弘化4年、敷地の中央に建つ土蔵

旧長江八兵衛商店座敷蔵(きゅうながえはちべえしょうてんざしきぐら)は、秋田県横手市増田町増田字中町66にある弘化4年(1847年)建造の土蔵造2階建で、平成22年(2010年)9月10日に国の登録有形文化財(建造物)となった建物です。

増田の商家は、通りに面した間口が狭く、奥に長く延びる短冊形の敷地を持ちます。この敷地も東西に細長く、座敷蔵はその中央に、棟を東西に向けて建っています。出入口は妻側にあり、いわゆる妻入です。規模は桁行15メートル、梁間5.9メートル、建築面積152平方メートル。

この面積には外側を覆う鞘(さや)が含まれます。鞘は土蔵の周囲をすっぽり包む上屋で、ここでは切妻造・鉄板葺。日本有数の豪雪地である増田では、漆喰壁を雪と融雪水から守るためにこの覆いが欠かせません。主屋の奥に組み込まれ、鞘に包まれたこうした蔵を、地元では内蔵(うちぐら)と呼びます。

外観は黒漆喰と白漆喰を塗り分けています。左官が下地から幾度も塗り重ね、乾かしては重ねる手順を季節をまたいで繰り返した仕事です。

「造形の規範となっているもの」として登録

建造物の文化財保護には、国宝や重要文化財を生む「指定」と、平成8年(1996年)に始まった「登録」の二本立てがあります。登録は築およそ50年以上の建物を対象とし、所有者の改修や活用の自由度を大きく残したまま届出制で保護する仕組みです。増田の蔵の多くはこの登録制度で守られてきました。

旧長江八兵衛商店座敷蔵の登録番号は05-0182、第68回登録。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」です。同じ敷地の西端に建つ旧長江八兵衛商店味噌蔵は、その1年前に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という別の基準で登録されました。ひとつの屋敷の中で、蔵ごとに評価の観点が分かれている点は覚えておく価値があります。

「規範」とされた理由のひとつは年代でしょう。横手市の調査によれば、増田の内蔵のうち座敷間を備えた座敷蔵はおよそ65パーセントを占めますが、この形式が増えるのは明治に入ってからで、商家の経営が肥大し、住み込みの奉公人を含めた大所帯の中に当主家族の私的空間が必要になったことが背景にあるとされます。江戸期の土蔵は什器や証文を納める文庫蔵が大半でした。弘化4年という年代で、1階西寄りに畳敷の居室を間仕切り、トコとトコ脇を構える蔵は、類例の中で早い部類に入ります。

ただし断定は避けたいところです。登録記録が示すのは蔵そのものの建造年であり、内部の座敷がいつ整えられたかまでは書かれていません。市の調査も、文庫蔵を後年に座敷蔵へ改装した例が多いと述べています。

周辺の状況も添えておきます。平成25年(2013年)12月27日、この一帯は「横手市増田伝統的建造物群保存地区」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。種別は在郷町、面積は約10.6ヘクタール、範囲は本町・田町・中町・七日町の各一部で、秋田県では仙北市角館に次ぐ2件目です。中町66はこの範囲に含まれます。

見学できるもの、できないもの

先に実際的なことを書きます。旧長江八兵衛商店座敷蔵は個人の所有で、公開されていません。横手市が示す公開施設の一覧にも、増田町観光協会が案内する伝統的建造物の一覧にも、この建物は載っていません。1階の畳敷の居室、トコとトコ脇、漆塗の柱、古風な梁組といった内部の意匠は、登録記録の上で確認できるにとどまります。

とはいえ増田は、一軒ではなく町並み全体を読む場所です。約400メートルの通り沿いに40棟前後の内蔵が残り、そのうち十数軒が有料または予約制で内部を見せています。起点になるのは中町103の観光物産センター「蔵の駅」(旧石平金物店)で、市に寄贈された商家をそのまま案内所兼物産販売所としたもの。各種案内では通年9時から17時まで、入館無料とされていますので、出かける前に最新情報を確認してください。県内でも珍しい木造3階建の旧石田理吉家も、市所有の公開物件です。

個人所有の建物の見学可否は年によって変わります。問い合わせ先は増田の町並み案内所「ほたる」(増田町増田字上町53番地、増田町観光協会、電話0182-45-5541)。毎年10月には、普段は閉じている蔵が一斉に開く「蔵の日」が開かれます。日程を合わせられるなら、この日が最良です。

アクセスは、JR奥羽本線十文字駅から車またはタクシーで約10分。羽後交通のバスなら「増田蔵の駅前」停留所が中町66に最も近い停留所です。撮影については、公道から町並みを撮る分に支障はありません。個人宅の内部や敷地内は別で、必ず断りを入れてください。

もうひとつ。増田の朝市は寛永20年(1643年)から続き、2・5・9のつく日に立ちます。中七日町通りには「くらしっくロード」という愛称もあります。

Q&A

Q旧長江八兵衛商店座敷蔵の内部は見学できますか。
Aできません。個人所有で、横手市および増田町観光協会が案内する公開物件の一覧に含まれていません。増田では他に十数軒が蔵を公開しています。どの家がどんな条件で見せているかは、増田の町並み案内所「ほたる」(電話0182-45-5541)にお問い合わせください。
Q旧長江八兵衛商店座敷蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A建造は弘化4年(1847年)、江戸時代後期です。登録有形文化財(建造物)としての登録・告示は平成22年(2010年)9月10日、第68回登録で、登録番号は05-0182です。
Q旧長江八兵衛商店座敷蔵の「座敷蔵」とはどのような蔵ですか。
A内部に床の間付きの座敷間を設けた土蔵を指します。一般には1階が手前の板の間と奥の座敷間の2室構成、2階は板の間1室です。この蔵も1階西寄りに畳敷の居室を間仕切り、トコとトコ脇を備え、柱を漆塗としていると登録記録に記されています。
Q旧長江八兵衛商店座敷蔵へはどう行けばよいですか。
AJR奥羽本線十文字駅からタクシーまたは羽後交通のバスで増田方面へ約10分です。中町66に最も近い停留所は「増田蔵の駅前」です。
Q旧長江八兵衛商店座敷蔵の周辺には何がありますか。
A同じ通り沿いの中町103に観光物産センター「蔵の駅」があり、木造3階建の旧石田理吉家も公開されています。地区の北側には横手市増田まんが美術館があります。増田の見どころはおおむね徒歩圏内に収まっています。

基本情報

名称旧長江八兵衛商店座敷蔵(きゅうながえはちべえしょうてんざしきぐら)
所在地秋田県横手市増田町増田字中町66
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号05-0182
指定年平成22年(2010年)9月10日登録・告示(第68回)
員数1棟
寸法桁行15メートル、梁間5.9メートル、建築面積152平方メートル、土蔵造2階建、鉄板葺
所有者個人(国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。問い合わせは増田の町並み案内所「ほたる」電話0182-45-5541

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 旧長江八兵衛商店座敷蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008246
文化遺産オンライン — 旧長江八兵衛商店座敷蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168668
横手市 — 増田の内蔵豆知識
https://www.city.yokote.lg.jp/masuda/1003586.html
横手市 — 伝統的建造物の公開情報
https://www.city.yokote.lg.jp/masuda/1001614/index.html
横手市 — 横手市増田伝統的建造物群保存地区
https://www.city.yokote.lg.jp/shisei/1001176/1001457/1003243.html
増田町観光協会 — まちなみと内蔵
https://masuda-matta.com/uchigura/

最終更新日: 2026.08.11