敷地のいちばん奥に建つ小さな蔵

旧長江八兵衛商店味噌蔵(きゅうながえはちべえしょうてんみそぐら)は、秋田県横手市増田町増田字中町66にある明治前期建造・大正期改修の土蔵造2階建で、平成21年(2009年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)となった建物です。

規模は桁行8.2メートル、梁間5.5メートル、建築面積53平方メートル。棟は東西に向き、屋根は切妻造の金属板葺です。敷地は増田の商家に多い東西に細長い短冊形で、この蔵はその西端、つまり店先から最も奥まった位置に建ちます。敷地は東と北の二方で道に接しています。

増田の町家は、通りに面した店舗兼住居、そこから裏まで一直線に延びる土間の「トオリ」、敷地中央の内蔵、そして奥の働く建物、という順で並びます。味噌蔵はその最後尾にあたります。

登録名に残る「長江八兵衛商店」は商家の屋号ですが、何を商った家であったかは国指定文化財等データベースには書かれていません。

景観への寄与という登録理由

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まり、築およそ50年以上の建物を三つの登録基準のいずれかで受け止めます。旧長江八兵衛商店味噌蔵に適用されたのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号05-0171、第65回登録で、登録年月日は平成21年(2009年)11月2日、告示は同年11月19日です。

この基準の選び方には注目したいところがあります。同じ敷地の中央に建つ弘化4年(1847年)の旧長江八兵衛商店座敷蔵は、約10か月後に「造形の規範となっているもの」という別の基準で登録されました。座敷蔵はそれ自体の造形が、味噌蔵は町並みの中で果たす役割が評価されたことになります。同一の屋敷内で、蔵ごとに評価の切り口が分かれています。

その町並み自体も、平成25年(2013年)12月27日に「横手市増田伝統的建造物群保存地区」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。種別は在郷町、面積約10.6ヘクタール、範囲は本町・田町・中町・七日町の各一部で、秋田県では角館に次ぐ2件目です。東と北の二方から見える角地の蔵は、この種の景観を支える役割が小さくありません。

年代については注意が要ります。データベースの記載は「明治前期/大正期改修」で、幅を持った表記です。同じ敷地の座敷蔵が弘化4年と一年まで特定されているのとは対照的に、この蔵には確定した建造年がありません。

扉を読む

東の妻面にはトマエが付きます。蔵の入口の前に設けられる前室で、戸口に直接雪や雨が当たるのを防ぐ空間です。見どころはそこに吊られた扉のほうにあります。掛子塗(かけごぬり)三段の土扉。扉と枠を三段の段欠きに刻み、閉めると互いに噛み合う形にしたうえで、その上から土と漆喰を塗り込めたものです。段のひとつひとつが関門になり、隣家の火事の煙や熱は三度向きを変えなければ内部に届きません。土蔵が備えたのは盗難よりもまず火災への守りで、木造の店が軒を連ねる町では、よくできた扉が保険そのものでした。

面白いのはその位置です。扉は妻面の中心ではなく、中心からずらして吊られています。左右対称を捨てた代わりに、荷の出し入れや内部の使い方の都合を優先したのでしょう。

内部は1階・2階とも一室と登録記録にあります。この素っ気なさには理由があります。横手市は増田の土蔵を床の造りで分けており、板張りで履物を脱いで上がる蔵は什器や証文、座敷を収める内蔵、土間で履物のまま入る蔵は味噌・米・囲い資材などを納める働く蔵、と整理しています。味噌蔵は後者です。木桶で味噌を仕込むには涼しく安定した温度と、水を流せる床が要ります。畳では務まりません。

もうひとつ、登録記録は小屋架構がこの地域の古い形式を残していると記します。小屋組は普段誰の目にも触れず、それゆえ改修の手も入りにくい部分で、建物の年代を測る手掛かりになります。

見学について。旧長江八兵衛商店味噌蔵は個人所有で公開されていません。横手市の公開施設一覧にも増田町観光協会が案内する伝統的建造物の一覧にも含まれていません。増田では他に十数軒が蔵を公開しており、有料のものも予約制のものもあります。まず訪ねるなら中町103の観光物産センター「蔵の駅」(旧石平金物店)。各種案内では通年9時から17時まで入館無料とされますが、出発前に確認してください。個人所有の建物の見学可否は、増田の町並み案内所「ほたる」(増田町増田字上町53番地、増田町観光協会、電話0182-45-5541)へ。毎年10月には普段閉じている蔵が一斉に開く「蔵の日」があります。

アクセスはJR奥羽本線十文字駅から車または羽後交通のバスで約10分、中町66に最も近い停留所は「増田蔵の駅前」です。公道からの町並み撮影に支障はありませんが、個人宅の敷地内と内部は事前に許可を得てください。

Q&A

Q旧長江八兵衛商店味噌蔵は見学できますか。
A個人所有で公開されていません。横手市および増田町観光協会が案内する公開物件の一覧に含まれていません。増田では他に十数軒が蔵を公開していますので、条件は増田の町並み案内所「ほたる」(電話0182-45-5541)にお問い合わせください。
Q旧長江八兵衛商店味噌蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A国指定文化財等データベースの記載は「明治前期/大正期改修」で、建造年は一年に特定されていません。登録有形文化財(建造物)としての登録年月日は平成21年(2009年)11月2日、告示は同年11月19日、第65回登録、登録番号05-0171です。
Q旧長江八兵衛商店味噌蔵は同じ敷地の座敷蔵とどう違いますか。
A用途も登録の理由も異なります。弘化4年(1847年)の座敷蔵は畳敷の居室とトコを備え「造形の規範となっているもの」として登録されました。味噌蔵は土間で1階・2階とも一室、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」としての登録です。一方は家族のための蔵、一方は家業のための蔵でした。
Q旧長江八兵衛商店味噌蔵の「掛子塗三段の土扉」とは何ですか。
A扉と枠を三段の段欠きに刻んで噛み合わせ、その上を土と漆喰で塗り込めた防火扉です。段が煙や熱の通り道を遮ります。この蔵では扉が妻面の中心からずらして吊られている点も特徴です。
Q旧長江八兵衛商店味噌蔵へのアクセスを教えてください。
AJR奥羽本線十文字駅からタクシーまたは羽後交通のバスで増田方面へ約10分です。中町66に最も近い停留所は「増田蔵の駅前」で、重要伝統的建造物群保存地区の範囲内にあります。

基本情報

名称旧長江八兵衛商店味噌蔵(きゅうながえはちべえしょうてんみそぐら)
所在地秋田県横手市増田町増田字中町66
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号05-0171
指定年平成21年(2009年)11月2日登録、同年11月19日告示(第65回)
員数1棟
寸法桁行8.2メートル、梁間5.5メートル、建築面積53平方メートル、土蔵造2階建、金属板葺
所有者個人(国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。問い合わせは増田の町並み案内所「ほたる」電話0182-45-5541

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 旧長江八兵衛商店味噌蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007836
文化遺産オンライン — 旧長江八兵衛商店味噌蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/120907
横手市 — 増田の内蔵豆知識
https://www.city.yokote.lg.jp/masuda/1003586.html
横手市 — 伝統的建造物の公開情報
https://www.city.yokote.lg.jp/masuda/1001614/index.html
横手市 — 横手市増田伝統的建造物群保存地区
https://www.city.yokote.lg.jp/shisei/1001176/1001457/1003243.html
文化庁 — 重要伝統的建造物群保存地区 横手市増田 概要(PDF)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/94105901_06.pdf

最終更新日: 2026.08.11