明治21年、商品を守るために建てられた蔵
白石家住宅呉服蔵は、山口県防府市宮市町にある明治21年(1888年)建築の土蔵で、平成30年(2018年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は35-0100である。
敷地の中央に建つ主屋の後方、西寄りに南北棟で建つ。土蔵造2階建、切妻造桟瓦葺、建築面積49平方メートル。外壁は漆喰を軒まで塗り込め、鉢巻と水切を廻す。東面の北寄りに戸口を設け、下屋を付す。
棟札によれば棟梁は堀江仙二郎。主屋の建築が大正7年(1918年)だから、蔵のほうが30年早く、しかも別の大工の手による。順序としては当然で、商品を守る蔵が先に建ち、京から職人を招いて構える住まいは、商いがさらに大きくなってから建てられている。
宮市は、この二棟が建つ以前から商業の要地だった。防府天満宮の門前町として町並みが形成され、江戸期には山陽道と萩往還が交差する。近くの兄部家は寛永19年(1642年)に宮市宿の本陣に定められ、西国大名や幕府役人の宿所となった。二本の街道から人が集まる町で、明和2年(1765年)創業の呉服商が商品を蓄えるための建物である。
登録の理由 ― 商いの痕跡としての建築
呉服蔵が登録されたのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準による。同じ敷地の道具蔵及び食物蔵も同日、同じ基準で登録されている。主屋だけが「造形の規範となっているもの」という別の基準で扱われた。
文化庁の解説は、呉服商の営みの一端を示す附属建物と位置づけている。座敷や茶室が家の格を示すのに対し、蔵が示すのは商売そのものだ。反物は火にも湿気にも虫にも弱い。在庫の評価額が住宅の価値を上回る局面すらある。厚い土壁、絞った開口、管理された一つの出入口という構成は、意匠の選択というより在庫管理の要請から導かれた仕様である。
構造面で注目されたのは小屋組だった。和小屋ではあるが、八角断面の梁の上に角材の梁を重ね、それが桁を受けるという組み方をとる。八角の梁は一般的な手法ではない。公表資料はこの選択の理由まで記しておらず、解説も「独特な形式」と述べるにとどまる。地域的な習慣か、堀江仙二郎の流儀か、あるいは手元の材の都合か、判断材料は現状では揃っていない。
平成27年(2015年)に改修が行われている。所有者の説明では、内部は改装されたものの外観と基本構造は変えていない。使いながら残すという登録制度の趣旨に沿った手の入れ方といえる。
見どころと、いまの使われ方
白い壁は上から順に読むとわかりやすい。軒下を一周する太い帯が鉢巻で、壁と屋根の取り合いという最も傷みやすい部分を厚く固めている。その下の水切は雨水を壁面から離して落とす。どちらも実用の造作だが、無地の白壁に水平の調子を与える役目も果たす。敷地内の二棟の蔵は、この帯の構成で見分けられる。呉服蔵は鉢巻の下に水切を廻し、道具蔵及び食物蔵は鉢巻の直下に細い帯を一筋だけ廻す。
戸口は東面の北寄り、下屋の下にある。扉は観音開きで、閉じたときに漆喰の面が連続して隙間を塞ぐように仕立てられている。所有者の公表資料では桁行9.45メートル、梁間4.81メートル。数字にすると小さな建物だが、二層に積めば反物の量は相当なものになる。
この蔵が興味深いのは、遺構として静止していない点にある。現在は催しの会場として使われており、白石家が続けている「呉服蔵コンサート」は、令和8年(2026年)3月の春の回で第58回を数えた。所有者は各種の催しへの利用にも応じるとしている。光と湿気から絹を守るために造られた空間が、室内楽に向くというのは理屈が通っている。湿度を安定させていた土と漆喰の質量が、そのまま音の落ち着きにも働くからだ。
問題は入る機会である。敷地は通常非公開で、年2回、春と秋の展示会に合わせて公開される。日程は白石呉服店のウェブサイトとFacebookで告知される。山口県の観光サイトには、登録建造物を巡るガイドツアーを含む予約制プログラムが掲載されており、コンサートや催しの申し込みも実質的な入館経路になっている。内部撮影の可否はその都度所有者が判断するため、当日確認したい。
JR防府駅天神口(北口)から徒歩12〜15分。通りに面しているのは店舗で、蔵はその奥にあり、道路からは見えない。外観を眺めるにも門の内側に入る必要がある。
Q&A
- 白石家住宅呉服蔵は見学できますか。
- 自由に入れる建物ではありません。敷地は個人の住まいであり営業中の店舗でもあるため、通常は非公開です。年2回、春と秋に白石呉服店が開く展示会に合わせて公開されるほか、蔵で開かれるコンサートや催しの参加者として入る形もあります。日程は同店のウェブサイトとFacebookで告知されます。
- 白石家住宅呉服蔵は現在どのように使われていますか。
- 催しの会場として使われています。白石家が続ける呉服蔵コンサートは令和8年(2026年)3月の春の回で第58回を数え、所有者は各種の催しへの利用相談にも応じるとしています。平成27年(2015年)の改修で内部が整えられ、こうした活用が可能になりました。
- 白石家住宅呉服蔵はいつ、誰によって建てられたのですか。
- 棟札から明治21年(1888年)、棟梁は堀江仙二郎と判明しています。大正7年(1918年)の主屋より30年早い建築です。なお白石呉服店の公式サイトは「明治21年・1881」と記していますが、明治21年は1888年にあたり、文化庁の国指定文化財等データベースと山口県の文化財データベースはいずれも1888年としています。
- 白石家住宅呉服蔵と、同じ敷地の道具蔵及び食物蔵はどう違いますか。
- 呉服蔵は総二階建で建築面積49平方メートル、主屋の後方西寄りに建ちます。道具蔵及び食物蔵は平屋一部2階建で41平方メートル、主屋の前方東寄りです。外観では、呉服蔵が鉢巻の下に水切を廻すのに対し、道具蔵及び食物蔵は細い帯を一筋廻す点で見分けられます。
- 白石家住宅呉服蔵へのアクセスと、周辺に見どころはありますか。
- 所在地は山口県防府市宮市町311他で、JR防府駅天神口(北口)から徒歩12〜15分です。同じ通りを進めば、菅原道真を祀る神社として最初に創建されたと伝わる防府天満宮があり、宮市宿の本陣を務めた兄部家の跡も近くにあります。
基本データ
| 名称 | 白石家住宅呉服蔵(しらいしけじゅうたくごふくぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 山口県防府市宮市町311他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 35-0100/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成30年(2018年)11月2日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺、建築面積49平方メートル。所有者公表値では桁行9.45メートル、梁間4.81メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 通常非公開。年2回(春・秋)の展示会に合わせて公開。コンサート等の催し会場としても利用 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 白石家住宅呉服蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012650
- 文化遺産オンライン — 白石家住宅呉服蔵
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/379834
- 山口県の文化財 — 白石家住宅呉服蔵
- https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/bunkazai/summary.asp?mid=110234
- たびたびほうふ(防府市)— 白石呉服店の観光コンテンツ一覧
- https://visit-hofu.jp/yamaguchidc-shiraishigofukuten/
- おいでませ山口へ — 特別公開・白石家住宅・蔵見学とふろしき包み体験
- https://yamaguchi-tourism.jp/spot/detail_19394.html
- おいでませ山口へ — 宮市本陣兄部家
- https://yamaguchi-tourism.jp/spot/detail_14787.html
最終更新日: 2026.08.10