洲藻白岳原始林

対馬の美津島町洲藻の集落から見上げると、深い樹林の上に白っぽい岩肌がのぞいている。白岳(しらたけ)の山頂部である。石英斑岩の岩が朝の光を受けて白く輝くことから、この名がついた。その山頂直下に広がる原始林が、大正12年(1923年)に国の天然記念物に指定された。指定の理由は景観の美しさではなく、植物にある。日本列島の植物と、アジア大陸の植物とが、これほど数多く隣り合って生える場所は、国内でもほかにない。

対馬は九州と朝鮮半島のあいだの海峡に位置し、九州本土より朝鮮半島に近い。その地理が島の植生を形づくってきた。白岳は、その結果がもっとも読み取りやすい山である。

白い岩の山

白岳は対馬の中央部、美津島町にそびえ、最高点の標高はおよそ519メートルに達する(登山案内では518メートルとする資料もある)。山体は石英斑岩という硬く白っぽい火成岩からなり、同じような白い岩肌の峰が一列に連なっている。遠くから見ると、露出した岩が樹林の濃い緑に対して白く際立ち、白岳の名にふさわしい。

山頂は二つの峰に分かれている。登山者はそれぞれを雄岳、雌岳と呼ぶ。高いほうの雄岳が本来の頂で、その隣に雌岳が立つ。二峰のあいだは、岩が露出した鞍部でつながっている。山の西面は断崖となって落ち込み、東面はゆるやかに傾斜する。保護された原始林は、この山頂部の斜面と岩の露出地に育つ。

指定は大正12年(1923年)3月7日。山頂周辺の急峻で岩がちな地形が伐採をまぬがれてきたため、原始の森がそのまま残された。天然記念物の指定は、その姿を保つためのものである。

二つの植物相が重なる

この森は、代表的な原始林であり、稀有な森林植物相をもつという基準で指定された。山頂直下の傾斜地には、アカガシ・モミ・ヒメコマツ・イスノキ・スダジイなどからなる樹林が発達する。林の下にはミヤマシキミが多い。

注目すべきは、山頂の岩の露出地に生える植物である。ここには大陸系のイワシデ、チョウセンヤマツツジ、ゲンカイツツジ、チョウセンノギクが根を下ろす。一方で、同じ山に、分布の西の端をここに置く日本系の植物が複数ある。モミ、ヒメコマツ、ミヤマシキミ、カクレミノ、ナガバノコウヤボウキは、これより西へは分布しない。

植物地理学の上で重要なのは、この重なりである。氷期の海面低下によって対馬は日本列島と大陸を結ぶ陸橋のような役割を果たし、植物が双方向に行き来した。日本系と大陸系の植物がこれほど多く共存する場所は、日本では白岳が第一とされ、植物の分布を考えるうえで貴重な土地となっている。山頂付近は、対馬の固有種シマトウヒレンの唯一の産地でもある。

山頂をめざして登る

原始林は柵で囲まれた保護区ではない。登山道沿いに広がっているため、森を見るには山に登ることになる。登山道は洲藻から始まり、片道およそ2.2キロメートル。山頂までは、多くの登山者が1時間半ほどで達する。

道の始まりはゆるやかだ。しばらくは沢沿いの歩きやすい林を進む。石の鳥居が境目となり、その先で道は原始林の領域に入る。シイやカシ、ツバキが頭上を覆う。最後の0.7キロメートルは急傾斜となり、終盤の0.4キロメートルはさらに険しく、山頂近くのむき出しの岩場にはロープが張られている。足もとには注意がいる。

登りきると視界が大きく開ける。山頂からは浅茅湾の入り組んだリアス海岸が眼下に広がり、対馬の長い尾根が南北に走る。天気がよい日には、海の向こうに朝鮮半島の山並みが姿を見せる。山頂の手前から短い枝道をたどると、登山者が岩のテラスと呼ぶ大きな岩盤に出る。展望台であり、休憩の場でもある。

