鹿留発電所うそぶき水路吐口部:富士山麓に残る大正時代の水力発電遺産

山梨県富士吉田市の丘陵斜面にひっそりとたたずむ鹿留発電所うそぶき水路吐口部(ししどめはつでんしょうそぶきすいろはきぐちぶ)は、大正7年(1918年)に竣工した石造の水路施設です。平成9年(1997年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの構造物は、河口湖の水を水力発電に活用するために築かれ、100年以上にわたって現役で稼働し続けています。富士山の麓という雄大な自然の中で、近代日本の電力開発の歴史を静かに物語る貴重な産業遺産です。

うそぶき水路吐口部とは

うそぶき水路吐口部は、河口湖の水を宮川へと導き、下流に位置する鹿留発電所で水力発電に供するための水路の放水口部分です。明治44年(1911年)に着工し、大正7年(1918年)に竣工・通水されました。斜面の中腹に石造の坑口(トンネルの出口)を設け、そこから斜面を開渠(屋根のない水路)で水を流下させる構成となっています。

構造は石造で、延長72.8メートル、石造水路坑口が附属しています。呑口部(河口湖側の取水口)と同様に、石積みの構法等に大正時代の特徴がよく表れており、長い年月を経て周囲の景観に美しく溶け込んでいます。

なぜ登録有形文化財に登録されたのか

鹿留発電所うそぶき水路吐口部は、平成9年(1997年)11月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は19-0020、登録基準は「造形の規範となっているもの」です。

文化庁の解説によれば、この吐口部は呑口部と同様に石積みの構法等に時代の特徴が現れており、大正期の土木構造物として優れた造形を示していることが評価されました。また、竣工から100年以上が経過する中で周囲の自然景観と見事に調和し、産業遺産としての風格を備えている点も高く評価されています。

登録有形文化財制度は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正により創設されました。急速な都市化や生活様式の変化により、評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている近代の建造物を幅広く保護することを目的としています。うそぶき水路吐口部は、この制度が守ろうとする近代産業遺産の好例です。

鹿留発電所と桂川水系の水力発電の歴史

鹿留発電所は大正3年(1914年)4月に運用を開始し、現在は最大出力18,400kW、発電機3基を擁する水力発電所です。もともと桂川電力株式会社によって建設され、その後、東京電燈株式会社、日本発送電株式会社、関東配電株式会社を経て、現在の東京電力株式会社(東京電力リニューアブルパワー)に引き継がれています。

富士五湖を水源とする桂川は、一年を通じて安定した水量に恵まれており、明治末期から大正時代にかけて多くの水力発電所が建設されました。桂川流域は日本における大規模水力発電発祥の地としても知られています。明治40年(1907年)には東京電燈株式会社が当時日本最大の駒橋発電所(15,000kW)を建設し、55,000ボルトの高電圧で東京へ送電を開始しました。鹿留発電所はこれに続く大規模施設として、16,800kWの出力で京浜工業地帯へ77,000ボルトで送電を開始しました。

鹿留発電所で使用された水車はドイツのフォイト社から輸入されたもので、70年以上にわたって稼働し続け、昭和60年(1985年)に新しい設備に交換されました。

うそぶき水路の全体像:呑口部と吐口部

うそぶき水路は、河口湖側の取水口である呑口部(のみくちぶ)と、富士吉田市側の放水口である吐口部(はきぐちぶ)の2つの登録有形文化財から成り立っています。

呑口部は河口湖の湖畔に位置し、水溜をつくり水位を調節する形式で設計されています。護岸に用いられた石積みの構法は当時の特徴をよく表しています。最大放水能力は毎秒約8トンで、発電用水の確保だけでなく、自然に流出する河川を持たない河口湖の水位調整にも重要な役割を果たしてきました。昭和57年(1982年)・58年(1983年)の台風被害による河口湖の増水を受け、平成6年(1994年)には新たなうそぶき治水トンネルも建設されています。

吐口部は富士吉田市の丘陵地に位置し、トンネルから出た水が開渠を通じて斜面を流下していく様子を見ることができます。石造の坑口と水路壁面は、大正期の水利工学の丁寧な職人技を今に伝えています。

見どころと魅力

うそぶき水路吐口部は稼働中の施設であるため金網のフェンスに囲まれていますが、隣接する公道からその姿を鑑賞することができます。

最大の見どころは、100年以上の歳月を経てなお健在な大正時代の石造技術です。トンネル坑口や開渠の壁面に見られる丁寧な石積みは、日本の近代水力発電開発期における高い技術水準を物語っています。石の目地や水路壁面の仕上げに、当時の職人たちの確かな技を読み取ることができます。

また、長い年月を経て周囲の植生に包まれた姿は、産業インフラと自然が美しく融合した景観を生み出しています。特に秋には紅葉が古い石造物を鮮やかに彩り、地元では知る人ぞ知る紅葉スポットとしても親しまれています。

