横山酒造店店舗:南部町のY字路に佇む大正時代の看板建築

山梨県南巨摩郡南部町の中心街、Y字路の三角形敷地に建つ横山酒造店店舗は、大正時代に建てられた木造3階建の店舗兼住宅です。擬石仕上げの重厚な外壁と曲線を用いたパラペット風のデザインが特徴の「看板建築」として、2016年(平成28年)8月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。和洋折衷の意匠が調和した、大正から昭和初期の建築文化を今に伝える貴重な建物です。

横山酒造店の歴史

横山酒造店は、甲斐国の南端に位置する南部町で、大正6年(1917年)に初代・横山和一氏によって創業されました。代表銘柄「日の出菊(ひのでぎく)」は、山紫水明の美しい自然環境の中で育まれた、味・コク・香りの三拍子揃った日本酒として知られています。

店舗併用住宅は創業の前年、大正5年(1916年)頃に木造2階建として建てられました。かつては酒の醸造も行っており、西側裏手に近接する大きな敷地に工場がありました。昭和28年頃の前面道路拡幅により敷地および建物の前面が削られたため、面積を補うべく3階を増築し全面的に改修。当時は多くの家族や使用人もおり、部屋数が必要であったとされています。さらに昭和30年代には西側1間分を増築し、その後も台所の改修や、昭和47年頃の火災に伴う2〜3階の天井張替え、昭和50年代の浴室改修など、幾度もの改修を経て現在の姿となりました。

登録有形文化財としての価値

横山酒造店店舗が登録有形文化財に登録された理由には、いくつかの建築的特徴が挙げられます。

まず、街路に挟まれた三角形の変形敷地にほぼ一杯に建てられているという立地の特異性があります。東および南側の道路に沿った外壁は擬石仕上げで石造風に見せ、上端は曲線を用いたパラペット風に仕上げられています。これはいわゆる「看板建築」と呼ばれるスタイルで、木造建築の正面に西洋建築風の平坦なファサードを施す、大正から昭和初期に流行した建築様式です。

内部の意匠も見どころのひとつです。1階のミセ(店舗部分)から続く居間は町屋風に木柄の太い柱や梁を見せる造りですが、奥の座敷から浴室にかけては数寄屋風の意匠が施され、漆喰塗りの廊下天井には洋風のデザインも取り入れられています。3階屋根は入母屋造桟瓦葺ですが、軒先の蛇腹などにも洋風の意匠が見られます。

増改築を繰り返しているにもかかわらず各部の狂いが少なく、変形部分もよく納められている点、また外壁や天井照明回りなどの左官仕事が優れている点も高く評価されています。

見どころ・魅力

看板建築のファサード

看板建築とは、木造建築の正面に板状の垂直な壁面を立ち上げ、西洋建築風の外観に仕上げる日本独自の建築スタイルです。横山酒造店店舗では、擬石仕上げの外壁と優雅な曲線を描くパラペットが、大正時代のモダンな感性を伝えています。Y字路に面した特徴的な外観は、通りを歩く人の目を引きます。

和洋折衷の室内空間

建物の内部は、和と洋がほどよく融合した空間です。1階は江戸時代以来の商店の造りを受け継ぐ町屋風の空間で、太い柱と梁が印象的です。一方、廊下の天井には洋風の明かり取りが設けられ、浴室の天井は自然の素材を用いた数寄屋風と、場所ごとに異なる意匠を楽しむことができます。

三角形の敷地と建築の妙

Y字路に挟まれた三角形という変則的な敷地形状は、この建物ならではの個性を生み出しています。103平方メートルの敷地をほぼ余すことなく活用した建物は、複数の角度からその姿を楽しむことができ、大正時代の建築技術の高さを感じさせます。

南部町について

南部町は山梨県の最南端に位置し、日本三大急流のひとつ富士川が町の中央を流れる自然豊かな町です。陸奥国の南部氏の発祥地として知られ、江戸時代には駿州往還の宿場町として、また富士川舟運の中継基地として栄えました。

2018年にオープンした道の駅「なんぶ」では、南部町の特産品である南部茶をテーマにしたオリジナル商品や地元の新鮮な農産物を楽しめるほか、南部氏の歴史を紹介する展示室も設けられています。温暖な気候と豊かな自然に恵まれた南部町は、登山やハイキング、渓流釣りなどのアウトドア活動も盛んです。

