國萬歳酒造室 ― 酒の起点となる麹をつくる建物

すべての酒は生き物から始まる。米が発酵する前に、麹と呼ばれる菌を蒸した米に生やし、澱粉を糖へと変える必要がある。國萬歳酒造でその工程を担うのが室、すなわち麹室である。主屋の中央背面に位置し、酛場と平行して建てられる。建築面積は約112平方メートルで、酒造に残る七棟の登録建物のうち最も小さい。

小規模であることには理由がある。麹づくりには温もりと安定した湿度が要り、室は熱を保つよう小さくつくられる。桁行七間、梁間四間の木造平屋建で、壁は真壁造の漆喰塗とし、木の軸組を見せる。他と異なるのは壁の頂部だ。漆喰塗の構造の上に、イギリス積による低い煉瓦壁を載せている。

登録の理由と価値

室は登録有形文化財、登録番号05-0125で、他の六棟とともに平成十七年(2005年)十一月十日に登録された。登録制度は平成八年(1996年)に設けられ、築五十年前後を経て周囲に寄与する建物を対象とし、重要文化財や国宝の指定よりも義務はゆるやかである。

「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録され、その価値は外観と同じく工程にある。麹づくりは以後のすべてが依存する工程であり、専用の麹室は酒造の働きを読み解くうえで欠かせない。昭和初期、昭和元年(1926年)以降の建築とされ、頂部の煉瓦壁には近代の建築技術の一片も見える。イギリス積は日本の産業化の時代に持ち込まれた標準的な煉瓦の積み方の一つで、ここでは装飾ではなく機能的な要素として用いられている。

訪ねて見るべき点

壁の頭を見上げてほしい。白い漆喰の上に載るイギリス積の煉瓦の帯は見落としやすいが、室の年代と移入技術への負い目を、一つの細部のうちに示している。室の傍らに、これと平行して建つのが酛場である。二棟を並べて見れば、酒造が麹菌、次いで酵母という二つの微生物の段階を、それぞれ入念に建てた空間に分けていたことが分かる。

酒造は今も稼働し、新屋では毎季麹がつくられている。國萬歳酒造から続く秋田酒造株式会社は、近隣の直売店「酒蔵酔楽天」で予約制の見学と販売を行っており、このような部屋から始まる酒を味わえる。飲み手がふだん目にしない工程そのものを目的とする建物は、見学を通してこそ理解できる。

Q&A

Q室は何のための建物ですか。
A蒸した米に麹菌を生やし、澱粉を糖へ変える麹づくりを行う建物です。温もりと安定した湿度を保つため、小さく熱を保つつくりになっています。
Qなぜ酒造で最も小さいのですか。
A麹づくりは暖かく安定した環境を保つことに左右されるため、小さく断熱のきいた室のほうが大きな建物より適しているからです。
Q壁上部の煉瓦は何ですか。
Aイギリス積による低い煉瓦の帯です。長手の段と小口の段を交互に積む移入の様式で、漆喰壁の頂部を覆い、室の年代を近代の産業化期に位置づけます。
Q酛場とはどのような関係ですか。
A室は主屋背面で酛場と平行して建ちます。二棟は麹菌、次いで酵母という相次ぐ微生物の段階を、それぞれ専用の空間で担っていました。
Q内部を見学できますか。
A稼働中の酒蔵の一部のため、自由な立ち入りではなく、秋田酒造が近隣で行う予約制の見学を通して見るのが適しています。

基本情報

名称國萬歳酒造室(くにばんざいしゅぞうむろ)
所在地秋田県秋田市新屋元町142他
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号05-0125
登録年月日平成17年(2005年)11月10日
員数1棟
年代昭和初期(1926年以降)
構造木造平屋建、真壁造漆喰塗、頂部にイギリス積煉瓦壁、建築面積約112平方メートル
所有者秋田酒造株式会社
公開状況稼働中の酒蔵。内部は近隣の直売店「酒蔵酔楽天」からの予約制見学で見学可。

参考文献

国指定文化財等データベース — 國萬歳酒造室
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004901
文化遺産オンライン — 國萬歳酒造室
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/142171
美の国あきたネット — 國萬歳酒造の登録
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/1033

最終更新日: 2026.07.10