベースは明治4年11月28日を挙げ、別の記録は同年11月21日の初点灯を伝える。後者は太陽暦の1872年1月1日にあたる。いずれにせよ年の変わり目には灯がともり、神戸以西では3番目の灯台となった。
当初の灯器は二重火口芯で、第四等レンズを組み合わせていた。灯籠の上層に鉄製の菱形格子窓枠が並び、海側にはガラス、陸側には鉄板が嵌まる。響灘の冬の風に対する、きわめて実務的な処理である。現在の光源はLEDに替わっている。
附指定の三点 ― 灯台から離れた「附」
指定の基準は「歴史的価値の高いもの」。灯台本体1基に加え、旧日時計1基、石垣1基、旧俎礁標1基が附(つけたり)として指定されている。
このうち旧俎礁標は、島にない。
もとは関門海峡の岩礁上に立てられ、浅瀬の存在を航行船に知らせた標識で、灯台と同じ時期のものである。国内に現存する立標としては最古級とされる。のちに改造と移築を経て独立した航路標識となり、大正期から近年まで金ノ弦岬灯台として機能した。下関市は、これを六連島灯台の歴史を理解するうえで不可欠なものと位置づけている。数キロ離れた構造物が同じ指定に含まれるのは、そうした経緯による。
同日には、同じくブラントンが関わった角島灯台(下関市)と、海峡の対岸に立つ部埼灯台(北九州市)も指定を受けた。現役の灯台が重要文化財となったのは、この3基が全国で最初である。海上保安庁が航路標識として維持管理し、文化庁が建造物として保護するという、やや珍しい二重の立場に置かれることになった。
公式の記録には残らない話も島には伝わる。竣工後、明治天皇が視察に訪れたといい、島にはその碑が建つ。
渡船で行く、二時間半の島
六連島は彦島の北西約5キロメートル、響灘に浮かぶ溶岩台地の島である。渡る手段は下関市営の連絡船のみで、下関駅にほど近い竹崎町の桟橋から発着する。所要時間は約20分、運賃は大人片道370円、往復710円。
ここでは時刻表が旅程を決める。通常期の運航は1日4往復。日帰りで島に滞在できる組み合わせは実質ひとつ、竹崎発10時00分と六連島発12時30分の便で、島にいられるのは2時間半ほどになる。正月、春分前後、8月の盆期には5往復に増える。気象によって時刻が変わるため、出発前に下関市港湾局の案内で確認しておきたい。
灯台は島の北東端にあり、港からは花卉栽培のビニールハウスが並ぶ台地を歩いて向かう。現役の航路標識であるため塔内は非公開で、見学は囲障の外からとなる。日時計と石垣もそこから目に入る。外観の撮影に制限はない。
島の住民は100人に満たない。ハウスではキク、カーネーション、ガーベラが育てられ、「花の島」とも呼ばれる。周辺の海ではウニ、サザエ、アワビが採れる。アルコール漬けのウニの瓶詰めがこの島の西教寺で偶然生まれたという話も残っている。海岸には雲母玄武岩の露頭があり、地質を目当てに訪れる人もいる。島を一周し、灯台の下でしばらく過ごすには、二時間で足りる。
Q&A
- 六連島灯台の内部は見学できますか?
- できません。海上保安庁が管理する現役の灯台のため、塔内は非公開です。徒歩で近づき、囲障の外から灯塔、付属舎、旧日時計、石垣を見ることができます。
- 六連島灯台へは下関駅からどう行きますか?
- 下関駅から徒歩圏の竹崎町の桟橋から市営連絡船に乗り、約20分で六連島に着きます。運賃は大人片道370円、往復710円。港からは島の北東端まで歩きます。
- 六連島灯台の見学にはどれくらい時間が必要ですか?
- 竹崎発10時00分、六連島発12時30分の便を使うと滞在は約2時間半で、灯台の見学と島の一周に充てられます。観光施設はほとんどないため、飲み物を持参し、帰りの時刻を確認してから歩き始めてください。
- 六連島灯台はなぜ重要文化財に指定されたのですか?
- 慶応3年の大坂約定に基づき瀬戸内海に設けられた灯台5基の一つで、ブラントンの指導による我が国最初期の石造灯台だからです。文化庁は近代海上交通史上の価値を評価し、令和2年12月23日に指定しました。
- 六連島灯台の附指定「旧俎礁標」とは何ですか?
- 関門海峡の岩礁に立てられ浅瀬を知らせた標識で、灯台と同時期のもの、国内最古級の立標とされます。改造・移築を経て金ノ弦岬灯台として近年まで使われ、廃止後も六連島灯台の附として保護されています。
基本データ
| 名称 | 六連島灯台(むつれしまとうだい) |
|---|---|
| 所在地 | 山口県下関市豊北町大字六連島字船着654番地(文化庁データベースの登録表記。六連島は下関市に属する島) |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/種別:近代・産業・交通・土木 |
| 指定年 | 令和2年(2020)12月23日、指定番号2715 |
| 員数 | 1基(附:旧日時計1基、石垣1基、旧俎礁標1基) |
| 寸法 | 建築面積57.71平方メートル、総高約10.2メートル、金属製・石造、囲障附属 |
| 所有者 | 国(海上保安庁)/下関市 |
| 公開状況 | 島へは竹崎町から市営渡船。灯台は外観のみ見学可、内部非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 六連島灯台
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00005289
- 文化遺産オンライン — 六連島灯台
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/516597
- 山口県の文化財 — 六連島灯台
- https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=110206
- 下関市 — 六連島灯台及び角島灯台の重要文化財指定について
- https://www.city.shimonoseki.lg.jp/soshiki/104/5903.html
- 下関港 — 六連島航路の運航時刻と運賃
- https://www.shimonoseki-port.com/154836.html
- 文化庁 — 近代の文化遺産の保存と活用(灯台)
- https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/019/index.html
- 山口県 — 離島・六連島
- https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14132.html
最終更新日: 2026.08.11