周辺情報

  • 最恩寺:南部町にある臨済宗の寺院で、仏殿が国の重要文化財に指定されています。宋時代の唐様式を伝える貴重な建築物です。
  • 南部の火祭り:毎年8月15日に富士川沿いで開催される夏祭り。投松明や百八たいなどの火の行事と花火が壮観です。
  • 道の駅なんぶ:南部茶をテーマにしたオリジナル商品や地元グルメが楽しめる複合施設。中部横断自動車道の南部ICに隣接しています。
  • なんぶの湯:アルカリ性硫黄泉の日帰り入浴施設。広々とした露天風呂でのんびりと過ごせます。
  • 福士川渓谷:紅葉の名所として知られ、秋にはモミジやカエデが美しく色づきます。東海自然歩道が整備されており、ハイキングにも最適です。
  • 近藤浩一路記念美術館:アルカディア文化館内にある美術館。南部町出身で現代水墨画の創始者ともいわれる近藤浩一路の作品を常設展示しています。
  • うつぶな公園:山梨県の花の名所に指定されており、6月には約3万株のあじさいが咲き誇ります。

Q&A

Q横山酒造店店舗の内部は見学できますか?
A横山酒造店店舗は個人所有の店舗兼住宅であり、一般公開は行われていません。外観はY字路の交差点から自由にご覧いただけます。擬石仕上げのファサードや曲線を用いたパラペットなど、登録有形文化財としての見どころは外観からも十分に楽しむことができます。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A電車の場合、JR東海道新幹線で静岡駅まで行き、JR身延線に乗り換えて内船駅(うつぶなえき)で下車してください。特急「ふじかわ」を含む全列車が停車します。お車の場合は、中部横断自動車道の南部ICをご利用ください。国道52号線沿いに位置しています。
Q看板建築とはどのような建築様式ですか?
A看板建築は、木造建築の正面に板状の垂直な壁面(ファサード)を設け、西洋建築風の外観に見せる日本独自の建築スタイルです。主に関東大震災(1923年)後の復興期に東京を中心に広まり、その後地方にも波及しました。銅板やタイル、モルタルなどの不燃材料で外壁を覆うことで、近代的で防火性のある印象を与えつつ、内部は伝統的な木造構造を維持しています。
Q「日の出菊」の日本酒は購入できますか?
A「日の出菊」は横山酒造店の代表銘柄です。在庫状況は時期により異なりますので、現地でお問い合わせください。道の駅「なんぶ」や南部町内の商店でも取り扱いがある場合があります。
Q南部町を訪れるのに最適な季節はいつですか?
A南部町は四季を通じて楽しめます。春(3月下旬〜4月)は樹齢600年以上の千年桜をはじめとする桜の名所が見頃を迎えます。6月にはうつぶな公園で約3万株のあじさいが咲き誇ります。8月15日には南部の火祭りが開催されます。秋(10月下旬〜11月下旬)は福士川渓谷の紅葉が美しい季節です。山梨県で最も標高が低い地域のため、冬も比較的温暖に過ごせます。

基本情報

名称 横山酒造店店舗(よこやましゅぞうてんてんぽ)
文化財区分 登録有形文化財(建造物) — 平成28年(2016年)8月1日登録
建築年代 大正5年(1916年)頃/昭和28年(1953年)・昭和30年(1955年)増築
構造 木造3階建、瓦葺、建築面積103㎡
建築様式 看板建築(擬石仕上げ外壁)
所在地 山梨県南巨摩郡南部町南部8255
最寄り駅 JR身延線 内船駅(うつぶなえき)※特急「ふじかわ」を含む全列車停車
代表銘柄 日の出菊(ひのでぎく)
所有者 個人

参考文献

横山酒造店店舗 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/295249
横山酒造店店舗 — 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011132
山梨の文化財ガイド 登録有形文化財 TY0078 — 山梨県
https://www.pref.yamanashi.jp/bunka/bunkazaihogo/bunkazai_data/yamanashinobunkazai_ty0078.html
第9回「横山酒造店」— やまなし レトロモダン 風景の中の歴史遺産(YBS山梨放送)
https://www.ybs.jp/retro/2016/05/31/第9回「横山酒造店」(南部町)/
有限会社横山酒造店 — SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/sakagura/yamanashi/yokoyamashuzoten
有限会社横山酒造店 — Sakenomy
https://www.sakenomy.jp/brewery/K01N019012/
南部町観光ページ — 南部町公式サイト
https://www.town.nanbu.yamanashi.jp/kankou/

最終更新日: 2026.03.27