國萬歳酒造酛場 ― 文庫蔵から酒母を育てる蔵へ

酒蔵の建物がすべて酒造のために建てられたわけではない。國萬歳酒造酛場は、もとは文書や貴重品を守る文庫蔵として建てられ、のちに酒母を培養する蔵という新たな役割を担った。主屋の北側背面に建ち、酒造の登録建物のうち唯一の二階建土蔵である。

明治四十一年(1908年)の建築で、桁行七間、梁間三間、建築面積約74平方メートルの小ぶりな土蔵造。切妻造の妻入で、鋼板葺の屋根を架ける。酒母は、本仕込みに加える前に酵母を増やす小さく濃密な培養で、これを収める蔵は大きくある必要がない。厚い壁を備えた堅牢な旧文庫蔵は、酒造が用途を転じた際、この務めによく適していた。

登録の理由と価値

酛場は登録有形文化財、登録番号05-0124で、平成十七年(2005年)十一月十日に一括登録された酒造の七棟の一つである。平成八年(1996年)に築五十年前後の建物を対象として設けられた登録制度は、重要文化財や国宝の指定に比べてゆるやかな保護を与える。

「造形の規範となっているもの」の基準で登録され、その理由は正面入口にある。扉廻りは、酒造の古い蔵に共通する装飾を保っている。周囲を門構風に盛り上げ、上部に眉形の繰形を付す、熟練の左官の仕事である。同じ手間が仕込蔵だけでなく転用された文庫蔵にも払われていることは、一族が敷地全体を街路に向けてどれほど一貫して整えたかを示している。

訪ねて見るべき点

酛場は二つの見方に応える。第一にその形だ。敷地内で唯一の二階建土蔵として、周囲の長い平屋の仕込蔵とは異なる姿を見せ、堅牢な蔵であった出自を思い起こさせる。第二にその扉であり、盛り上げた門構風の扉廻りと眉形の繰形は南仕込蔵に呼応し、後の北仕込蔵にも再び現れて、建物群を一つの視覚的な一族へと結んでいる。

その装飾された扉の奥で、今も酒造の酒のために酵母が育まれている。國萬歳酒造の後身である秋田酒造株式会社は、近隣の直売店「酒蔵酔楽天」で販売と予約制の見学を行っており、その成果を味わえる。文庫蔵が酛場へと転じた姿は、長く続く酒蔵が建物を建て替えるのではなく使いこなしてきた歩みを、小さく教えている。

Q&A

Q酛場は今、何に使われていますか。
A酒母を培養する蔵として使われています。酒母は本仕込みに加える前に酵母を増やす、小さく濃密な培養です。
Qもとは何の建物でしたか。
A文書や貴重品を守る文庫蔵でした。厚く堅牢な壁が、酒造が酛場へと用途を転じた際によく適していました。
Q他の蔵とどこが違いますか。
A酒造の登録建物のうち唯一の二階建土蔵である点です。これは仕込蔵ではなく文庫蔵として出発した出自に由来します。
Qいつ頃の建築ですか。
A明治四十一年(1908年)の建築で、南仕込蔵と同じ年代にあたり、古い蔵に共通する装飾的な扉廻りを備えています。
Q内部を見学できますか。
A稼働中の酒蔵の一部のため、内部は秋田酒造が近隣で行う予約制の見学を通して見学し、外観は街路から眺められます。

基本情報

名称國萬歳酒造酛場(くにばんざいしゅぞうもとば)
所在地秋田県秋田市新屋元町142他
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号05-0124
登録年月日平成17年(2005年)11月10日
員数1棟
年代明治41年(1908年)
構造土蔵造2階建、鋼板葺、建築面積約74平方メートル
所有者秋田酒造株式会社
公開状況稼働中の酒蔵。内部は近隣の直売店「酒蔵酔楽天」からの予約制見学で見学可。外観は街路から見学可。

参考文献

文化遺産オンライン — 國萬歳酒造酛場
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/140668
秋田酒造株式会社 — 公式サイト(秋田晴)
https://www.akitabare.jp/producer/
美の国あきたネット — 國萬歳酒造の登録
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/1033

最終更新日: 2026.07.10