富士山の麓というロケーションも大きな魅力です。古来より信仰と自然の対象であった富士山の懐で、近代日本の産業化を支えた水力発電インフラを体感できるという、他にはない文化体験が待っています。

周辺情報

うそぶき水路吐口部が位置する富士吉田市は、富士山エリアへの玄関口として多くの文化的・自然的見どころに恵まれています。

  • 新倉山浅間公園・忠霊塔:富士山、五重塔、桜を一枚の写真に収められる日本屈指のビュースポット。吐口部から約2km。海外からの観光客にも絶大な人気を誇ります。
  • 北口本宮冨士浅間神社:富士山北口登山道の起点として知られる壮大な神社。樹齢数百年の杉並木に囲まれた境内は荘厳な雰囲気に包まれています。
  • ふじさんミュージアム:富士山の歴史・文化・自然を体感できる博物館。屋上展望スペースから富士山を一望できます。
  • 河口湖(うそぶき水路呑口部):もうひとつの登録有形文化財である水路呑口部を訪れることができます。湖畔の温泉や美術館巡りも楽しめます。
  • 吉田のうどん:富士吉田名物の太くてコシの強いうどん。市内に多数の店舗があり、地元ならではの味覚を堪能できます。
  • 富士急ハイランド:絶叫マシンで有名な遊園地。富士吉田駅からすぐのアクセスです。

季節ごとの楽しみ

春(4月)は周辺の桜が見頃を迎え、新倉山浅間公園の桜まつりなど華やかなイベントが開催されます。夏(7~8月)は富士山の登山シーズンで、エリア全体が活気に満ちます。秋(10~11月)は吐口部周辺の紅葉が特に美しく、歴史ある石造物と鮮やかな紅葉のコントラストを楽しめるおすすめの季節です。冬は空気が澄み、冠雪した富士山の壮大な姿を市内各所から堪能できます。

アクセス

うそぶき水路吐口部は富士吉田市旭地区に位置しています。最寄りのバス停は「遊覧船・ロープウェイ入口」で、そこから徒歩約1分です。富士急行線富士吉田駅からは路線バスまたはタクシーでアクセスできます。車の場合は中央自動車道の河口湖インターチェンジまたは富士吉田西桂スマートインターチェンジが最寄りです。

なお、水路吐口部は東京電力が所有する稼働中の施設であり、敷地内は安全柵に囲まれています。隣接する道路から石造の坑口や水路の景観をご覧いただけます。

Q&A

Qうそぶき水路吐口部の中に入って見学できますか?
Aうそぶき水路吐口部は東京電力が所有する稼働中の施設であり、安全柵で囲まれているため敷地内には立ち入れません。隣接する公道から石造の坑口や開渠を眺めることができます。周辺は散策や紅葉狩りに適した場所です。
Qうそぶき水路の「呑口部」と「吐口部」の違いは何ですか?
A呑口部(のみくちぶ)は河口湖側にある取水口で、湖から水をトンネル水路に取り込む部分です。吐口部(はきぐちぶ)は富士吉田市側にある放水口で、トンネルから出た水を開渠で斜面を流下させる部分です。いずれも登録有形文化財に登録されており、大正時代の石積み技術が見られます。
Q入場料はかかりますか?
A入場料はかかりません。公道からの外観見学は自由です。ただし、安全柵を越えて敷地内に立ち入ることはできませんのでご注意ください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A秋(10月下旬~11月中旬)が特におすすめです。周囲の木々が美しく色づき、歴史ある石造物と紅葉のコントラストを楽しめます。春も桜の季節で富士吉田エリア全体が華やかになる良い時期です。
Q外国語対応はありますか?
A吐口部の現地には外国語の案内板はありません。ただし、富士吉田市や河口湖周辺エリアは外国人観光客の受け入れ体制が整っており、多言語の案内表示や観光案内所、英語対応のスタッフがいる施設が多数あります。

基本情報

名称 鹿留発電所うそぶき水路吐口部(ししどめはつでんしょうそぶきすいろはきぐちぶ)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録番号 19-0020
登録年月日 平成9年(1997年)11月5日
登録基準 造形の規範となっているもの
種別 生活関連 / 土木構造物
時代 大正(大正7年 / 1918年竣工)
構造及び形式 石造、延長72.8m、石造水路坑口附属
所在地 山梨県富士吉田市旭5-2457-1、5-2462-1、5-4636-1
所有者 東京電力株式会社
アクセス 最寄りバス停「遊覧船・ロープウェイ入口」より徒歩約1分/富士急行線富士吉田駅よりバスまたはタクシー
入場料 無料(外観見学のみ)

参考文献

鹿留発電所うそぶき水路吐口部 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/168831
国指定文化財等データベース – 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000346
鹿留発電所嘯水路呑口部 – 河口湖.net
https://kawaguchiko.net/cultural-assets/usobuki-suiro/
東京電力 鹿留発電所 – kei-zu.com
https://www.kei-zu.com/soden/shishidome_ps/shishidome_ps.html
登録有形文化財(建造物) – 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html

最終更新日: 2026.03.25