白岳は古くから霊峰として崇敬されてきた。山頂近くには小さな祠があり、人々は登山参拝の習慣をもっていた。雌岳の岩峰の根もとにある岩窟は、とりわけ神聖な場とされる。山に登らない人のために、麓の洲藻集落には白岳神社があり、ここから峰を遥拝することができる。境内のイチョウの大木は、晩秋に黄金色に色づく。

対馬を訪ねる

対馬へは船か空路で渡る。福岡の博多港から高速船が出ており、厳原(いづはら)港まで2時間あまり。対馬空港には福岡・長崎からの便がある。厳原から洲藻までは車で近い。集落には登山者用の広い駐車場があり、トイレも備わる。そこから登山口までは約2.5キロメートルで、登山口には数台分の駐車スペースしかない。

登山口にも山中にもトイレや売店はないため、麓で支度をしておきたい。登山に向くのは春と秋で、春には山頂の岩場でツツジが花をつける。盛夏はスズメバチが活動するため注意したい。なお、対馬にクマはいない。

白岳は、対馬南部のほかの見どころと組み合わせやすい。近くの浅茅湾の岸には、古代の石塁が残る金田城跡があり、烏帽子岳の展望所からは湾に浮かぶ島々を見渡せる。北部の鰐浦集落は、5月初めに白い花を咲かせるヒトツバタゴの自生地として知られる。

Q&A

Q原始林に立ち入ることはできますか。
Aできます。保護された森は白岳の登山道沿いに広がっており、登山道を歩くことが森を見る通常の方法です。山頂までは片道1時間半ほど。終盤は急傾斜で、むき出しの岩場をロープを使って登るため、登山靴とある程度の体力が必要です。
Qここの植物の何が珍しいのですか。
A白岳では、日本列島の植物と大陸の植物が一つの山に共存しています。日本系の植物のうち複数がここを分布の西限とし、山頂の岩場には大陸系のイワシデなどが生育します。対馬固有のシマトウヒレンは、ここ以外では見られません。
Q登るのに適した季節はいつですか。
A春と秋が登りやすい季節です。春には山頂の岩場でツツジが咲き、空気の澄んだ日には朝鮮半島の山並みが見えることもあります。盛夏は暑く、スズメバチが山に出ます。
Q登山口へはどう行けばよいですか。
A福岡の博多港からの高速船、または対馬空港への空路で対馬に渡ります。厳原港から美津島町の洲藻集落まで車で向かい、登山者用駐車場に車をとめて登山口へ進みます。
Q山に設備はありますか。
Aトイレは洲藻の登山者用駐車場にのみあります。登山口や山頂付近にはなく、道中に売店もありません。水を持参し、麓で支度を整えてから出発してください。

基本情報

名称洲藻白岳原始林(すもしらたけげんしりん)
所在地長崎県対馬市美津島町洲藻
指定区分国指定天然記念物(大正12年〔1923年〕3月7日指定)
指定基準(二)代表的原始林、稀有の森林植物相
白岳。石英斑岩の山で標高約519メートル、双耳峰をなす
所有者
アクセス厳原港から車で洲藻集落へ。登山者用駐車場から登山口へ。山頂まで登山道は片道約2.2キロメートル
公開登山道から自由に見学可(入場料なし)。登山口・山中にトイレ・売店なし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 洲藻白岳原始林
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/2743
長崎県の文化財(長崎県) 洲藻白嶽原始林
https://www.pref.nagasaki.jp/bunkadb/index.php/view/558
対馬観光物産協会 洲藻白嶽原始林
https://www.tsushima-net.org/tourism-history/shiratake/
カッチェル対馬 白嶽トレッキング
https://kacchell-tsushima.net/trekking/shiratake
対馬感考 白く輝く、霊峰・白嶽
https://tsushima-kanko.net/nature/228

最終更新日: 2026.05.27